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綻びの鈴が鳴る村で  作者: まなと
鈴隠し編

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8/17

侵入者

白い天井を見つめながら、なおは唇を噛みしめていた。


律はもういない。


あの明るく笑っていた幼なじみは、もう二度と学校に来ない。


胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

苦しい。悲しい。嫌だ、嫌だ。

何度そう思っても、現実は変わらない。

 

――なのに。

 

なぜだろう。

あの山が、頭から離れなかった。

鈴の音。


闇の中で、確かに聞こえた、あの乾いた音。

それに、遠くに見えた謎の明かり。

あれは幻じゃない。

 

行かなきゃいけない。理由なんて、分からないのに。

 

なおはベッドから静かに起き上がった。


点滴の管を外す音が、やけに大きく響いた気がして、思わず息を止める。

 

廊下は静まり返っている。

 

――今なら、行ける。


窓を開け、冷たい夜風を受けながら、なおは外へと身を投げ出した。

山の入り口に立った瞬間、空気が変わった。

昼間なのに、木々の影が濃く、音が吸い込まれていく。


足を踏み入れるたび、落ち葉が不気味に鳴る。

心臓の音がうるさくて、耳を塞ぎたくなる。


 ――こっちだ。


理由は分からない。

けれど、身体が勝手に進む。


登って、登って、登り続ける。


そのときだった。


ゴォォ……。


山の奥から、低く重い音が響いた。車だ。


それも、普通の軽トラじゃない。

大きくて、重たいエンジン音。


なおは音のする方向へ走り出した。

枝に腕を引っかかれ、足元が何度ももつれる。

それでも止まれない。


そして――


木々が途切れた先で、それは姿を現した。


フェンス。


高いコンクリート塀。


そして、錆びかけた看板。


【BES研究所】


……そんな研究所、聞いたことがない。


なのに、胸がざわつく。


ここだ。

ここに、全部の答えがある。

みおは、研究所へと、一歩を踏み出した。


その瞬間、

警報が、突然、山の静寂を引き裂いた。


ビィィ――――!


耳を裂く高音が四方から重なり、空気が震える。建物の壁面に赤い非常灯が灯り、研究所全体が血の色に染まった。


なおの身体が、凍りつく。

次の瞬間、鉄扉が唸りを上げて開いた。


足音が複数。


迷彩服の男たちが、外へ飛び出してくる。白衣ではない。兵士のような動きだった。


「侵入者だ!」


「捕まえろ!生きて連れ戻せ!」


銃口が、一斉になおへ向いた。


「……っ!」


声にならない悲鳴が喉に詰まる。考えるより先に、身体が動いた。


森へ――走る。


枝が腕を裂く。木の幹に肩を打ちつける。足元の根に何度もつまずく。


肺が焼ける。空気が足りない。心臓が暴れている。


ダン!


銃声。


足元の枯葉が弾けた。


ダン!


次の瞬間、左脚に熱が走る。


「っ……!」


膝が崩れる。撃たれた――かすっただけだと気づくまで、数秒かかった。


血が靴下を濡らしていく。

後ろで怒声が飛ぶ。


「逃げるな!」


「まだ近い!」


振り向けない。


振り向いたら、終わる。


なおは歯を食いしばり、脚を引きずりながら走った。 


村の灯りが見える。

遠い。


でも、あそこまで行けば――。


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