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懐かしいヤツ

 僅かに差し込む夕日が、薄暗い路地を照らし出す。

 日常の中にある非日常。

 そこには言葉に出来ない異質な雰囲気が漂っている。


 本来であれば一笑に付されてしまうような考え。

 しかしこの先に待つモノを考えれば、決してバカになどできないだろう。


 ある意味――悪い意味――で慣れ親しんだ気配。

 恐らく間違いない。海斗は自身の考えが正しいと感じている。


 だがここは住み慣れた街の路地裏。

 信じられない、いや信じたくない。

 どうしても認めたくない気持ちが強かった。


 だからこそ、自分の目で確認しなければならない。

 答えを知るため、海斗は一歩一歩、気配を殺しながら路地を進む。


 少し進んだ先、暗がりの中で蠢く人影。

 影に隠れ、その姿を見通すことはできない。

 目を凝らし様子を窺うと、ゴミ箱らしきモノを漁っているに見えた。


 ホームレスだろうか?

 それはそれで気まずいものがあるが、予想が当たるよりはずっと良い。


 足音を立てぬように歩き出す。

 ヤツを直接視認し、正体を知ることができる位置へ――

 移動したことで、暗がりに隠れていた姿が視界に入る。


「……ッ」


 驚き、漏れそうになる声を必死に押し殺す。

 ヤツはこちらに気付くことなく、残飯を漁り続けている。


 静かに集中し、『気配察知』で周囲の状況を確認。

 すると先程感じた気配が、ゆっくりと鵜坂の後を追っていることが分かった。


 つまり目の前にいるのは、察知した相手とは違う個体。

 しかし同種の気配。どうやら一匹増えたと言うことらしい。


 深く息を吸い込み、心を落ち着ける。

 以前であれば大したことなどない、と考えてすぐに行動していただろう。


 だがこの邂逅は約半年ぶりのものだ。

 これから行うのは久しく忘れていた行為。

 決して油断することなどできない。


 海斗は自身の右手に視線を向ける。

 その先に――頼もしく無骨なモノは存在しない。

 つまり徒手空拳で挑む必要があると言うことだ。


 不安がないと言えば嘘になる。

 だがコイツの後には、まだもう一匹。相手をすべきヤツが残っていた。


 鵜坂に接触する前にヤる必要がある。

 ならば可及的速やかに、行動を開始するべきだろう。


 視線の先には、変わらず生ゴミを漁る――緑の異形。

 何度も何度も、あのダンジョンで戦った醜悪な化け物。

 海斗の瞳は――ゴブリンの姿を捉えていた。


 万全を期すため、ゆっくりとヤツの背後へと移動し――

 一瞬で距離を詰める。


「……グギャ?」


 こちらに気付いたのか、ゴブリンが間の抜けた声を上げる。

 しかし時既に遅し。

 海斗は異形の頭を両手で挟みこみ――三六〇度回転させた。


 一瞬で絶命するゴブリン。

 手を離すとトサリと小さな音を立てて、地面に横たわる。


 一見残酷に見える戦い方も、合理によってなされたもの。

 ここはダンジョンの中ではない。

 故に下手に打撃を行い、返り血を浴びるのは避けたかった。


 それはゴブリンが光の粒となって消えるまで、警戒を解かず――

 不意の襲撃に備え、油断なく周囲に視線を向ける姿からも明らかだろう。


 空気に溶けていく戦闘の残滓を確認し、歩き出そうとした瞬間――

 ポケットに振動を感じ、海斗は足を止めた。

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