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本気のキスは甘くとろけて(R15版)  作者: 矢崎未紗


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本気のキスは甘くとろけて(R15版)4

「ああ。それに、俺は柚子のこと、かわいいと思ってる。世間一般の評価基準なんて知らねぇし、柚子が自分と他人を比べてどう評価するのかは自由だが、俺は柚子のこと、かわいいと思ってるよ。お前ほどかわいくて優しくて思いやりのある女なんか、そうそういない。俺はそんなお前に見合うようになりたくて、これでも結構必死なんだぜ? なんせ、本当にクズな男だったからな」


 賢人は柚子のひたいから顔を上げると、優しい目で柚子を見下ろした。


「じゃあ……どうして、その……キス以上のことは……しないんですか」

「それはな……俺は柚子のことが好きで、心底大事にしたいと思ってる。だから、体目的だなんて万が一にも思われたくなくて……それでお前に手を出さなかったんだ。今まで何人もの女としてきたような、性欲解消のためだけの行為をお前とするなんて、絶対に嫌だった。まあ、でも……言うは易しだが、信じにくいよな。デートのドタキャンはするし、仕事の付き合いなら相変わらずキャバクラにも行くしな。でも、勘違いすんなよ? 同伴とか、ましてや風俗とか、柚子以外の女と、そういう一対一の付き合いは一切していない」

「ほ、ほんとに……私、遊び相手じゃ……ないんですか」


 期間限定の遊びとかではないの? 大事に想ってもらえているの?

 まだぽろり、ぽろりと涙をこぼす柚子に、賢人は再び口付けた。とてもやさしくゆっくりと柚子の唇を()み、少し離しては再び口付ける。手探りで柚子との距離を縮めながらも、もっともっと近付いて重なりたいと、懇願でもしているかのように。


「ただの遊び相手なら、こんなキスはしねぇよ」


 賢人は苦笑した。

 一時の遊び相手のつもりなら、さっさと抱いていただろう。帰りの電車の時間なんて心配しないし、ドタキャン後のデートで心から申し訳なく思って謝りもしない。柚子が何を感じて何を考えているのか、気にかけることもなかったはずだ。

 これまでの自分の女癖の悪さを深く反省し、過去の自分と決別して柄にもなくあれこれと考えて振る舞うのは、柚子のことが好きだからだ。

 外見や経歴など、客観的にわかりやすい情報で他人と比較したら、たしかに柚子は、凡人中の凡人かもしれない。だが、他人との比較評価なんて、賢人にとってはなんの意味もない。控えめながらも一生懸命に和を保とうとする柚子の丁寧さは尊敬するし、照れくさそうににっこりとはにかむその笑顔は、本当に心の底からかわいく、愛おしいと思っているのだから。


「風呂、使うよな?」


 まだ呼吸は浅いが、一応涙の止まった柚子に賢人は声をかけた。柚子はこくりと頷き、賢人からタオルと、そして着替え代わりの彼のシャツを受け取って、シャワーを浴びる。浴室から出てきた柚子と交代で賢人もシャワーを浴びると、二人は寝室のベッドの上で向かい合った。


「それに、柚子は若いからな」

「え?」

「何かとコンプライアンスにうるさい世の中だろ。いくら成人しているとはいえ、お前は学生なわけだし……焦らなくてもいいと思うぞ。それにお前、セックスの経験がないから怖いだろ」

「それは……でも」


 柚子は賢人の太ももの上に手を置くと、下から見上げるようにして賢人の顔をのぞき込んだ。


「私が、もっと賢人さんと近付きたいから……」

「そう言われたら、据え膳食わぬは男の恥だが……本当にいいんだな?」

「はい」


 柚子はぎこちなくほほ笑む。

 すると、賢人は柚子の体をそっと押し倒し、ベッドの上に仰向けにさせた。それから、あまり柚子を気遣うことはできなかったが、賢人はついに柚子を抱いた。遊びなどではなく、本気で好きだからこそ抱けずにいた()を抱けて、賢人の胸には喜びがあふれる。


 あの日の合コンで、柚子のことだけが気になった。彼女からメッセージが届くたびに嬉しくて、いつしかはっきりと、柚子のことを好きになっていた。

 そんな自分と違って、柚子の気持ちはまだ、完全にはこちらに向いていない。そのことは十分わかっていた。けれども、万が一にもほかの誰かにとられたくなくて、彼女の気持ちが曖昧な時期に告白してしまった。断られる可能性も覚悟していたが、交際を承諾してもらえて、柄にもなく心から嬉しかった。


 付き合い始めてからは、何度も抱きたいと思った。だが、これまでのような浅くて雑な付き合い方はしたくなくて、時が来るまでは絶対に手を出さないと決めていた。柚子のことが本当に好きで、大切で、きちんと大事にしたいと思ったからだ。

 でも、その我慢はもう要らない。「自分はただの遊び相手なんじゃないか」と柚子が不安に思うということは、裏を返せばしっかりと、自分のことを好いてくれたということだ。つまり、彼女をいとしく思うこの気持ちは、もうためらうことなくぶつけていいのだ。


「柚子」


 賢人は全力疾走をしたあとのような疲労感を覚えたが、深呼吸を繰り返してから、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。そして、目を閉じている柚子の顔をのぞき込んだ。柚子はまるで寝ているようだったが意識はあり、賢人に名前を呼ばれると、ゆっくりと目を開いた。


「大丈夫か」

「はい……」

「頑張ったな。痛かっただろ。優しくなくて悪い。俺は、柚子に対してもクズだな。お前みたいに相手を思いやることが、下手くそでできないんだ」


 賢人は柚子の頭をそっとなでながら謝った。

 その表情がいつになく自信を失っているので、柚子は困った顔になった。


「そんなこと……ないですよ。賢人さんは優しい人です」


 賢人のことをクズだと思ったことなど、柚子にはない。初めての性行為が痛みを伴うことは知っていたつもりだし、そもそも抱いてほしいとアピールしたのは自分のほうなのだ。柚子のその期待に応えてくれた賢人のどこが、クズなのだろう。むしろ、謝るのは自分のほうだ。


「あの……ごめんなさい」

「ん? お前が謝ることは何もないだろうが」

「でも私……変なふうに疑っちゃって」

「そう思われても仕方ねぇからな、俺の行動は。俺の自業自得だ。でも、遊びじゃねぇよ。俺は本気だ。本気で柚子のことが好きで、この先もずっと、なるべく一緒にいたいと思ってる。だから、柚子も自信を持ってくれないか」

「はい……えっと……善処します」

「なんか、妙に頼りない返事だな? 柚子のほうこそ、俺のことは遊びなんじゃないのか」

「ち、違いますよ! 私だって賢人さんのこと、本気で好きです!」

「そうか」


 賢人はニヤりと笑うと、柚子のひたいに、瞼に、そして唇にキスをした。それでも足りず、二人は自然と両腕を相手の体に伸ばし、抱きしめ合う。

 裸のまま抱き合ってするキスは今までで一番甘く、とろけそうだと柚子は思った。

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