そうして私の仕事は終わった。
<数日後・・・定期商隊の目的地だった都市>
「あんのクソトカゲ・・・何で私が近づいた瞬間 復活しますかね・・・。」
「凄かった。
アスカが近づいた途端、竜が起きて逃げた。」
実際その通りだった。
なんとあの後、私が商隊長に安全なところを見せようと倒れ伏した竜に近づいた瞬間、あのクソトカゲは跳ね起きやがったのだ。
しかも その後、私の顔を見るなり飛んで逃げるし・・・。
どうせ起きるなら、もっと素材を剥ぎ取り終わってからにして欲しかった。
「はぁ・・・結局コレ以外は全損ですか・・・。」
私は左手 薬指に嵌った指輪を見た。
そこには特殊な金属で出来たリング上に輝く、加工されて縮んだ竜の眼球があった。
別に左手 薬指にあるのは変な意味ではなく、この指輪が『魔法の指輪』なので心臓に一番近いとされるココが良いらしい。
物理的に一番近い指は左手の親指じゃねとは思ったが、別に拘りも無かったので特に突っ込まなかった。
旅団の仲間が加工してくれたそれは、生の状態でも感じたような不思議な熱を感じさせる。
温度的には つけて間もないので冷たい方のはずなのだが。
「貴重なもの。
魔法使いなら殺してでも欲しがる。」
「欲しいならくれてやりますよ、こんなクソトカゲの眼・・・。」
加工された竜の眼は正に宝石だった。
水分が失われ圧縮された それは小さな宝玉のようで、瞳孔から虹彩にかけてのグラデーションは、鉱脈から産出されるような どんな宝石よりも美しい。
・・・ただ、コレがあのクソトカゲのものだと思うと、その輝きも大した価値を持つとは思えなかった。
私は単に使えると思ったから身に付けているが、欲しいと思う奇特な奴がいるなら譲ってやろうと思う。
「ま、商隊長が褒賞金という名の お小遣いをくれたので多少穴埋めは出来ましたが。」
私は【動く要塞】に持たせた買い出しの荷物を指の背で叩く。
毒に各種の矢、馬の飼料など買い足すものは沢山あった。
前任の旅団長である【傷だらけの男】がいなくなった今、備品の最終チェックは私の責任である。
しかし、だからこそ役得もあるワケで・・・。
「ほら、ルーク。」
私はリビング・ルークに、手持ちの紙袋の中から真っ赤なリンゴを投げ渡した。
リビング・ルークは空いている片手で受け取る。
「・・・いいリンゴ。」
「この辺りの特産品だそうですよ。
良い色艶してますよね。」
リンゴを齧る。
小気味いい音と共に、口一杯に芳醇な甘みと僅かな酸味が広がる。
特産品というだけあって、前世の農家が品種改良を繰り返したものと遜色なかった。
・・・強いて言えば少し硬いくらいか。
「勢いで齧りましたが・・・やっぱ硬いですね、リンゴ。
ここからスライスするのもダルいですし、後でヴェイルにでも食わせますか・・・。」
「暴れても知らない。」
旅団を統率するリーダーとして、足りなかった備品を持って二人で帰路に就いた。
この後 馬屋から脱走したグリムヴェイルと遭遇して、有無を言わさず食べかけのリンゴを口に ねじ込むことになるのだが、それはまた別の話。
・魔法の指輪:
不思議な力を持つ指輪のこと。
そう称されるような指輪は例外なく大きな力を持ち、人を幸せにも不幸にもする。
魔法を扱う魔法使いは勿論、貴族や王族などの権力者も私財を投げ打つ勢いで欲するだろう。
ただ、アスカにとっては見どころのある道具程度の価値しか持たない。
それどころか、素材の出所が出所なので、早めに高値で売り払いたいと思ってるまである。
・加工された竜の眼:
血管や神経などを処理した上で、水分を抜いて圧縮したもの。
元の体積とは比べ物にならないほど小さくなっているが、その力は全く失われていない。
並の神経の持ち主であれば、きっと手に持っただけで気絶してしまうだろう。
・商隊長が出した褒賞金:
商隊長が自身の権限で出せる金額の限界値近くの褒賞金。
一般的な感性で言えば とんでもない額だが、『竜退治』の正式な依頼料に比べれば雀の涙ほどだし、冒険者の旅団運営費からすれば正に”お小遣い”程度の額でしかない。
特産品のリンゴ:
美味しいリンゴ。
それだけで、この世界では とても凄いこと。
グリムヴェイルの脱走癖:
普段アスカは気にしていないが、今度ばかりはダストシュートする良い口実になってしまった。
それはそうと、グリムヴェイルはウサギさんカットしたリンゴが大好き。
美味しいリンゴは そのままでもいけるが、ウサギさんカットをすれば もっと好き。




