『橙の残火、魂の鉄拳』
「クハハハ! 壊れろ! 全て消えて、私の美しい数式の一部となれ!」
阿久津、いや「ネクサス・アビス」の放つ黒い触手が、駒とりんを縛り上げ、その生命力を吸い取っていく。操られた小太郎の漆黒の刃が、二人の喉元へ迫る。
だがその時、阿久津の巨大な肉体が内側から不自然に脈動し、メタリックオレンジの火花が噴き出した。
「……ガ、ハッ……!? なんだ、この拒絶反応は……取り込んだはずの、祐史郎の残滓か……!」
「……小、太……郎……。……聞こえるか……」
阿久津の歪んだ肉体の隙間から、半透明の、しかし燃えるような意志を宿した祐史郎の姿が浮かび上がる。彼は阿久津の心臓部——全マブイ球の統合点——を、内側からその腕でガッチリと掴んでいた。
「兄貴……!?」
支配のノイズに塗れていた小太郎のバイザーが、一瞬、激しく明滅する。
「偽物の魂でも……死に損ないのデータでも……。弟を守りたいと願うこの熱さだけは、お前にだけは解析させないッ!!」
祐史郎が咆哮する。彼の肉体がオレンジ色の炎と化し、阿久津の「アビス」装甲を内側から焼き、食い破っていく。
「小太郎! こいつは今、俺が抑えている! 俺のこの残ったマブイごと……こいつを殴れ!! お前のその拳で、全ての『間違い』を終わらせるんだ!!」
「でも、そんなことしたら……兄貴まで本当に消えちゃうんだぞ!!」
小太郎の叫びに、祐史郎はかつての、15年前のあの日のような優しい、どこか晴れやかな顔で笑った。
「……いいんだ。俺はもう、十分にお前の成長を見られた。……行け、小太郎! お前が、俺たちの『生きた証』だ!!」
小太郎の瞳に、熱い涙が溢れる。
彼は、自分を忘れた仲間のために、自分を騙した兄のために、そして自分自身の「記憶」を取り戻すために、全身全霊の力を右拳に集めた。
「……うおおおおおおおお!!」
小太郎が、自分自身の胸のコアを、これまでにない強さで叩きつける。
ドォォォォォォォォン!!
レッドの装甲が、黒を焼き切り、オレンジの炎を纏い、純粋な「真紅」へと再覚醒する。
「これでお別れだ、阿久津! そして……ありがとう、兄貴!!」
小太郎の拳が、祐史郎が露わにした阿久津の核へと、魂の重さを乗せて突き刺さった。




