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歌い手令嬢の鎮魂歌~悪役令嬢らしいけどそんなことはどうでもいい  作者: るんた


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王太子視点5

続きを開いていただきありがとうございます。

 魂送りの奇跡の後、光の粉が地上に振り注ぎ、再び辺りが暗くなった。


 暗闇と静寂。


 言葉が出ず呆然としていると、足音と共にランタンの灯りが点けられた。メイドと護衛が彼女の元へ走っていく。

 灯りが離れ私達の周りが暗くなる。


 私は深く息を吸ってから側近達に向き直った。


「彼女が『神子』であることは間違いないな」


 神官であるソルの手は小刻みに震えている。


「は、はい。素晴らしい魂送りでございました。その上国中に祝福まで……」


「祝福?!それは本当か」


「はい。最後に降り注いだ光は間違いなく神の祝福でした」


「そうか……」


 オスヴィンが指先を口元に当てて考えてから言った。


「それですと公爵令嬢を予定通り断罪するのは悪手でしょう」


「そうだな」


「婚約破棄をしないということですか?!モモはどうするんですか!」


 トルキルが納得できないとばかりに声を大きくした。コラドは黙って眉を顰めている。

 私は言葉を搾り出した。


「モモのことは、大切にするつもりだ」


「モモを正妃にするんじゃないんですか。僕はふたりを支えようと誓っていたのに……!」


 いや、お前もモモと絡み合ってたんだよな?次期王妃とってどうなんだ?内心毒づくが確証が無い為、今は口にしないおく。


「今後のことは改めて練り直すべきだろう。……例え素行が悪くても神子である者を蔑ろにすることはできない。そうだろう?」


 オスヴィンが頷いた。


「国の為を思えば手綱を放すべきではないかと」


 胸の前で手を組んだソルが目を輝かせる。


「よろしければ教会に神子様をお迎えできるよう、神官長である私の父に進言いたしますが」


「それはいいですね!」


 勝手にトルキルが同意しているが果たしてそれでいいのだろうか。

 確かにモモは可憐だ。だが清らかではないかも知れない。それに対して婚約者は神子だ。清廉であることは間違いない。気が強い所があるが美しく、私の為に舞を見せてくれるなら婚約を続けてやることもやぶさかではない。


「いや、彼女はまだ私の婚約者だ。簡単に教会に身柄を渡すことはできない」


「そんな!」


 ソルが悲痛な声を出す。教会としては神子を取り込みたい所だろう。

 トルキルが不機嫌を隠さず言う。


「明日の計画はどうするんですか?せっかく証拠も集めたのに」


「…………保留だ」


「姉と結婚する気ですか?」


「それは、」


「公爵令嬢を教会に引き渡すのが難しいなら我が家で引き取りますが」


 オスヴィンが笑顔で入ってきた。婚約者を下げ渡せと言うことか?そもそもお前も婚約者がいるだろう。どうするつもりだ。


「お前もモモの方が好ましいと言っていたではないか。……仲良く絡み合っていたのだろう?」


 私の言葉に笑顔が固まる。……屑が。


「それでは、」


「殿下、見てください」


 皆が言い淀んでいる所にコラドが声を掛けてきた。視線を婚約者の方に向けている。

 其方を見ると、遠くに立つ3人の足元に魔法陣が輝いている。何らかの魔導具を起動しているようだ。


「あれは転移の魔導具だと思われます」


「……は?城に戻るのではないか?」


「いえ。転移の魔導具は貴重なものです。その為に使うのは考えにくいかと」


「まさか逃げるつもりか?!」


「明日の婚約破棄を知っていたことから鑑みまして、恐らく」


「早く言え!!!!」


 私は森の暗がりを飛び出し婚約者の方へ走り出した。声を張り上げる。


「待てっ!!!!!!」


 私の声が届いたらしく婚約者が振り返った。整った顔が魔法陣の光に照らされ、見開かれた瞳は遠くから見ても輝いている。

 だがすぐに目を細め、護衛の方を向いた。私が見えてないのか?魔導具が起動し切る前に止めなくては!必死に足を動かす。


 近づいていくと婚約者がもう一度こちらを見た。おっとりと首を傾げて私の顔を見つめている。私に気付いたな!よし!!


 間に合ったと安心した私の耳に、婚約者達の驚くべき会話が聞こえてきた。


「いつもの仲間達じゃない。いやよ。明日ちゃんと悪役令嬢やれって話でしょう?その役はどうでもいいわ」


「ですよね」


 何でだ?!!悪役令嬢になんてしない!君は神子なんだ!!!

 そう言ってやりたいのに全力疾走で息が切れ声にならない。魔法陣が虹色に光りだしてしまった。気持ちを伝えようと必死に手を伸ばす。


「待っ……!」


 私の頑張りも虚しく婚約者が目の前で光に包まれる。消える間際、やけに穏やかな顔で右の掌を小さく振るのが見えた。



 そして私達は、星明かりの森の闇に取り残された。





 ――私の婚約者は神子だったのに、悪役令嬢役はどうでもいいと言って消えてしまった。









最後まで拙い作品にお付き合いいただき感謝しかありません!ありがとうございました!

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