前編
周りは、見渡す限りの砂漠である。
「置いて行かれましたわっ」
”ネムリネコ”は大声を出した。
黒くて三角の猫耳が、ピコピコ動く。
『アレク様達から伝言があります』
メイドチョーの姿をしたナビゲーターだ。
『ランク、ssssssssssssssssssss(20個)のパーティーである、”アレクとキャットガーディアンズ”に緊急クエストだそうです』
『この先の砂漠のオアシス都市、”サシャ―ト”に、ワイバーンを神の使いとあがめる、”ハイリザードマン”の軍隊が攻めてきているようです』
『その数約5千』
『オアシス都市から可能な限り離れろ、とのことです』
「!、ナビゲーターッ」
「心得ております」
瀟洒な礼をする。
◆
『”置き去り“の回数が規定値を越えました』
『チートスキル、”完全自律報復型、移動要塞、クレイジーキャット”が、|完全思考同期型装甲巨兵”ケットシー”に進化します』
『ふふっ、私を使いこなしてくださいませ、ご主人様』
「……当り前ですわっ、 飼い主の居場所を特定しなさいなっ」
全高約7メートルの女性型巨大ロボットが召喚される。
魔女の服装に魔女の杖。
三角帽子には、ネコミミが生えている。
目をつぶった美女の顔はどことなくネムリネコに似ていた。
軽鎧をつけた胸部装甲が前に開く。
飾り気のない椅子に座った。
「10年前のただ眠っていただけの私ではありませんわっっ」
”マネキネコジャンプ”発動。
姿を消した。
◆
「マリッサはネムリネコと残って欲しかった」
リーダーで戦士のアレクだ。
ダークマターで出来た大剣を構える。
「我が愛弟子に幸多からんことを」
シーフのゲンゴローである。
シノビ装備に、右手にムラマサ、左手にマサムネ。
クリティカル率は、120%を超える。
「……死ねないわっ」
女魔術師のマリッサだ。
お腹を愛おし気にさする。
宇宙世界樹で出来た杖を構えた。
「マリッサさんだけは死なせない」
女司祭のシスティナである。
聖戦装備の白い機動甲冑を纏っている。
アーマースカートに、方形シールド。
ロケット付きのハンマー装備だ。
「痛みを消してきた……」
モンクのフルードだ。
阿修羅流格闘術の禁忌技だ。
腕がもげようが、足が取れようが、戦い続ける修羅と化す。
「……おいでイルク……」
エルフのエルファフィンである。
長髪がショートカットになっている。
乙女の髪を犠牲にして、”風の精霊王”を召喚したのだ。
「ベルトが何時まで持つか」
ドワーフのドワイトだ。
両手にミニガンを装備している。
「……前に同じ場所に、ネムリネコを追きざりにして10年か……」
ハーフリングのハフアである。
ニャンタの、70式中戦車の銃座についた。
「ワイバーンのような亜竜に心を奪われおって」
ドラゴニュートのバハムだ。
背中に竜の羽、手に竜の爪、半竜状態だ。
「……この装備を出すとはな……」
猫系獣人のニャンタである。
70式中戦車。
正規軍時代に、上官の命令で町一つ、女子供関係なく殲滅した過去がある。
「いざとなったら置き去りにしてくださいっっ」
荷物持ちのポータだ。
あらゆるチート展開が、パーティーを助けるだろう。
”サシャ―ト”の町の前に、5千のハイリザードマンが整然と並んでいた。
◆
戦いは苛烈を極めた。
ハイリザードマンは一人一人が優秀な魔法戦士である。
「ベルトッ、ベルトはどこだ」
約三分の一くらい減らしたところで、弾切れが起き始めた。
風の精霊王は、巨大な竜巻を起こした後消えていった。
「うおおおおおお」
アレクが黒い大剣を振りかざしている。
ゲンゴローが目の前の敵と、隣の敵の首を跳ねる。
クリティカル率、120%とはこういうことである。
「させないっ」
マリッサに襲い掛かろうとしたハイリザードマンを、システィナがロケットハンマーで吹き飛ばす。
「連環獄炎鎖っ」
マリッサの最上級炎魔法である。
胎教に悪そうだ。
70式中戦車には二、三体、取りつかれていた。
「ハフア逃げろっ、自爆させる」
……遂にお前たちの所に行けるのか? 戦友……
ニャンタが自爆ボタンを押そうとした
その時、
ドカドカドカドカ――ン
樽爆弾の絨毯爆撃だ。