私の王子様
初めまして。作者のハムペンギンです。
この度は本作を手に取っていただきありがとうございます。
本作は、不器用な二人が少しずつ距離を縮めていく学園ラブコメです。
笑える場面だけでなく、胸が温かくなるような瞬間も楽しんでいただければと思います。
感想や評価をいただけると、執筆の励みになります。
最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。
あの日の出来事を今でも鮮明に覚えている。
暗い森の中。
冷たい風が吹く中で、私は一人で泣いていた。
怖かった。
どこをみても木ばかりで、帰り道なんてわからない。
どれだけ周りを見渡しても、いつもそばにいてくれる家族の姿はなかった。
――どうして、こんなところに来てしまったんだろう。
まだ六歳だった私は、初めて大きな不安を感じていた。
九条家の娘として、周りからはいつも優しくされていた。
ほしいものは何でも用意されて、困ることなんてほとんどなかった。
でも、その時の私はただの一人の女の子だった。
怖くて、寂しくて、誰かに助けてもらいたかった。
「……お父さん……お母さん……」
小さな声は森の中へ消える。
涙が頬を伝う。
その時だった。
「……誰かいるの?」
聞きなれない声が聞こえた。
顔を上げる。
暗闇の向こうから、一人の男の子が歩いてきた。
服は少し汚れていて、息も切れている。
きっとこの子も迷子なのだろう。
なのに、その男の子は私を見ると安心したように笑った。
「大丈夫?」
「……っ」
その一言を聞いた瞬間、張り詰めていたものが切れた感覚がした。
「……こわかった……」
私は泣きながら声を漏らした。
すると男の子は困ったような顔をして、それでも優しく笑った。
「大丈夫。俺も迷子になっちゃったけど、一緒にかえろう」
そう言って、男の子は私に手を差し出した。
その姿はまるで、王子様だった。
小さな手だった。
私と同じくらいの、小さな手
でも、その手を見た瞬間、不思議と怖さはなくなった。
私は差し出された、その手を握った。
「……ありがとう」
そして、気づけばその子に抱きついていた。
初めて会ったはずなのに。
初めて話したはずなのに。
なぜか、この人のそばにいると安心した。
私はまた、男の子の手を握った。するとその男の子も握り返してくれた。
その手はあたたかく、そのあたたかさが私をさらに安心させた。
しばらくの間は、男の子の手を握ったまま、二人で話していた。
いろいろなことを話した。名前や、好きなものや嫌いなもの、学校であったこととか。
男の子とは初めて会ったはずなのに、たくさん話せて、自分たちが迷子という状況でもとても楽しかったのを覚えている。
しばらく話していると、後ろのほうから声が聞こえた。
「凜ー!」
私の両親の声だった。
その声を聞いて男の子は「はやくいくぞ!」と言って、私の手を引いた。
しばらくすると森を抜け、私の両親がいた。
両親が私のことを見つけると、走ってこっちに近づき、私を胸の中に抱きしめた。
「一人でどこかにいったらだめでしょ! 心配したのよ!」
母親は涙を流し、父親の顔は青ざめていた。
「私ね! 王子様に助けてもらったの!」
「……王子様?」
両親は不思議そうな顔で私を見た。
「その子はどこにいるの?」
「……え?」
両親のその言葉に続いて、私は周りを見渡した。そこにはもう、彼の姿はなかった。
私の心には、寂しいという気持ちと、彼という存在が特別になっていた。
だけど男の子の顔と名前は鮮明に覚えている。
その男の子の名前は、朝倉蓮。
――私の王子様だ。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この作品を書こうと思ったきっかけは、「完璧に見える人にも、誰にも見せない弱さがある」というテーマを描きたかったからです。




