第98話 海の支配者
所々に乱立するように発生している渦潮がまるで竜巻のように姿を見せる海中、その遺跡近くでは二人の男が対峙していた。
一人がどこかやつれた顔をしながらも一切揺るぎない瞳を持ったカイ、もう一人がフォルティナの遣いであり天恵者の一人でもあるケイネス。
「どうやら頑丈が取り柄のようだな。だが、それじゃあ俺を倒せねぇぜ?」
「わかってるさ。だから、これからちゃんとやるよ。
おっさんはある程度の年齢にいくと準備運動も大変なんだよ」
「つまり今までは本気じゃなかったと?」
「それはお互い様だろう?」
そのカイの言葉にケイネスはニヤリと笑った。そして、その狂気的笑みのまま告げる。
「だが、恐らくお前が本気でやっても俺の本気は出せるか怪しいな。
お前の実力は神影隊を倒すまでに及んでいると聞く。
とはいえ、逆に言えばその程度とも言えるな」
「おっさんを舐めるのはいいけど、あまり舐め過ぎると痛い目合うぜ? 特に――――」
「.....っ!」
その時、ケイネスは不意に背後の気配を感じ取った。
その不気味な圧に思わず振り返るとそこにはなぜか先ほどまでしっかりと姿を見ていたはずのカイの姿があるではないか。
「こういうおっさんにはな」
「がっ!」
ケイネスはカイから顔面に重い一発を受け取った。
その衝撃はまるで顔に張り付いたかのようにケイネスの体を下の岩盤まで運んでぶつけていく。
ケイネスは起き上がると素早く砂煙を払った。
すると、正面から弾丸が迫ってくるのでそれを全て魔力を纏わせた手ではじいていく。
「なめんなっ!」
ケイネスは背後から殺気が近づいていることに気付いた。
その殺気を鮮明に脳裏にイメージすると刀での横薙ぎ攻撃だとわかる。
その攻撃をノールックで跳躍して躱すとそのまま体を捻って背後に向かって蹴りを入れた。
しかし、それはカイの片腕で防がれる。
カイは僅かに刀を持った手の向きを変えるとすぐさまケイネスに攻撃するが、ケイネスはそれを防がれた腕を蹴ることによって宙返りしながら回避し、さらに距離を取っていく。
「俺の一発を片腕で防ぐとかイカレてんのか?」
「そうなのか? でも、前に戦った神影隊よりも強いと言うし、俺もまた強くなったみたいだな」
「......なるほど。先ほどの一発の一撃に防御力。
お前という存在がこの世界で実にバランスブレイカーで驚異的な存在ということを実感したな」
「いいね! 着々と君達にとってのバケモノになれているようでなによりだよ。少しだけスカッとする」
カイは不敵な笑みでそう告げた。カイの人生は奪われ続けた人生。
その奪った連中に対しての復讐心がないわけじゃない。故に、その仲間に脅威と認められたのは嬉しかったりする。
しかし、当然カイの主目的は復讐ではない。そんなものはあくまでついでにしかならない。
仲間が生きていると分かった以上、彼らを見つけることこそが最優先事項。
「なぁ、教えてくれないか? ここにいるんだろ? 新倉がさ。ちゃんと生きてるよな?」
「さあな。俺が主様から命を受けているのは必要としないそいつらの処理だ。
そして、俺は手先が器用なんでな、魔物を改造するのは得意だったりする。この意味わかるよな?」
「その言葉はハッタリだな。俺の目にはお前が嘘をついているかどうかぐらいすぐにわかる。
しかしなぁ、少しは言葉を選べよ。俺はこの話題に関しては短気だからよぉ!」
カイの目つきの鋭さが一気に増した。同時に殺気も魔力も圧をかけるように駄々洩れにしていく。
暗く、冷たく、痺れるような感覚が伝播していき、ケイネスもそれを余すところなく感受した。
そして、目の前にいるカイの姿は魔力と殺気によってどんどんと変貌していき、まるで暗い空間の中で無数の手によって体が拘束され、巨大な瞳と見つめ続けているような気分であった。
深淵。光がなく、さらには底が見えない闇の中。
ただその手足が拘束している手によって引きずられていく感覚だけは感じる。
「はっ!」
ケイネスはそのイメージを払拭するように手を振りほどくと元の視界に戻った。
目の前にいるのは先ほどまで対峙していた人間。
あの感じたことのないようなバケモノではない。
「俺が冷や汗を......」
しかし、その恐怖を体はしっかり覚えているのか。
ケイネスの額からは汗が流れ落ちる。動悸も速く、軽く息切れもしてる。
ケイネスはそんな自分を恥じた。
確かに異常な存在ではあるがたかだか人間に恐怖されることがあってはならない、と。
「お前は......何者だ?」
「俺は仲間を探すただの探索者。いや、君の言葉を借りて――――バケモノでもいいかな」
「調子に乗るな! 人間風情がぁ!」
ケイネスは両手を広げてまるで水を掴むように指を曲げるとそのままカイに向かって投げた。
すると、その動きに合わせて二つの流水がカイに接近する。
「おらぁ!」
「っ!」
しかし、その流水よりも先にケイネスが眼前へと近づくと左手を手刀にして一気に突き出す。
それを頬を掠めながらも避けるも、すぐさまケイネスの右手の手刀がカイを刻もうとした。
カイはそれを紙一重で刀でガードする。しかし、その勢いのまま後退させられた。
すると、そこには先ほどの二つの流水が左右から挟み撃ちしてくるではないか。
『パパ、来ます!』
「ああ、わかってるよ!」
『わかってません。来るのは上です!』
カイは刀を振り回し二つの流水の勢いを殺すように切り刻んだ。
しかし、シルビアの警告はその攻撃を防ぐことを見越した二段階攻撃であった。
警告通りに上を見れば僅かにシルエットとして見える巨大な水の手が氷の一本鎗を携えて構えている。
そして、それはケイネスの両手を振り下ろす攻撃に合わせて動き出した。
「くっ!」
カイはそれを刀で防ぐが足場のない水中ではそのまま押し込まれていく。
加えて、水で影が作れない以上、自力でこの攻撃をどうにかするしかない。
「死に晒せぇ!」
その怒涛の連続攻撃に加え、ケイネス自身も水中で高速移動しながらカイに迫ってくる。
「シルビア、力を貸してくれ」
『当たり前です!』
その時、刀だったシルビアはカイの右手のグローブへと変形し、さらには自身の能力でカイの魔力を強化していく。
「まだまだ若いもんには負けねぇぞ!」
カイは強化された右手で氷の槍の先端を掴むとそのまま剛腕をフルに生かして無理やり軌道を変えていく。そして、振り回した先は向かって来るケイネスの方向。
横薙ぎに振るわれるそれをケイネスは機動力で躱していく。
しかし、その動きを先読みしたようにカイが先に接近すると逆袈裟斬りに刃を振るった。
それは僅かにケイネスの胴体を掠める程度に終わる。だが、ケイネスにとってはそれが逆に不自然であった。
なぜならカイが攻撃してきたのは刀を逆手に持った斬り上がり。ならば、僅か十数センチの距離で躱せるはずがない。
「なっ!」
その違和感を感じたまま不意にカイの振るった手を見てみるとそこにあったのは短剣であった。
その僅かな動揺がケイネスに大ダメージを与えることになる。
「がっ」
カイの攻撃を避けた直後に食らったのはカイが回転の勢いのまま裏拳のようにして刺してきた左手の短剣。それは見事にケイネスの左わき腹を抉っていく。
さらにカイは左手を短剣から離すと逃がさないように服を掴み、右手の短剣で袈裟斬りにしていく。
そして、トドメとばかりに左手を離すとその手にシルビアの銃を出現させる。
そこから放たれるはダダダダダンと鳴り響く五発の銃声。
「っ!」
しかし、その銃弾はなぜか勝手に逸れていった。
ほぼゼロ距離で外しようがないというにも関わらず。
まるで自ら当たるのを拒んだかのような感じで。
その事実を目の当たりにしたカイは思わずその場から距離を取った。嫌な予感がしたからだ。
「嫌な予感って要するに危機感ってことだから割に当たるんだよなぁ」
その言葉が示す通り、ケイネスは突然体が青いオーラに纏われ始めた。
その姿はさながら白いオーラを纏ったエンディのようで。
「お前も知っているだろう? 神気開放ってやつだ」
ケイネスはそのオーラを指先に集めていく。
すると、指先一つ一つが神気武装の黄金の鋭利な爪となり、体の周りに色の違うより濃い青色の水を纏っていった。
「しかし、少しだけ違うとすれば、俺達は種族によってその性質が異なる。
そして、俺の能力は天水爪。あらゆる水を操り、好きなように氷も作れる。
ま、今までと大して能力は変わらねぇが、先ほどの俺と一緒にしない方がいいぜ?」
「っ!」
その時、カイは初めてケイネスの姿を見失い。そして、わき腹を深く切り裂かれた。
「速さも威力も」
しかし、カイはすぐさま背後に振り向いて剣を横に振るった。
それに対し、ケイネスは避けるような動作を全くしない。
「そして、防御も全てが先ほどと変わるぜ」
「!?」
カイの刃は一直線にケイネスの首に向かった。
しかし、その刃の軌道は不自然なほどにぐにゃりと変わり、意思とは関係なしに攻撃を外していく。
「はっはー!」
「ぐふっ」
攻撃を当てられない、もしくは外すということは相手に決定的な隙を与えると同じ。
そして、その隙を突くようにケイネスはカイの胴体に蹴りを入れて吹き飛ばしていく。
ケイネスはカイを追いかけるように高速移動すると右手の手刀を突きつける。
カイはその攻撃を斬り払うと開いた左手で掴みかかった。
しかし、その手がケイネスのある程度の所まで近づくとどんなにまっすぐ力を入れても勝手に逸れていく。まるで受け流されているかのように。
「凍裂傷」
そして、またもや作り出してしまった隙にケイネスが左手で引っ掻いていく。
その直後、カイの切り裂かれた胴体は凍りついた。
「水に溶けない氷ってのはありなのか?」
「ここの海は俺のテリトリーだぞ? 所詮は手のひらの上ってわけだ」
『パパ、先ほどの傷、どうやら持続ダメージがあるようです。
傷口付近から徐々に内部へ凍りついてしまっています。
長期戦になると体が壊死しかねません』
『マジかよ......』
シルビアからの言葉にカイはさすがに焦りを感じた。しかし、不思議と負ける気は感じていない。
それは単なる虚栄か、感情が死んでいるのか、はたまた死ぬわけにはいかない意思か。
『んじゃ、そろそろ新技とかいこうか、シルビア』
『うっ、思い付きで考えたアレですか......アレ嫌なんですよね。だって、半端なく負担かかりますし』
『そこをなんとか!』
『はぁ、わかりました。緊急事態ですし』
そして、シルビアから許可を取るとカイは刀の刃先をケイネスに向ける。
「俺達も行くぜ。舐めんなよ? なんせおっさんが体を張るんだからな」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




