表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/128

違和感

 公園から立ち去った海斗は、目的もなくただふらふらと街を彷徨う。

 有意義な時間も過ごし方でもあればいいのだが、今は何も思い浮かばない。


 去年の今頃は何をしていただろうか。

 こんな時は過去の自分に倣ってみるのが良いかもしれない。

 そう考えた海斗は、すっかり薄れてしまった過去の記憶を掘り起こす。


 しかし驚くほどに、思い出すことはできない。

 とは言え海斗の行動パターンを考えてみれば、答えはそう多くない。


 ①GWに遊ぶため掘り出しもののゲームを探しに行っていた。

 ②録り溜めしていたアニメの消化順を考えていた。

 確実とは言えないが、当たらずといえども遠からずと言った感じだろう。


 海斗の住む地域は、飲食店に衣服、大型電気店は複数店舗。

 所謂オタクショップにいたっては数え切れないほど存在している。


 生活に必要なものは、おおよそこの街で揃ってしまう。

 そんな状況だからこそ、海斗の行動範囲は異常に狭い。


 はっきり言って、海斗には友人と呼べるような相手はいない。

 世間一般ではぼっちなどと呼ばれてしまう状況だ。


 だがそれをどう捉えるかは、当人次第だろう。

 人にどう言われたところで、いちいち気にしてはいられない。

 少なくとも以前の海斗はそう思っていた。


 全く意味のない無駄な思考。

 だが頭を回転させることで、考えずにすむこともある。


 ふと気を抜いた瞬間、脳裏に過ぎる少女の姿。

 海斗はそれに囚われてしまうことが怖かった。


 何かから逃げるように歩を進めていた海斗が――

 視界に映った、見覚えのある姿に足を止める。


「……あれって、鵜坂?」


 いつも会社で顔を合わせている同僚。

 最近は共に昼食をとることもある相手。


 もし会社の上司や他のメンバーなら、迷うことなく無視していただろう。

 だが彼女は海斗に対して好意的に接してくれている。

 声をかけるほどに親しいかは微妙だが、無視するほど嫌いな相手ではない。


 既に海斗は鵜坂の存在に気付いている。

 ここは挨拶だけでもした方――


 声をかけ挨拶を交わす。

 一般的な社会人なら、当然の行いなのかもしれない。

 しかし海斗にそんなコミュ力を求めることは間違っている。


 会社以外で声をかけて良いのだろうか?

 ウザイ先輩だと思われてしまうのでは?


 悩んでいるだけでは答えは出ないし行動出来ない。

 先程、痛いほどにそのことを実感していても――

 安を感じてしまうのが海斗という人間だった。


 鵜坂はカワイイと言える後輩だが、まだそこまで深い付き合いではない。

 だが声をかけられて、アイツが嫌な顔をするだろうか?


 普段の彼女であれば喜ぶのでは?

 鵜坂と言う後輩の持つ、陽気な性質を考えると気が楽になってきた。


 ここは声をかけた方がいいだろう。

 決断した海斗はおそるおそる口を開き――

 言葉を発することが出来なかった。 


 海斗を押しとどめたのは――違和感。

 原因は、普段感じることのない後輩の異質な気配。


 その表情に笑みはなく。

 どこかピリピリとした雰囲気を纏っている。

 会社での鵜坂とは全く違う気配に、思わず別人ではないのかと勘ぐってしまう。


 だが週五で顔を合わせている後輩。

 しかも激しく絡んでくる相手だ。見間違えるとも思えない。


 雑踏に消えていく鵜坂の姿。

 海斗の胸に湧きあがる不安感。


 もしかして何か問題でも起きているのでは?

 一度考えてしまうと、彼女のことが心配になってくる。


 短大を卒業したばかり。若い女性のトラブル。

 サブカルに毒された海斗からしてみれば、嫌な予感しかしないキーワードだ。


 もしここで行動せず、彼女の身に何か起こったとしたら。

 恐らく海斗は一生そのことを後悔してしまうだろう。


 今は不安に囚われるよりも、行動するべきだ。

 海斗は鵜坂の後を追い、雑踏へと足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ