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俺が正義でお前が悪で  作者: あらた
22/22

第22頁 護るべきもの

魔王である真央と、その後を継いだつもりでいる弟の虎太郎。この二人の気持ちは未だ交わらず。

そんな中、魔界の魔道士たちが、真央たちに助けを求めになんとこの世界へやってきてしまう。

このまま真央は魔界へ帰ってしまうのか??そして助けてくれない勇者は一体どこへ行った?

「どうかお早く、魔界へお戻りください。我々だけでは魔界の物たちの統率がとれず謀反を企てる輩もおります」

突然魔界から姿を現したメイガスと言われる魔導師たちは、真央へ懇願の眼差しを向けた。


「そうか」

真央は自分が生まれ育ってきた魔界のことを思い、自分のしてしまったことを悔いている表情を見せる。

「そんなことわかってる!こんな甘いやつに任せるからそうなってしまうんだ!兄上を倒したら、『僕が』すぐに戻る!」

虎太郎が階段の上からメイガスに向かって大きな声で叫ぶと、何かを思い出し妖しい笑みを浮かべた。


「これだけの魔導師がそろっているなら向こうへは簡単に帰れる。そして、あっちがこんな状態なら呼びかけに答えてくれる魔獣がいるんじゃないのか」

一同が、虎太郎の言葉にハッとしその思考にざわつくも、すでに虎太郎は自身の魔力を体の底から引き出し始めている。


「何を考えている!やめるんだ!今はそんなことをやっている場合ではない!」

真央の叫びは今の虎太郎にとって、火に油を注ぐようなものである。虎太郎の詠唱が始まり、メイガス達も、従者も、マリーもこれ以上の干渉をもつことができない。


「虎太郎様!おやめください!」

従者も事の重大さがわかっているようで止めようと虎太郎の元へ走り出したが、すでに詠唱が終わり息を切らした虎太郎の前にとてつもなく大きな魔方陣が光りながらあらわれる。

そこから徐々に、何者かが姿を現し始めた。その生き物はぬるっとした長い尻尾からどこまでも体が続いて出てくる。館の屋根を突き破りそうなとてつもなく大きな体を空中で幾度か巻き、その体の頭頂部には鋭い牙をはやす大きな口がある。


「何という事を……」

真央が掌に魔力を貯め始め、もう待てないと素早く魔力の塊を魔方陣へ向け放つも大きなその魔物の体は小さな魔力では全く歯の立たないものだと分からされてしまう。


「なんだってんだよ!!俺様のかっこいいところだったんじゃないのかよ!!なんだよあいつは!!」

せっかくの出番を魔界の者たちに邪魔され、とんでもない展開に言葉すら発することも許されない状況だった由紗がやっと口を開いた。


「あれは……大蛇獣ウワバミ」

マリーがその魔獣の名を小さな声で呼んだ。

「よりにもやってなんてやつを呼び寄せてしまったんだ、虎太郎」

「なんだって???」

真央が放った魔力の弾を軽々と弾き飛ばしてしまったその魔獣の姿はまるで、巨大なヘビ。

その姿を確認した真央はその魔獣の絶大なる強さを知っている。そして、同時に絶望を抱かずにはいられなかった。


吹き抜けている館の天井にまで達しているウワバミの顔近くへ浮かび上がった虎太郎はその体を触り勝ち誇った声で、真央たちを指差した。

「ふはははは!!大蛇獣ウワバミよ!破壊しろ!」


館の中はその体で埋め尽くされ耐えられるわけもなく壁はあっけなく崩れ始める。

巨大な魔獣のその姿は、館からはみ出し外の平和だったはずの世界から人々の悲鳴が響き渡った。その尻尾は軽々と館の壁を崩していく。


「まずい!外のやつらが危ない!!」

由紗が崩れてくる瓦礫をかわしながら洋館の外へ視線を送る。

「メイガス!結界を!」

人々の叫びを聞き、真央は魔界での戦闘と同じように巻き込まない戦いをするため、メイガス達に周辺一帯を護るための結界を張る様命令した。

「なぜです!?」

この世界には何の思い入れもないメイガス達にとって、真央の願いを聞くための魔力など使えるわけもなく、目の前にいる大蛇を倒すことだけに集中することの方が先決である。


「グダグダ言ってねぇで、早く言われたとおりにしろってんだよ!!」

「なんなんだこの弱小勇者が!!!」

「うるせえ!!ちびっこ魔法使い!!」

「なんと口の悪い!!」


メイガスと由紗の言い合いも、崩壊する音や大蛇の姿を見て混乱した街の住人の叫声でかき消されていた。

「頼む!結界を……」

真央がメイガスと由紗の方を向いた。そして洋館にあいた壁の穴を心苦しそうに見やった真央はそこにあった光景に目を丸くし、動きを止めた。


「見つけた」


「奏人」

そこには息を切らせた奏人と、それに付いてきた結衣の姿があった。

奏人は真央に向かって走り出す。しかし次の瞬間、大きな音をたて奏人たちの脇の壁が崩壊した。


「マリー!!洋館に結界を!!!」

「はっはい!!魔王様!!」

咄嗟に、真央は万里を頼りその体を奏人たちの方へ投げ出す。

同時に万里は手のひらを上空に掲げ大きく半円を描くように腕を回す、すると洋館の周りは緑色の光に包まれた。ゴオンという音と巻き上がる煙に包まれた奏人と結衣、真央の姿は確認出来ない。


「魔王様!!」

メイガス達は慌てて瓦礫を浮かび上がらせ真央達の姿を確認する。

「真央!」

真央は小さな光の半円の中に自身と奏人と結衣を囲い大きな壁の塊を受け止めていた。

「奏人、無事か?」

奏人たちの無事を確認すると真央は優しく微笑みかける。その額からは大粒の汗が流れ落ち傷ついている頬の血と混じる。

自分たちの結界を維持しながらさらにその外側にある大きなコンクリートの塊を一気に吹き飛ばし、結界を解きまっすぐと立った真央は、冷たい視線をメイガスたちに向けた。

「メイガスよ、魔王として命令する。ウワバミを洋館から出してはならない。我に逆らいし者この地にて滅びるがよい」


「はっ!仰せのままに」

真央の背中から湧き上がってくる真っ黒い気配に恐怖を感じた支配下の者は四方へ飛び散り洋館の周りに万里よりもさらに大きな結界を張り巡らせた。

万里は、妖怪の結界をメイガスに任せて、不本意と思いつつも奏人たちの周りに結界を張った。


「なにをしているのだ貴様ら!そんなやつの言うことを聞くのか!」

ウワバミの近くに浮かんでいる虎太郎がメイガスたちを見回しながら叫ぶ。

余計なことをするなという怒りと、魔王として部下を扱った真央に対する憎しみのような感情が虎太郎をすでに冷静ではいられない状態にさせていた。


「何をしているウワバミ!あいつらを消し去ってしまえ!」

握っていた手のひらを広げ虎太郎はウワバミに向かって声を上げた。


その声に反応したウワバミがその尻尾を大きく振り上げると軽く下へ振った。


「!?」

次の瞬間、何かが真下の階段へすごい勢いで落下した。


「虎太郎!!」

真央が叫び見つめた先には砕けた階段と、叩き付けられ気を失った虎太郎がいた。

「やめろ!ウワバミ!」

真央が魔力の玉を打つも簡単に弾き飛ばし、さらにその尻尾は虎太郎のいる地点を狙い振り下ろされる。


「虎太郎様!」

地面さえも割れるような大きな破壊音がした。誰もが一点を注視している。粉塵がひいてくる。そこには虎太郎の従者が両手を広げ、倒れている虎太郎の前に立っていた。


「どうして……」

従者の後ろにはいつの間にか意識の戻った虎太郎が、信じられないものを見ているかのような目で従者の背中を見つめていた。

「ご、無事です……か」

従者の着ていた胸当てが、真っ二つに割れ落ちると同時に、その口から真っ赤な血が吐き出された。


従者が振り向こうとするが、体がもたずその場に崩れ倒れた。

虎太郎は体中が痛むのを忘れ従者の元へ這い寄った。

「何やってるんだよ」

「役に、立ちました……か?」

従者をのぞき込む虎太郎の目にはなぜか涙がたまっていた。なぜ泣きたいのか、考えることができないほど混乱しているその頭で、自分のしてしまったことの重大さに気づいてしまう。


「ブライン……」

「ああ、そんな、名前……でしたね」

虎太郎は従者の名前を震える声で呼ぶ。胸からも大量の血を流し、もはや瀕死の状態のブラインは、それでも少しだけ口の端をあげ笑った。

そして静かに目をつぶった。


「使役できなかったか」

虎太郎たちの前に真央が立ち、二人を見下ろした。

「クソォ!」

大粒の涙を流しながら虎太郎は大きな穴があいている天井に向かって声を上げる。


「お前のしたことをよく考えろ」

真央はまっすぐに虎太郎を見つめた。過去に自分の危機を救ってくれた時とは違い、意志の強い眼差しに虎太郎は息をのんだ。そして、頭の中の複雑な感情が少しずつ解かれていく。


「メイガスが来ていてよかったな」

真央が一人のメイガスを連れてくるとそれは、手から緑色の光をブラインに向かって放ち始めた。

「時間がかかるかもしれません」

メイガスが静かに伝えると真央は少し口元を緩ませる。

「大丈夫だ。虎太郎、付いていてやれよ」

そう言って虎太郎の頭に手を置くとその頭をぐしゃぐしゃにして虎太郎に背を向けた。


「おっさん大丈夫なのか?」

ライバルが倒れたことで心配になった由紗が真央の元に駆け寄ってきた。


「心配ないだろう、魔界の者はそんなに柔ではない。そんなことより!」

突然真央が由紗を思いっきり押した。由紗はそのまま遠くへ吹き飛んでしまうと同時に、ズシンと重たい衝撃が二人の間に走った。


忘れていたわけではないが、大蛇獣ウワバミの尾は退屈を紛らわせるかのように周囲に振り回されている。当たればその衝撃のすごさは誰もが恐れるほどである。


「危なかったな」

遠くに突き飛ばされた由紗に向かって、真央がいたずらに笑いかけた。

「お前ウザい!」

由紗は眉をつり上げ真央に向かって叫ぶと、自分の手に握られている家宝である勇者の剣を、しっかりと握り直した。


「俺にはこれしかないんだよお!」

由紗は大きく飛び上がると伝説の剣を頭上に振り上げウワバミの体に向かって斬りつけた。

しかし、その皮膚もまるで石のように硬く、由紗のその剣はあっけなく弾き返されてしまった。


「マジか!」

「勇者様!」


丸々が由紗の着地点めがけて攻撃してきたウワバミめがけて、魔力の塊をぶつけ由紗を援護する。


「体が硬いじゃねえか!」

「言っただろ、魔界の者は柔じゃないと」

いつの間にか由紗の横に真央が立っていた。その表情には焦りのような明らかに困惑の色がうかがえる。


ゆっくり対策を練っている間も与えず、ウワバミは単純ではあるが破壊力の高い攻撃を繰り返してくる。

何度もその体に刃を向けても、ダメージを与えることはない。折れないだけでも、伝説の剣を信じさせてくれるのだが攻撃は効かない。

由紗の体にも疲労の色が見える。丸々の打ち出す魔力も限界に近づいていた。

そして、ウワバミは小さな攻撃に飽きたのか体を伸ばすように、ひねりながら大きく回った。

洋館の内装をなぎ倒すその動きの中で破壊され崩れていく破片の下には丸々の姿があった。


「丸!!」

間一髪で由紗はその腕を引き寄せ抱きしめた。

予期しなかったことに、丸々と由紗は顔を真っ赤にして体を引き離す。が、その瞬間由紗の体にウワバミの攻撃が当たり、丸々からさらに離れた場所へ吹き飛んでいってしまった。

由紗の体は、受け止めようとした真央さえも巻き込んで二人は壁に激突し、そのまま地面に崩れ落ちてしまう。


「魔王様!」

「真央!」

「勇者様!」


万里と奏人、丸々はほぼ同時に叫んでいた。


最後の頼みである、真央と由紗が倒れてしまうと言うことがどんなことか。一同は二人が倒れている方を祈るような気持ちで見つめた。


「おい、魔王。生きてるか?」

冷たい床に倒れている真央に向かって、同じく倒れている由紗が声をかけた。

「……」

「オレさ、結構この世界好きなんだわ……」

体中の痛む箇所を感覚で確認しながら、由紗はゆっくりと立ち上がる。


「……奇遇だな」

その横で、頭からの出血を拭いながら真央がゆらりと体を起こす。


「俺もだ」

魔王と勇者は二人揃って、この世界を護るために、今倒すべき相手のその姿をまっすぐに見つめた。


最新話お読みいただきありがとうございました。登場人物たちの心の動き、関わり方。非常に悩みましてなかなか更新へ踏み込めませんでした。なんだかんだ結局由紗が頑張ってくれたなと思っております。さて次話で実は最終回となります。うまく事が収まるのでしょうか???真央たちは留まる?いろいろ思いはありますがそう遠くないうちの更新できるはずですので、次話更新をお待ちください。

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