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天狗岳  作者: 麻倉龍之介
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頂上

 結局のところ、水沢さんと、矢島さんと、じぶんの三人は、加賀をビアガーデンに置いたまま、頂上まで登りきってしまった。あまり、後ろめたさのようなものは感じなかった。

 頂上への登山道は、途端に階段の敷かれていることの多いものとなり、仮にも男であるじぶんには、華奢な水沢さんが疲れてしまっていないか、酔っ払った矢島さんが転げ落ちないか、と気をまわすことの多いひとときであった。

 幸い何事もなく頂上まで着くと、時計は午後の五時ちょうどを指していた。頂上は観光地らしく展望台のようになっていて、ベンチであったり自販機であったり、記念撮影が出来るようこしらえてある銅像なぞがたっていたりもしていた。

 夏であるせいか、空はまだ明るく、人もそれなりの数が、ベンチで座るなどしてゆっくりとしていた。

 じぶんたち三人は、またしても出会った出店へと、コトバを交わしていないのに、申し合わせたかのように足を向けた。一人二百円を払って、それぞれ飲み物を手にする。

「じゃあ、頂上までお疲れ様でしたー」

 矢島さんが、本当に疲れたという風な調子の声で言う。じぶんと水沢さんも、矢島さんに続き、

「お疲れ様です」

「おつかれさまでした」

 登頂の乾杯をした。

 手にした野菜ジュースの缶をあおる。できるならば、運動後であるのだし、スポーツドリンクを飲みたいところであったのだが、アルコール後に飲むのはよくないと、矢島さんに止められてしまった。しかし、たまには野菜ジュースというのもおつなもので、勢いよく飲めたものでないせいか、少し朦朧としていた意識も揺り起こされた気分であった。

 ベンチを一つ確保して、荷物と疲れた身体を落ち着かせる。

 矢島さんが「ちょっとお手洗にいってくるね」と言って席をたつと、水沢さんはビアガーデンで手にした、あのごつい一眼レフカメラをバックから取り出し、ベンチから山々の風景へと身体を向き直りファインダーを覗いた。

 水沢さんはしばらくのこと山と、遠くに見える街と、そして足下の風景を撮りだし、何度もシャッターを切る音をたてると次は、ベンチで寝転がっている人や、家族連れで登ってきた子どもたちなどをフレームに収めていった。

 じぶんは、そんな水沢さんの様子をずっと追っていた。水沢さんは、見つめているじぶんに気がつくと、何を思ったか

「写真、……撮ってみる?」

 と下からのぞき込むようにして訊いた。

 じぶんは一寸コトバに詰まったが、やがて「うん」とだけ言って、水沢さんから両手でカメラを受け取った。山を登り切った疲れと驚きで、「ありがとう」というコトバと笑顔が、喉から上に出てこなかったのだ。

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