おにごっこ
助かったのか助かってないのかよくわからないこの状況、いや、間違っても助かってはいないだろう。
だが、さっきのタックルのお陰か腹は痛いが足は動く。
俺は震える足を無視して横に転がっている手作りの槍を持ち後方へ走って逃げた。
先程の鹿馬のように木々の隙間を縫うように走る。
しかし残念ながら運動音痴な俺が走っても延命措置を しているだけのようだ。でも走らなければあの二匹の猪の大きな角で串刺しだ。
そうならない為にも俺は全力で逃げる……と言っても100m23秒の俺では風前の灯と言うやつなんじゃないだろうか?
走っている時に後ろを振り向くと足が遅くなると聞いたことがあるが、俺の場合は適用されず、後ろを振り向こうとも遅いから問題なく振り返ってみると。
「ブルルゥッキュアァアス!!」
どうやらご乱心のようだ、そんな鳴き声をあげながら一匹の猪はバッキバッキと木を倒しながらこっちに追ってきている。
ん?一匹?もう一匹は何処へいった?
追ってきているのは後から出てきたデカブツ猪より二回りくらい小さいがそれでも大きめの猪だ。
小さめなのが幸いか、木を倒す事は出来ても走る速度はどんどん遅くなっていく。
もしかしたら2手に別れて挟み撃ちしてくるかもしれない、今のうちに一匹倒しておきたいな。
何か良い手はないか……っと! くそっ!考えながら走ると駄目だ!集中できないし足元への注意が疎かになって転びかけた。
息も絶え絶えで、良くここまで持ったものだ、俺はもう限界だ。俺を食うならせめて醤油で食べてくれ。
疲労はピークに達しているし昨日から何も口に入れていないせいか足にもあまり力が入らない。
言い訳かもしれないが、そのせいで転んだ気のせいか脛が痛い。
転んで落ち着いたら気が付いた、ここは昨日の焚き火した所だ、目の前に跡がある。
そして俺が転んだのも、俺がほったらかしにした罠のせいだろう。
その罠は木と木の間に丈夫な木の棒を、ちょうどすね辺りに当たる程度の高さにして、野性動物の侵入、人間の足掛けになるようにした簡単な罠だ。
脛が痛いのは気のせいではなかったか。
そして猪と俺の距離は100mを切った。
前に読んだ小説ならここで誰かが助けてくれるか、俺の中の隠れた潜在能力とやらが開花するんだが。現実はそう甘くない、残念だ。
あと少しで逃げきれたかも知れなかった。
俺は諦めた。打開策なんて無いし、この僅かな時間で思い付ける程頭の回転はよろしくない。
ただボーッと猪がこちらに全力で突進してくるのを見ていた。
───が。
ガッ!!と鈍い音がした。猪の足元からだ。
その瞬間……猪は飛んだ。
そう、飛んだ。ぶっ飛んだのだ。
「う、うわぁぁあ!!!」
俺の真上まで。
俺の幼稚な罠に引っ掛かったのだろうか、高さ五メートルは飛んだ。
どうやら猪は俺をフライングボディプレスで圧殺することに決めたらしい。
あまりの恐怖に震えながらも手作りの槍 (よくいままで落とさなかったな) を顎に突き立ててやった。
残念ながらあまり効果は期待できなかった。頭は柔らかいと思ったんだが……
そして。
猪の大きなボデーは。
俺に自由落下を決め込んだ。
その茶色くて大きい毛玉が上から降ってくる恐怖に耐えられず、俺の意識は簡単に逃げ出した。
長文は得意ではないのでさくさくっと書かせてもらってます。
短くてすいません。