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かつて見誤ったもの

本編後。シュゼルの兄視点です。

父が失脚し、公爵位と魔術師団長の地位を突然得てから、目まぐるしい時間を過ごしていた。


詳細は聞かされていないが、少し前に王都で起きた魔物の大量発生は、第一王子派が引き起こしたものらしい。

国を揺るがすあの事件に、父も関わっていたようだ。

彼個人の行動であり、当家は何も聞かされていなかったことから、公爵家そのものに責を問われることはなかった。

しかし、父がいなくなったことで、全てが俺に回ってきた。


父は、築いてきた地位をすべて失った。

爵位の剥奪と、魔術師団長の辞任。

——もっとも、師団長の辞任については、責だけが理由ではないらしい。

魔術が一切使えなくなったから、と人伝に聞いた。


(突然魔術を扱えなくなるなど、あり得るのだろうか)


スランプ状態のような事象であれば珍しくもないが、体内の魔力循環が完全に止まっているらしい。

魔力路の異常としか考えられない。

そんな状態は前例がなく、理解できないままだった。


とはいえ、その件について深く考えるほどの暇もない。

引き継ぎ期間もなく就任したため自ら調べなくてはいけないことが多く、実務も止まってはくれない。

睡眠時間など、あってないようなものだ。


「師団長様、来週行われる立太子の礼についてですが……」


部下の一人が、資料を持って話しかけてきた。

立太子の礼——突然戻ってきた第三王子が、王太子になるという話をきいた時は耳を疑った。

暗殺されたはずなのに生きていたというのも驚いたが、一緒に消えていた弟の姿にも言葉を失った。


堂々としていて、立っているだけで誰もがその存在に目を奪われる。

それでいて目立ちすぎず、第三王子の影に控える雰囲気を崩さない。


——まさに、完璧な従者だ。


そう思った瞬間、気がつけば口を開いていた。


「……俺は昔、弟を出来損ないだと思っていた」

「え?」


その呟きを耳にした部下が、首を傾げる。

思わず口にしてしまったことを不覚に思ったが、止まらなかった。


「あいつはアストリアン公爵家の人間にも関わらず、魔術の才がまったくない。しかも公爵子息でありながら従者になるなど——家の恥とすら考えていた」


従者になったのは、親の意向だと聞いた。

魔術は使えないが、頭は回るし見目もいい弟は、王家の繋がりのために利用されたのだろう。

だが、以前偶然見かけた従者としての姿は、あまりにも満たされている様子で。


言いつけだからじゃない、その立場を心から受け入れているのだとわかった。


——己の身分を理解していない。

堕ちることを受け入れているようで、反吐が出た。


「だが、それは俺の視野が狭かっただけだ。我が家門は魔術が全てだと、その価値観の中で生きてきた。……だから、何も視えていなかったんだ」


弟の剣の腕も、判断力も。

諦めでも、堕落でもない。覚悟と誇りを持って忠誠を誓っていたことも。

親の敷いたレールの上しか知らなかった俺には、理解が及ばなかったのだ。


「シュゼルは、優秀な従者だ。これから王太子となる第三王子に、この国に、必要な存在だ」


公爵になり、魔術師団長になり、多くの者たちと接する中で、どれほど価値観が偏っていたのか理解できた。

これまでの考えを恥じる気持ちもあるが、過去のことを悔やんでも仕方がない。

これから、更に多くの者と接する機会が増えていく。

今度は、間違えるわけにはいかない。


(シュゼルと一度話したいが——あいつは、俺に会いたくなどないだろうな)


昔、一度だけ声をかけてきた弟の顔を思い出す。

尊敬を含んだ瞳で見上げながら、遠慮がちに「兄上」と呼ぶ声。


だが、俺はあいつを無視した。

無能と話している暇などない、と。

恐ろしく整った顔で使用人たちに可愛がられていたのも、もしかしたら気に入らなかったのかもしれない。

あまりに子供じみた嫉妬ではあるが、無意識に「何もできないくせに顔だけで」と感じていたのだろう。


それ以来、弟が話しかけて来ることはなかった。

侍女に聞いた話では、両親に怒られたらしい。

兄の邪魔をするな、と。


冷たい態度で見下ろす兄と、両親の牽制。

二度と近寄りたくなくなるのは当然だ。


それに、恐らくあいつは俺の懺悔など受け入れないだろう。

謝罪など、ただのエゴに過ぎないのだから。

そもそも、俺のことなどもう気に留めてない可能性も高い。


だったら、これからはこの国を支えることに尽力する。

そうしたら、国の中枢に関わる者同士、いずれ接する機会も増えるはずだ。


関係の修復は出来なくても、再構築なら可能かもしれない。

——そんな願望をもちながら、目の前の仕事を進めていった。



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