脱出①
海斗は神秘的な光と共に、漆黒の鎧が空気に溶けていくのを見届けた。
軽く目を瞑り黙祷を捧げた後、二人に向かって振り返る。
「……海斗さん、それって」
「俺にも分からない。でも……持ってけってことだと思う」
漆黒の騎士が何か言葉を発したと言う訳ではない。
だが、海斗には散り際の騎士がそう言っているように思えた。
もしかすると敵対する以外の道もあったのではないか。
そんな気持ちが浮かんで来るが、今はまだ感傷に浸ることはできない。
「この場所に、外に出る手掛かりがないか調べてみよう」
歌恋に視線を向けながら、自らの考えを告げる。
「手掛かりですか……」
彼女は海斗の言葉を聞き、周囲を見回しながら少し考える様子を見せる。
「ねえねえマスター……アレ」
海斗の袖を引きながら、一点を指差すティセ。
その先には女神像――が胸に抱くモノ。
「やっぱり、あの赤い球が怪しいよなぁ」
海斗はやはりそう考えるよなと言わんばかりの様子で頷きながら、自らの考えを口にする。
「う~ん多分なんだけど、あれ……ダンジョンのコアなんじゃないかな?」
「ダンジョンコア……ですか?」
ティセの言葉に歌恋は首を傾げる。何となく意味は分かるが、それが想像と一致しているかは分からない。
自身の考えが正しいか確認するために、海斗はティセに視線を向けながら続きを促す。
「あーそのコアって何なんだ?」
「えっとね、ダンジョンって必ず核になる物があるんだよ。そいでそれを中心に魔素が集まって、どんどん大きくなるみたいなんだよね」
身振り手振りを交えながら、ティセはダンジョンコアの説明を行う。
「つまりあの玉を何とかすれば、いいってことか?」
「うん。多分あの玉が何かのキーになってると思う」
どうした物かと思考を巡らせながら宝玉に視線を向ける。
「でも触れて大丈夫な物なんでしょうか?」
「う~ん、どうなんだろ? アタシも実際見るのは初めてだし……」
彼女の心配はもっともなことだろう。この部屋の扉には自動で閉ざされる仕掛けが施されていた。
怪しい玉に何の仕掛けもないと考えられるほど、楽天的にはなれない。
「直接触れるのは避けた方が良さそうだな」
少し考え、手に持つ漆黒の大剣に視線を向ける。
恐らく激闘による疲れもあったのだろう。海斗は深く思考を巡らせるよりも、取りあえず行動することを選択した。
おもむろに女神像へと近づくと、大剣の刃先で軽く宝玉を突く。
「……あ!」
思わず声を発する海斗。罠がないか軽く触れるだけのつもりだった。だが刃は宝玉に突き刺さり――
「……え?」
歌恋の驚きの声に応える様に赤い宝玉は――真っ二つになった。
「ちょっ、マスター!? なにやってんのさ!!」
驚き目を見開くティセ。
「…………」
海斗は無言のまま押し黙る。
自分の自身の手によって宝玉が二つに分かれてしまったのだ。
平静を取り繕っているが、宝玉を破壊した張本人である海斗が一番焦っている。
「これ……どうするか」
綺麗に左右へ別れたソレに視線を向けながら海斗は考える。
だが何も思い浮かばなかったのだろう。ゆっくりと歌恋に視線を向ける。
しかし彼女もどうしてよいのか分からなかったのだろう。
困った表情を浮かべながらおろおろとした様子を見せていた。
続いてティセに視線を向けるが、彼女も両手で頭を押さえながら唸り声を上げている。
誰一人解決策を提示出来ない地獄の様な状況。
しかし二人の様子を見て、海斗は逆に冷静になってきた。
他人が焦っていると、それを見ている人は冷静になれると言うヤツだろう。
この場で責任を取るべきは、軽率な行動を取った張本人。
そう考えた海斗が、空気を変えるため口を開こうとした瞬間――
「……なっ!」
割れた宝玉が浮き上がり、粉々に砕け散った。




