食糧問題①
食事を終えた三人はこれからのことを話し合うことにした。
まずは海斗と歌恋、お互いの持ち物を確認しあう所から始める。
「何か役立ちそうな物が入ってるといいんですけど……」
歌恋は迷うことなく、バッグの中身を見せてくる。しかし女子高生の鞄の中を覗いて良いのだろうか?
海斗はどこか感じる背徳感にドキリと心臓が跳ねる。
しかし彼女はこちらの戸惑った様子に気付くことなく、次々と内容物を取り出していく。
並べられた鞄の中身は教科書にノート、そして筆記用具。しっかりと教科書を持ち帰っているところからも優等生であることが分かる。
ちなみに海斗はテスト前であっても教科書を持ち帰った記憶はない。赤点さえ取らなければ別に良い。そう考えていたためだ。
その他、鞄に入っていた物は――イヤホン、ポーチ、スプレー缶。
ポーチの中に入っているのは日焼け止めとティッシュ。特に役立ちそうな物はなかった。
「うーん。いつもだったらお菓子とかが入ってたりするんですけど……」
彼女の言葉――お菓子――に反応し目を輝かせるティセ。
歌恋が鞄を逆さにして振るが何も出てこないことを確認し、ティセはガックリと肩を落とす。
「そうなると残った食料はコレだけだね」
海斗は自身の鞄に一つ残った、最後の携帯栄養食を手に取る。
するとティセの視線もその手元へと吸い寄せられていく。
「コレ一つだけだと、あと一食……無理して二食って所か。まぁあんまり節約し過ぎて、いざって時に動けなかったらマズイし一食分って考えた方が良さそうだね」
「そうですね。私の鞄にも何か役に立つ物が入ってたら良かったんですけど。こんなのは役に立たないですもんね……」
取り出した荷物を仕舞い終わった歌恋はこちらによく見えるよう、鞄から取り外したキーホルダーを手の平に載せ差し出す。
「ん? これって……」
「あっ、やっぱり見ただけだと分かんないですよね。ほらここ、チェーンがヒモになってて引っ張ると大きな音がなるんです」
歌恋は指差しながら、キーホルダーの機能を紹介する。
「ああ、防犯ブザーって奴か」
「ですです。私は必要ないって言ったんですけど、お母さんが持ってなさいって……」
なるほど。歌恋は必要ないと言うが、これはお母さんの考えが正解だろう。最近は――今の状況ほどではないが――物騒な世の中だ。万が一に備えるのは正しい。
更に彼女の容姿は非常に優れている。その魅力が不埒な輩を引き寄せたとしても、それは想像出来ないこととは言えないだろう。
ならば何か有った時に対応出来るように備えておくのは良いことだ。
「お母さん心配しすぎなんてすよ! 他にもさい――あっ、今はそんなこと言ってる場合じゃなかったですよね」
歌恋は母親に対しての更なる不満を口にしようとして自制する。
彼女は現状を考えた際、優先すべきことを理解していた。
やはり年齢から考えてもしっかりしている。海斗は歌恋の言動にそんな感想を抱く。
「まあ両親ってのは子供のことを心配するものらしいしな」
海斗は何とも言えない表情で答える。
「取りあえず食料は一食分はあるけど。早急に飲み水の確保が必要だな」
話をしながら携帯栄養食を鞄に戻すと、ティセはガックリと肩を落とす。
そんな彼女の姿を目にし、海斗と歌恋は顔を見合わせ少し笑う。
本来なら深刻な雰囲気に包まれているような状況。しかしちょこちょこと動くティセの存在が重くなりそうな空気を緩和してくれていた。
「確かに……早めに何とかしないといけないですよね」
歌恋の声に応えるようにペットボトルに視線を向けると、残り三分の一を切っている。
彼女の言う通り早めに何とかしないといけない。しかしどうしたものか。二人で頭を悩ませていると――
「あっ! そう言えば……」
――何かを思いだしたのか歌恋が声を上げた。
「どうしたんだ? 何かいい考えでも浮かんだのか?」
「いい考えって言うか、藤堂さんに助けて貰う前。私、この部屋までゴブリンに追われて逃げてきたんですけど」
海斗は頷きながら続きを話すように促す。
「ゴブリンから逃げてる途中で……。えっと、必死だったんで絶対って訳じゃ無いんですけど、多分アレって……」
言い淀む歌恋。続きを話していいのだろうか、もし見間違いだったら。そんな不安を感じさせる表情を浮かべている。
正直に言ってしまえば早く続きを聞きたい。だが急かして嫌われるのは怖い。
ここは彼女が自ら口を開くのを待つべきだろう。そう考え海斗は静かに歌恋を見つめる。
暫くして歌恋は意を決したように口を開き――