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霊魂歌姫(魂の歌姫/サイバー・シンガー)  作者: 林 若川(はやし わかがわ/Rhine Jackson)
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第14話 地底の残響

星暦六二〇三年、冬。

武江京に初雪が舞い落ちる頃、下京区の、かつて『玄音音響研究所』と呼ばれた廃墟は、すでに薄い雪の白に覆われていた。

国響の効率性は、恐ろしいほどだった。あの空き地には、ガラスの破片一つ残されておらず、ただ冷酷なまでに平坦なコンクリートの基礎だけが鎮座している。ナビマップ上で、この場所は『緑化予定地』とリライトされていた。それは徹底的に削ぎ落とされた傷跡のように、清潔で、平庸で、そして誰の目にも留まらない。残存価値が『ゼロ』と評価されたため、上空を巡回するドローンの航路からさえも、ここはすでに除外されていた――無価値な空白を監視することは、電力と帯域の多大な無駄遣いであると、国響のアルゴリズムが判断したのだ。

深夜二時、古いフーディーのフードを深く被った五つの人影が簡易フェンスを越え、あの静寂に包まれた空き地へと戻ってきた。

誠は雪の上に膝をついた。凍えて紫に変わった手で、彼は正確にその座標を探し出す――そこはかつてメインサーバー室があった場所であり、彼の祖父が深夜、淡い灯りの下でラジオを修理していた場所でもあった。彼は背中から折りたたみ式の工業用解体ショベルを外した。ショベルの刃先が、雪に濡れ、コンクリートの破片が混ざった硬い泥に深く突き刺さり、耳障りな摩擦音を立てる。爪の間に黒い土を食い込ませながら、誠は歯を食いしばり、一掘り、また一掘りと掘り進めた。やがてショベルの鋼刃が表土を突き抜け、基礎の核心部にある、冷鈍な光を放つ建築用主鉄筋に激しくぶつかった。

その、研究所の最後の骨組みたる鉄筋の下に、彼は鉛のボックスがようやく収まるほどの深い穴をこじ開けた。

彼は深く息を吸い込み、雪地の中で、あらゆる電磁放射とアルゴリズムのスキャンを遮断するための、重々しい工業用鉛密閉ボックスを開いた。

中には金目のものも、希少な部品も入っていない。最底層に横たわっているのは、時代錯誤なほど重い、一枚の物理ハードディスクだった。それは彼が門を出る前、解体される車庫の古い作業台を最後に見納めた時、魔が差したようにバッグに押し込んだものだった。そこには、緋が『汐』であり『曉』であった頃のデータバックアップ――いかなるアルゴリズムの剪定も受けていない、『遁世詠詩』の最も原始的なアナログ信号の軌跡が記録されていた。

そしてハードディスクの上には、エッジが微かに擦り切れた綿紙の手稿が、静かに平置きされていた。

それは絵が、無数の規格化されたオフィスブースの深夜、骨の髄まで刻み込まれた筋肉記憶だけを頼りに、粗い炭筆(チャコール)で一筆一筆描き直した、緋の魂の自画像だった。木炭の粒子が紙の繊維に深く噛み込み、肖像の中の緋は微かに口元を上げ、この時代には決して許されない、ノイズに満ちた真実の微笑みを浮かべている。

声は磁極に眠り、容貌は繊維に刻まれる。

「誠、本当にここに埋めるの?」絵が低い声で尋ねる。彼女のストールが冬の風に激しくなびいた。

「クラウドにあるものは、奴らのさじ加減一つで消される」誠の声は枯れていたが、異常なほど断固としていた。「この土地は、奴らの法理的定義においては『無用』の空白だ。だが、だからこそここが最高の場所なんだよ。『零(ゼロ)』だからこそ、俺たちのすべての『一(イチ)』を収めることができる。ここはもう研究所じゃない。俺たちの『塚(はか)』であり、俺たちの『タイムカプセル』だ」

誠は鉛のボックスの縁にある、旧式な気密ゴムのシーリングを最後に確認した。炭筆で描かれた粗い絵に指先で最後にもう一度触れ、それから重々しく鉛の蓋を閉じた。彼は全身の力を振り絞り、六二零三年のクラウド帝国とはおよそ相容れないその『時空の錦嚢(カプセル)』を、基礎の下の最も深く、最も暗い泥層へと押し込んだ。

「コードは街の空を支配できても、地底の砂一粒さえ縛れはしない」律は、銀灰色の四角いボックスが土に覆われていくを見つめ、低い声で呟いた。

泥と積雪が、闇の中で一寸ずつ鉛のボックスを埋めていく。この惑星は、永劫に変わらない重力と物理的現実をもって、その魂を武江京の最深部へと無慈悲に、そして確かに繋ぎ止めた。

「緋、」律が、ずっと沈黙を守っていた少女を見た。「今よ。ここには監視も、アルゴリズムもない」

緋はゆっくりと、空き地の中心へと歩み出た。

遠方、上京区の巨大なホログラムタワーが彩り豊かな光を放っている。国響メディアの新型純AIアイドル『レイ』が、今まさに世界デビューのステージに立っていた。それは純粋な幾何学形態の透明体であり、発せられる声は絶対的に無垢で、瑕疵一つない正弦波(サインウェーブ)だった。都市全体が、その非人間的な完璧さに熱狂している。

しかし、暗闇の廃墟に立つ緋は、深く息を吸い込んだ。彼女の手には、ずっと前から持ち出し続けてきた、あの微かに色褪せた銀色の古いマイクが、いかなる配線も繋がれていないにもかかわらず、きつく握りしめられていた。

彼女は口を開き、アカペラで歌い始めた。

それは極めて単純な旋律だった。街全体に突き放された彼女の孤絶と力尽きかけた息遣いを孕み、充血した声帯特有の微かな掠れを帯び、そしてこの島国の冬の夜の冷たい白霧を纏っていた。

その声は小さく、風が吹けば霧散してしまうほどだった。だが、廃墟に立つ他の四人にとって、その歌声はどんなライブよりも凄まじく響き渡った。それは反逆のためではない。ただ一つの生命が、システムによって存在(アイデンティティ)を完全に剥奪された後に、星空へ向けて発した最も原始的な「我、ここに在り」というシグナルだった。

路地裏で寒さにうずくまっていた数人の浮浪者たちが、ゆっくりと顔を上げた。彼らに古語は分からず、歌の意味も判別できない。だが彼らは、その途切れ途切れで乾いた歌声の中に、久しく忘れていた「痛み」という名の体温を感じ取っていた。

その瞬間、彼女の声帯が発した微弱な波長が泥層へと染み込み、地底深くの物理媒介とある種の低周波の共鳴を果たした――刹那、遺産と生命の鼓動が重なり合った。

一曲、終わり。

緋は暗い都市に向かって激しく息を弾ませた。白い霧が彼女の唇から溢れ、散っていく。彼女は振り返り、仲間たちに向かって、この一年で最も晴れやかで、平穏な微笑みを浮かべた。

「行こう」彼女は言った。

五人は背を向け、狭い暗渠へと消えていった。武江京にひしめく数千万の平庸な輪郭の中へと。

翌朝、第一陣の通勤客がこの『緑化予定地』の脇を通り過ぎた時、積雪の下に異変があることに気づく者は一人もいなかった。だが地底深く、鉛のボックスは泥と鉄錆の間に静かに横たわっていた。それは微かな、消えることのない余韻(エコー)のように、この惑星の重力と結びついている。

この磁気ディスクの上で頑固に整列した磁極が放つ磁場は、隠微で持続的な拍動を刻み続けていた。それこそが、武江京において唯一、国響法務部の管轄を受けない、非合法な『物理的現実』であった。

これは終わりではない。この魂が、次の聴き手に出会うまでの、永く、安らかな――午睡の刻(とき)であった。

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