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分かっていても……

 駅前のLEDビジョンに映し出されるニュース映像。

 感染予防のため、手洗い、うがいを推奨するキャスター。

 原因が不明である以上、他に言えることなどないのだろう。


 街中を散策していると、マスクを付けている人を沢山見かけた。

 それはまるで内心の不安を覆い隠しているようにも見える。


 そんな人垣を抜け、海斗は道なりに歩いて行く。

 少し進んだ場所にある携帯ショップ。

 赤白の看板を遠目に眺めながら、海斗は足を止めた。


 海斗は肩掛け鞄からスマホを取り出し、ショップに一歩を――

 踏み出そうとした足を、そのまま地面に下ろす。


「……はぁ」


 何度目のことだろう。ここまで来ておきながら進むことが出来ないのは。

 海斗の口から自然とため息が漏れる。


 一見、時間の無駄にしか見えない行為。

 だがそこには海斗なりの理由があった。


 内容を知れば、臆病者と笑われてしまうかもしれない。

 だが、結果を知るのが怖いのだ。


 スマホを診断した結果、修理出来ないと言われてしまうことが。

 そして最も恐れていることは――

 修理した結果、何も起こらないと言うことだ。


 情けないと自分自身でも分かっている。

 だが結果を知ることが怖くて――

 スマホをポケットに差し込み、ショップに背を向けた。



 結局今日も、海斗は当てもなく街を彷徨う。

 家を出たところで、何か行動を起こすことも出来ない。


 以前であれば、姿を消した少女の行方を捜すこともあった。

 だが時間の経過と共に、いつしかそれを行うことはなくなっていく。


 仕方ないことなのかもしれない。

 人は忘れることで日々を生きている。


 だからきっと彼女の存在も――

 いつか記憶の奥底に沈み思い出すことさえ出来なくなるのだろう。


 ――嫌だ。

 強くそう思う。


 もう一度会って話がしたい。

 理由を問うてみたい。

 もし自分が間違っていたのなら謝罪したい。


 海斗の心に、強い情動が湧きあがる。

 だが出来ることは何もなく。ただ街を彷徨うことしか出来ない。


 想いを振り切るように頭を振った海斗は、ふと気付く。

 自身の立つ場所が、あの日――全てが始まった公園の直ぐ側なのだと。


 この場所だけは、あの日、記憶の中の光景と変わりない。

 周囲の復興は完了しているにも関わらず、だ。


 柵に囲まれた園内。立ち入り禁止の看板。

 制服姿の警備員らしき人達が、侵入出来ないように見張っている。


 半年近くが経過した今も、復旧される気配はない公園。

 海斗は無意識の内に、思い出の場所に足を向けてしまっていたようだ。


 海斗は思わず顔を歪めていた。

 この場所に来たところで何もないことは分かっている。

 何故なら既に何度も、この場所を訪れてしまっていたからだ。


 だが顔を歪めたのはそれが理由ではない。

 感じ取ってしまったのだ、懐かしい人の気配を。


「……ッ!?」


 海斗は周囲に視線を向け、はっと息を飲み――

 慌てて周囲から隠れるように、ビルの影に身を潜める。


 窺うように向けた視線の先には、美しい少女。

 今はアイドルとしての道を歩み始めた――歌恋の姿があった

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