個人依頼
「─── それで?
先ほど言っていた話とは何です?」
私は主菜である鹿肉のステーキを口に運びながら【イカレ修道女】尋ねた。
ミディアムレアの絶妙な焼き加減が美味しい。
「あぁ・・・そんなこともありましたね。」
上品な所作でありながら すっかりステーキに夢中になっていたシスターは、言われて やっと思い出したらしく、懐から件の書状を取り出した。
「我々の大口スポンサーの一人・・・『枢機卿』からの個人依頼です。」
「『枢機卿』~?
まーた面倒な依頼じゃないでしょうね?」
『枢機卿』とは私達の活動に対して多額の出資をしてくれている匿名のスポンサーだ。
教会関係者だということしか明かしておらず、腐っても教会の聖職者の末席を汚しているシスターを通して時たま個人依頼を飛ばしてくる。
ただ、多額の出資をしている対価とでもいうのか、飛ばされてくる個人依頼は厄介なものばかりだ。
「残念ながら、今回も厄介な依頼です。
この書状の内容を要約すると、『聖都から聖剣を盗み出して欲しい』になります。」
「─── はい、パスパス。
こちとら世紀の大怪盗でも何でもない、しがない冒険者ですよ?
出来るワケないじゃないですか。」
ビックリするくらいアホな依頼だった。
どのくらいアホかというと、前世でいうバチカン市国から聖遺物を持ち出して来いくらいのアホな依頼だ。
それも聖剣となると、この世界では言ってしまえば前世でいう聖ペテロの遺骨くらい重要な聖遺物になる。
それを盗み出してこいとか・・・いよいよ『枢機卿』が教会関係者かどうかも怪しくなってくるな。
本当はどこかの世間知らずのボンボン貴族とかなんじゃないのか?
「・・・と、言いたいところですが。
貴方のことです。
何か勝算があるから私のところに話を持って来たんですよね?」
「?
いえ、面白そうだから持って来ただけですが・・・?」
・・・出たよ、シスターの享楽主義。
こんなんだからイカレとか言われるんですよ。
「・・・勝算はないでしょう?
そんな話に団員の命を賭けるワケには───」
「勝算があると言ったら?」
「─── 面白そうだから やります。
で?
その勝算というのは?」
勝算があるなら話は別だよ。
さぁ早く聞かせなさい。
「近くある聖剣祭の折、『枢機卿』の関係者が手引きをして下さるそうです。
後は我々が聖剣を聖都の外へ持ち出せれば依頼達成ということになります。」
「?
『枢機卿』の関係者が聖都にいるんですか?
それなら その関係者が聖剣を持ち出せば良いのでは?」
素朴な疑問を口にした。
なんだ?
私達を使い捨ての駒にでもしようとしているのか?
「アスカ・・・聖剣は大岩に刺さっているのですよ?
そんな状態で一般人が持ち出せるワケないではないですか。」
「はい・・・?」
なにそれ、知らん・・・怖っ。
・枢機卿:
教会において教皇庁の運営を支える最高位聖職者であり、教皇を選ぶ選挙において選挙権(次の教皇に成る、ないし選ぶ権利)を持つ。
・聖都:
教皇庁の本拠地がある都市であり、教会の宗教的中心地。
・聖剣:
とても凄い聖遺物。
・聖剣祭:
収穫祭の宗教的亜種。




