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第87話 新たなる不明者の一人

「――――なるほど、そういうことだったか」


 部屋にカインとトトがやって来てから、ルフトは自分が海で漂流してからカイ達に助けられ、ここまでやって来た経緯を話した。


 それに対し、カインはごつい腕を組むと納得するように頷く。その隣ではトトがちびちびと果実水を飲んでいた。


「なら、改めて礼を言わなければならん。愚弟を助けてくれてありがとう」


「いやいや、それにルフト様は愚かというほど曲がった感性はお持ちでなかったですよ。

 むしろ、民のことを考えれるよき王子とも言えましたし」


「とはいえ、このようにしてカイ殿をこんな危険区域となった地に招く形になってしまったことは事実だ」


「いえいえ、それも勘違いです」


「......どういう意味だ?」


 カイの返答にカインが難色を示しているとカイは自分がもともとこの地を目指す予定だった目的を放し始めた。


「実は私は人探しをしておりまして......この中で見覚え、聞き覚えのある名前とかはないでしょうか」


 カイがポケットから取り出したのはお手製の行方不明者リストであった。

 それをテーブルの上に差し出すと対面に座っていたカイン、ルフト、トトはそのリストに目を通していく。


「これは......何かあったのか?」


「えぇ、私にとっては悪夢であって欲しいと何度も願っては受け止めるに時間がかかった事実です」


 そう言ったカイの言葉にソラとエンディは悲しそうな目でカイを見つめ、キリアはそっとシルビアを抱きしめる。


 カインはカイの目の奥に潜む見えない底に気付くとそれ以上の深入りは止めた。そこから先は奈落と気付いたからだ。

 するとその時、トトがリストの一人の人物に指した。


「トト、この人知ってる」


「この人......えーっと、ニイクラ=ミスズ」


「新倉美鈴を知ってるのか!?」


 カイは思わずテーブルに手を付けて前のめりに立ち上がった。

 その反応にトトはビクッとして近くにいたカインの腕に掴むと身を隠していく。

 それを見てカイは思わずハッとすると冷静さを取り戻した。


「すまない、驚かせるつもりはなかった。ただ会える兆しが見えたことに少し取り乱してしまったみたいだ」


「いや、それはきっとトトもわかっているでしょう。

 単に咄嗟にいつものように行動をしてしまっただけ。

 むしろあなた方には心を開いているのでこれからも普通に話せばいい」


 カインの言葉にカイはそっとトトに目線を移していくとトトはギュッとカインの腕を掴んでいるが、しっかりと目線か返してくれるので、確かに怯えられてる様子ではなさそうであった。


 カイは軽く「ごめんね」と謝るとトトに新倉美鈴についての質問を始める。


「それじゃあ、その子についての話を聞かせてもらっていいかな」


「......」


 しかし、その言葉に対してカイに返答することはなかった。すると、ルフトがそのことについて説明を始めた。


「すまない、カイ殿。トトは少し特殊でこれまでの()()で人とスムーズに会話することは難しいんだ。

 本人が興味を持って思ったことがたまにポツリと言葉になって漏れるぐらいで」


「そうでしたか。とはいえ、大切な友人の事情なのでここで引き下がるわけにもいかないです。

 それでは、代わりにトト姫様の通訳としてどちらか話してくださいませんか?」


「いや、必要ない」


 カイの提案に対してカインはバサッと言い切った。その言葉にカイは驚き、同時に空気が僅かに重く淀んだ。

 しかし、その空気はカインの続きの言葉によって霧散していく。


「話すのはトトがやるからだ」


「?」


「あなた達もすでにやってる」


 カイが首をひねっているとトトがポツリと答えた。

 しかし、カイはその言葉にさらに眉を顰める一方で、長年その方法で契約を結んできたシルビアはすぐに気づく。


「おっと、すっかりこの世界の気分に浸ってド忘れしてましたね。

 パパ、私達が常に繋がってる方法で情報を伝えようとしているのですよ」


「う~ん?......あ、魔力パスか!」


 「魔力パス」――カイがシルビアと契約時から常時行っている見えない魔力の(パス)で繋がっている状態で、それが繋がっている間は相方の感情が流れてきたり、逆に流れていったり、両者の魔力パスでの技術が上がったのなら思念で会話できる。所謂「テレパス」だ。


 カイの言葉にトトは眠たげの目で見つめながらコクリと頷くとそっと左手を差し出していく。

 その手を握って魔力を繋げようという意味だろう。

 カイはすぐさま握ろうとするが、ふいに止まると両隣に座るソラ達に話しかけた。


「俺は真実を知るために見るけど、君達はどうする?」


 それはカイなりの気遣いだったのだろう。

 これから知る情報が必ずしもいい情報とは限らず、仮に良い情報であっても、実際に見つけ出した時に悲惨な状況であればその分の感情の落差は激しいものだろう。


 カイは遠回しに促したのだ。知らない方が良い真実もあるのでは、と。

 とはいえ、そう聞いた手前でカイ自身の中ではすでに彼女達の返す反応がなんとなくわかっていた。


 そして、その反応の答え合わせをするようにソラ、エンディ、キリア、シルビアは答えていく。


「当然聞くよ。それがどんな真実であろうと聞かなければならない」


「ケイちゃんのこともあるから気を遣ってくれたんだろうけど、だとすればもう大丈夫。

 それにケイちゃんの友であるなら、ケイちゃんの肉体を譲り受けた私もまた友の代わりとして聞かなければならない」


「カイさんは私を助けてくれました。今から知る情報でカイさんの助けになれるなら、私はどんな茨の道でもカイさんの隣で歩みたいです」


「私に関しては今更言う必要も無いでしょう」


「......あぁ、やっぱ思った通り愚問だった」


 カイは僅かに笑みを浮かべるとトトの手に自身の手を伸ばし、優しく握る。

 その動きに合わせ、隣にいたソラとエンディはカイの肩に手を置いて、またエンディはキリアと手を繋ぎ、キリアは必要ないシルビアとも手を繋いだ。


「こっちの準備は出来た。始めてくれ」


 カイが告げるとトトはコクリと頷いてカイ及びカイと繋がるソラ達との魔力とも同調させていく。

 その瞬間、カイ達の脳内にはまるで実際に見ているかのような映像が映った。


****


 時は今から半年前、丁度カイがこの地に降り立った時だ。

 その日、ルフトと手を繋ぎながら歩いていたトトは不思議な魔力の導きを感じた。


『どうした? 何か気になることがあったのか?』


 ふいに立ち止まって一方向を眺めるトトに対して、ルフトは同じように眺める。

 しかし、そこは変わらぬ他種族が賑わうリゾート地としてこ光景が広がっているだけであった。


 いつもならここで終わるのだがトトは頑なにそこから動こうとせず、その位置方向に向かって指を向けると“その方向に行こう”と言わんばかりの意思を見せた。


 いつもよりも強情なトトの反応が気になったルフトはその流れに従うままにその方向に向かっていると大勢がビーチで楽しんでいる中、衣服を着た一人の少女が海に向かって叫んでいた。


『なんじゃそりゃーーーーー!』


 まるで心に思った言葉を全力で叫ぶ少女の様子にルフトは目を丸くし、周囲の観光客はまるでその少女から距離を取るようにそこにはポッカリ空間が空いていた。


『見たことない服を着ているな。人族でも見かけたことがない。もしかして、トトが気になっているのはあの人物か?』


 トトはコクリと頷くと再び指を向けた。“会いに行こう”と言わんばかりに今度は率先して足を前に出すとルフトを引っ張る形で歩き出した。


 そのトトのいつにも増して見ないような行動にルフトは不思議に思いながら、トトに歩調を合わせるとその少女に話しかけた。


『海に向かって叫ばれてどうした? 何か溜まりに溜まった鬱憤でもあったのか?』


『え? 誰? ってあなたも耳にヒレみたいなのついてますけど......マジでここどこ?』


『......? ここはカレットマリンという俺達のようなみためをした魚人族が住む島だ。ここ最近は観光リゾート地として他種族も多く訪れてるが』


『リゾート地? いやいやいや、確かにリゾート地っぽいけど、まだあたしのような普通の恰好を見てないし、これもしかしてドッキリ? 盛大なドッキリしちゃってる? もしくはマジックか何かでしょ!』


『......』


『......まぁ、そんなわけないですよね~。薄々気づいてましたよ、はい。

 これだけ騒いでも友達のとの字も見えるような光景じゃないもん』


 テンションがガタ落ちしているのかその場でうずくまっていじいじと砂に指で絵を描いていく少女。そんな少女に対して、トトは話しかけた。


『魔力が他の人達と少し違う。まるでこの世界とは別の所から来たみたい』


『え、もしかしてわかる系ですか!』


 トトの言葉にガバッと顔を上げる少女。その急な動きにビクッとしたトトは咄嗟にルフトの後ろへと隠れた。


 その反応に感情の起伏が激しい少女は「待って~。逃げないで~」と四つん這いになりながら、ちょっと泣き顔で懇願する。

 そして、ふいに立ち上がると固まっているルフトにも話しかけた。


『すみません! あなたの妹を貸してください......って何ずっと驚いた顔してるんですか?』


『トトが......トトが31文字もしゃべった』


『え!? そこってそんなに驚くこと!?』


『今晩は盛大に祝うようメイド達に言わなければな』


『そこまでのことなの!? ヤバいじゃん! あたし、超凄いじゃん!......って待って今メイドって言わなかった?

 もしかして、もしかすると周りの視線からも考慮して偉い人だったりする?』


『あぁ、それなりに。俺はルフト=フリュナーク。この国の第二王子だ。そして、妹のトト』


『あたし、王子にいきなり王子に話しかけられちゃったよ!? え、これなんて乙女ゲー!? 恋始まっちゃう!?』


 キャーと小躍りするかのような少女の様子にルフトとトトは「ホントにテンションの起伏が激しいなー」と思った。


『して、そちらは?』


『あぁ、あたし? あたしは美鈴。新倉美鈴。なんかよくわかんないけど、気づいたらここにいた!』

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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