分かっていても……②
きょろきょろと周囲を見回す歌恋。
遠目に様子を窺っていると、彼女が眼鏡に帽子で変装? していることが分かる。
だが彼女の発している魅力は、少し姿を変えた程度で隠せるものではない。
それは近くを通る通行人が思わず振り返り、二度見していることからも窺い知れた。
カップルの男が歌恋に見とれ――短く悲鳴を上げる。
驚き視線を向けると、男が彼女に頬を引っ張られている姿が目に入った。
ざまぁみろ。海斗はつい心の中で悪態をつく。
だがそれも仕方ないことだろう。
独り身の男性にとって、世の中のカップルは全て敵なのだから。
「…………」
息を殺しながら、海斗は歌恋に視線を戻す。
実はこの場所で彼女の姿を見かけたのは、今回が初めてではない。
かつてティセの姿を探していた頃。
そして今日のように、意図せずこの場所に足を向けてしまった時。
何度も彼女の姿を見かけていた。
歌恋はいつも誰かを探すような仕草を見せている。
もしかすると自分のことを探しているのかもしれない。
だが海斗は彼女の前に姿を現すことはなく。
今日と同じように、毎回姿を隠していた。
もし探しているのが、自分ではなかったとしたら。
もし彼女からティセのことを尋ねられたとしたら。
年齢が違い過ぎる。
アイドルを目指す歌恋の邪魔になるのでは。
様々な想像が海斗の頭の中で渦巻き――
一歩を踏み出す勇気を出すことが出来ない。
『もうマスターってば、なに子供みたいに隠れてんのさ!!』
「……ッ!?」
海斗は慌てた様子で、周囲に視線を飛ばす。
だがそこに小さな相棒の姿はない。
もしもティセが、今の姿を見たならそう言うだろう。
いや――
ただ注意するだけでなく、歌恋の元へ海斗を引きずって行こうとするかもしれない。
「……ハハッ。いよいよ俺も、重傷かもしれないな」
思わず苦笑が漏れる。
聞こえるはずのない声が聞こえてしまう。
それは中々に危ない状況なのかもしれない。
いやそれだけ海斗にとって、ティセの存在が大きかったのだろう。
たった数日、行動を共にしただけのはずなのに。
彼女はかけがえのない存在になっていた。
ティセに笑われてしまうな。
海斗は直ぐ隣――自身の肩口に視線を向けながら考える。
そこに幻視されるのは、小さなパートナーの姿。
だが今、その背を押す存在はいない。
海斗は歌恋に背を向け歩き出す。
少し離れた場所で立ち止まり海斗は一度振り返る。
「ごめん……俺は……」
それは誰に向けた言葉だったのだろう。
首を振り感傷をを打ち消すと、海斗は再び歩き出す。
一歩一歩、物理的に離れていく距離。
今の海斗には二人を繋ぐ絆の存在を、感じ取ることはできなかった。




