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会員制サロン

都市の中でも自然の残る長閑(のどか)な地区を抜け、小綺麗な高級商店街へと入る。

そこでは最低でも中流階級以上と思われるような、しっかりとした正装を身に付けた人々がショッピングを楽しんでいた。


「─── 相変わらず騒がしいこと。」


しかしそんな下町に比べれば天国か何かのように思えるような行儀の良い商店街でも、【イカレ(ルナティック)修道女(・シスター)】にとっては下品に映るらしい。


それもそのはず。

このシスター、こう見えて貴族の生まれなのである。

しかも、信じがたいことに超が付くような高位貴族の生まれなのだ。


なんでこんなアホが生まれたのか分からんね、全く。


「?

何か失礼なことを考えている顔をしていますね。」


「・・・いえ、別に?

生まれの割に何でコイツこんなにアホなんだろうとか考えてませんよ、全く。」


「死にたいんですか・・・?」


何か怖い顔をしているが、私からすると猫が威嚇しているようにしか見えない。

つまるところ全く怖く感じない。

他の人からするとビックリするくらい怖いらしいが、本当にコイツの何が怖いのか全く分からない。


「今からでも貴族街にあるサロン(社交に使う食事処)にでも行きます?」


「・・・いえ、それだと少し遠すぎます。

少し格が足りませんが・・・まぁ背に腹は代えられません。」


・・・とてもお腹が空いていると仰っております。

貴族街は割と30分も歩けば着く距離にあるのだが、それすら億劫になってきているらしい。


それを悟った私は、近くに会員制のサロンがあったので そこに入ることにした。

入口の門を潜ると横に受付の人がいたので、冒険者としての紋章の入った認識票(ドックタグ)を見せる。


「─── 空いている お席へ どうぞ。」


勧められるまま、私達は店の奥へと足を踏み入れた。

こういうとき、冒険者としてのドックタグは便利だ。


「全く・・・席への案内も無いとは・・・。」


私としては前世のファミリーレストランを思い出して居心地が良いのだが、高位貴族の子女として育った経験のあるシスターからすると格落ちの店に見えるらしい。


「じゃあ、貴方が案内して下さいよ。

どうせ好きに座っていいんですから。」


「はぁ?

・・・まぁ、確かに貴方であれば私が案内すべき立場ですね。

いいでしょう。」


そう言うと、シスターは実に美しい所作で私を中央の席へと誘ってくれた。

仕切りのついた半個室で、椅子は二人分しっかりある。


「こちらへどうぞ。」


お、椅子まで引いてくれるんですか。

流石、無駄に良い教育受けてませんね。


「どうも。」


それだけ言って、席に着く。

私が席に着いた後、シスターも反対側の席に座った。


「・・・ふむ。

安物ですが・・・悪くありませんね。

基本は押さえてあるようです。」


シスターがリネンの類い(ナプキンやテーブルクロスなど)や備え付けのカラトリー(ナイフやフォークなど)、食器(ゴブレットや皿など)を確認して満足気に鼻を鳴らす。

その様子は完全に寝床を足踏みして確認する猫そのものだった。

明らかに「まぁ、これくらいなら勘弁してやるか」という態度がデカいタイプの家猫の気を感じる。


その様子を眺めて楽しんでいると、やがて給仕(ウェイトスタッフ)が やって来た。

・・・その手にはワインを持っている。

まぁ・・・そうだよな、それが普通だよな・・・。


「あ、すみません。

私お酒呑めないので、水かミルクにして下さい。」


「・・・フッ。」


何か鼻で嗤われた・・・。

最近こういうの多いな。

いや確かにこの世界じゃワインなんて水みたいなもんだけどさぁ・・・。


面倒臭くて私が対応を決めかねていると、先にシスターが動いた。


私の方を無視してシスターの方にワインを注ごうとしてるウェイトスタッフの動作を、手で差し止める。


「基本は押さえているかと思いましたが・・・はぁ、やはり猿真似に過ぎないということですか。」


そう言って流れるような所作で自然にウェイトスタッフの手からワインボトルを没収すると ───




─── そのままウェイトスタッフの指を小枝か何かのように手折った。




「!? っあ、ぐぅあぁぁ!!??」


「・・・耳障りですね。

その口は来客(ゲスト)に対する礼儀もなっていないばかりか、不快な音まで奏でるのですか。」


そうして膝をついて腕を抱えてのたくるウェイトスタッフの下顎を、ナプキンを持った拳で強かに打った。

返り血は全てナプキンが受け止め、シスターには一切掛からない。


シスターの機嫌を損ねたウェイトスタッフは、その衝撃で音も無く倒れる。

シスターは そのまま倒れ伏したウェイトスタッフの上に汚れたナプキンを(ほお)った。


そうして視線を、遠くで硬直している別のウェイトスタッフの方に向ける。

これは上流階級からの合図で、「さっさと来い」という意味だ。


顔を蒼白にして恐怖に震えるウェイトスタッフがやってくる。


「さっさとこの出来損ないを下げなさい。」


「申し訳ございません。

後ほど お詫びを───」


「必要ありません。

これ以上 私の手を煩わせないで下さい。」


「・・・かしこまりました。」


恐縮したような、それでいてどこかホッとした様子のウェイトスタッフが頭を下げる。

少しして、他のウェイトスタッフが何人かやってきて気絶したウェイトスタッフを引き摺っていった。

・・・これで傷害罪が適応されないんだもんなぁ。

前世の感覚を真面目に引き摺ってるのが嫌になる。


「─── さぁ、アスカ。

まずはミルクをどうぞ。」


頬杖を突いて前世との感覚の齟齬を嘆いていると、どうやら完全に このサロンのウェイトスタッフに対する信用を失ったらしいシスターが、私のゴブレットに手ずからミルクを注いでくれる。

・・・そのラベル、結構いい値段のする高級ミルクじゃないか?


「ありがとうございます、シスター。

お陰で面倒事が省けましたよ。」


「・・・感謝される程の事ではありません。

友人として、当然の対処をしたに過ぎませんから。」


「え?

貴族の間ではあれが当然なんですか??

・・・こわ。」


「何を言っているんですか。

あんなのがもし貴族の前に出たら、良くて本人の処刑、悪くて一族郎党 皆殺しです。」


「こわ・・・貴族って野蛮なんですね・・・。」


処刑(ころ)しますよ?」


そんなことを口にしながら、互いにゴブレットを軽く持ち上げた。

その所作は、前世でいう乾杯の音頭に似ていた。

・貴族サロン:

 貴族ないし貴族からの紹介がないと入れない貴族街にあるサロン。

 一応、貴族との繋がりもあるアスカは入ることが出来るが、今回は距離の関係で選ばれなかった。


・会員制サロン:

 オーナーもしくは既存の会員からの紹介がないと入れない、高級商店街のような小綺麗な場所にあるサロン。

 普通 給仕ウェイトスタッフは厳しい教育を受けており、間違ってもゲストに失礼を働くようなことはないが、今回もアスカの運が悪過ぎる故に十分に教育が行き届いていない給仕に当たってしまった。

 オーナー的には、失礼を働いた給仕が殴られる程度で済んだなら御の字も御の字だろう。

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