第86話 海の城
カイ達一行は無事に暴風雨を抜けて魚人族の島カレットマリンへと辿り着いた。
その場所は厚い結界に阻まれていて、外部からの干渉を防いでいるようである。
そして、ルフトに案内されるとカイ達はその後ろをついていく。
その時、前方から甲冑を着た魚人族の兵士が二人ほど走って来た。
「お前達ー! 一体何者......ルフト様!?」
「一体どこで何をしておられたんですか!?」
ルフトの顔を見るや否や剥き出しであった警戒心は解かれたものの、すぐさま驚きが混じったような怒気でルフトに言い寄っていく。
その様子に「顔が近い」と手で制止させながら、その質問に答えていく。
「そうだな。良き協力者を得に外に出たというべきか。
詳しいことは父上に会ってから話す。
取り急ぎ父上に報告があるから謁見できるよう伝えてくれ」
ルフトがそう告げた途端、兵士の二人はまるでバツが悪そうに顔を背けていく。
そのおかしな様子にルフトは「どうした?」と聞くと一人の兵士が答えた。
「こ、国王様はその......ルフト様が失踪為されてからすぐにお倒れになられて......」
「なんだと!? それは本当か!?」
ルフトは思わず兵士の肩を掴んで強く問い質した。
それに対し、兵士は答えなかったがその苦しそうな顔をしてルフトはすぐさま国王のもとへと走り出した。
カイ達もルフトの後を追って走り出す。そして、ルフトはそのまま道なりに真っ直ぐ進んでいくとそこには柵に囲まれた巨大な円形状の穴があり、そこにはギリギリまで水が張っていた。
「そこの者達よ! 今すぐ門を開けてくれ!」
「ルフト様!? よくぞご無事で! 後ろの方々はいかがされましょうか!」
「俺の恩人だ! そのまま通してもらって構わない!
カイ殿! しばらく潜ります! 迷わないようについてきてください!」
そう言うとルフトはそのまま水の張った穴に飛び込んでいった。その後を追いかけていたカイは女性陣に声をかけていく。
「君達の中に泳げないものは?」
「はい、私は泳げません!」
「そうか。なら、俺の服でもなんでもいいから掴んで離れないようにしてくれ」
「わかりました!」
元気よく返事したキリアはカイの服――――ではなく、腕に勢いよく抱きついていく。
その行動にカイは思わず驚くとそれを見ていた強かな乙女二人もすかさず行動した。
「エンディ!? ソラ!? 二人とも何して――――」
「泳げるけど個々によって遊泳能力は違う」
「だったら、泳げる一人に掴まって進んだ方が途中ではぐれる心配もないしね」
「......そうか。悪い、てっきり抱きつきたいものかと。俺も考えが偏って来たな」
そんなカイの謝罪を他所にそれぞれ、もう片腕と背中に抱きついた二人の乙女は見事な図星にギュッと口を閉ざしていた。
そして、カイが「空気を思いっきり吸い込め!」というと穴の中に飛び込んでいく。
全身が冷たい水に包まれていく。口元に僅かな塩気を感じる。どうやらここの場所は海水のようだ。
それから、カイ達が目をあけるとそこには大地の裏に逆さに張り付いたような海中の城が顕在していた。
西洋風の城というよりかはどこかアラブ系の城に近いそれは城の周りに空気の層を作っており、そこを目指して泳いでいくルフトの姿があった。
「(さすがに早いな)」
海中を空を飛ぶように泳いでいくルフトを見て改めて魚人族という種族の特性を垣間見た気がした。
しかし、それに関心を向けてる時間はなく、カイは暗黒魔法で影の手をつくり、それを水を掴む膜のようにして平及びのようにして泳いでいく。
しかし、二つ程度では全然ルフトに追いつく気配はしなかった。
なので、更に数を増やして一つが漕ぎ終わったらもう片方が前に出て漕いでいくというローテーションを組んでからは格段に遊泳のスピードが上がっていく。
それに慣れた頃にはもう二つだして計六本の腕で水をかき分けながら進み、ルフトの後ろへと辿り着いた。
「カイ殿、もう追い付いてきたのか。さすがだ。なら、次は空気のある層へと出る! ご準備を!」
そう言った数秒後にルフトは水の層から空気の層へと飛び出していった。
するとその先には切り離された通路があり、ルフトは器用にその場所へと着地していく。
その軌道を真似るようにカイも勢いよく飛び出していき、同じように通路に慎重に着地していく。
「お見事です! 私は先に父上へと向かいます。カイ殿達はそこの侍女に着替える服を受け取ってください」
「わかった」
ルフトが慌ただしく走り去っていくのを目の端で捉えながらカイは未だに引っ付いている三人の乙女に声をかけていく。
「君達、もうここは水の中じゃないから離れてくれ――――!」
その時、カイは思わず目に入っていた。白き若い柔肌が濡れた服越しにうっすら見えている光景を。所謂濡れ透けである。
さすがのカイもお年頃の女の子の肌に目線を剥けないように配慮しつつ、一人ずつ引きはがしていく。
「さぁ、このままだと風邪を引いてしまう。それにこの恰好のままでいるわけにもいかない......ってもう顔が赤いじゃないか!? 大丈夫なのか!?」
「「「う、うん、大丈夫」」」
全員が自身の胸の当たりの透けを腕で隠すような仕草をする。
その反応にカイは「あー、シルビア。もうもとに戻っても大丈夫だぞ」と気付いていない素振りを見せつつ、侍女の後ろを歩いていく。
その後ろを同じようについていくシルビアであったが、ふいに三人にの方を向いてサムズアップをするとその行動に三人はさらに顔を赤らめた。
というのも、カイが遊泳に意識を囚われている一方で、シルビアがこっそりと三人分のミニビアを作り出していて、こっそりとそれぞれ三人にくっついていたのだ。
そして、カイが丁度濡れ透けを目の当たりにして僅かに心拍数が上がったことをもとい抱きついている時からミニビアはずっと実況していたのだ。
その心中を読まれているかのような気恥ずかしさとカイが僅かながら反応を示したことによることの嬉しさで顔が真っ赤だったのだ。
もっと言えば、その熱でもうすでに服の半分が乾いていたりする。
――――数分後
「ほう、これが魚人族での服装か。外側の水を弾き、内側の水は吸ってくれるのか」
「泳ぎ際の機能性だけじゃない。それに加えて、それぞれ種族ごとに服が違う」
「キレーイ。どう? カイちゃん似合ってる?」
海で取れた魚の皮を使ったような素材ではあるが、その服は人間用だったり、竜人族用であったりと魚人族の民族的感じを残しつつもしっかりとした普段使いできるデザインの服であった。
「この島は観光場所として多くの種族が集まりますから、それぞれの特徴にあった服を取り揃えているんですよ。まぁ、今はこんな感じですが」
そう告げる侍女の目線の先には窓があり、その奥に見える水の層のさらに遠くに乱立するように下に伸びている渦潮が無数に見えている。
するとその時、キリアがそっと手を挙げて侍女へと尋ねた。
「え、えーっと、なんで私だけこんな痴女みたいな恰好なのでしょうか」
カイが燕尾服のようなデザインで、ソラがドレス、エンディはガーリーなデザインに対して、そう言うキリアの恰好はまるで砂漠の踊り子のような明らかに過剰な肌露出の服であった。
それに対し、侍女はニッコリと浮かべていた笑みから突然ゲス顔になって返答する。
「エルフの方々は昔っから『我々は森の一部である』って言ってるじゃないですか。
ですので、どうせなら魚人族の衣服のセンスとも一体化して欲しくてですね。
ほら、森って裸じゃないですか。ですから、出来る限り肌露出の多いものを選考させてもらいました」
「そうですか、そうですか。なら、もしあなたが私の国に来るようなことがあれば、盛大におもてなししてあげますよ!」
「それは楽しみですね」
キリアと侍女の目線の火花がバチバチと鳴っている。
魚人族とエルフは仲が悪いとされていたが、ここまでとはさすがのカイも予想外らしく苦笑いを浮かべるしかなかった。
するとしばらくして、ルフトがカイ達のもとへと尋ねて来た。そして、カイ達の前に立つと先ほどのことについて話していく。
「ます先ほどの父上のことだが......どうやら心労がたたってのことらしい。命の別状はないみたいだ」
「それは良かった。とはいえ、あまり悠長に俺達の存在をそのままにしておくことは行かないだろう。
いくらルフト君が“俺達が安全な人達である”と話そうとも、その事実を知っているのはここではルフト君だけだ」
「ああ、わかっている。だから、そろそろ父上の代わりに兄上が――――と来たみたいだ」
ドアをノックする音が聞こえると一人の男とその後ろに隠れる丁度シルビアほどの大きさの少女が現れた。
そして、如何にも武人そうな男は野太い声であいさつを始めた。
「私はカイン=フリュナーク。この国の第1皇子にあたるものだ。そして、私の後ろに隠れている妹がトト=フリュナークだ」
カインの挨拶が終わると誠意には誠意をとカイは立ち上がって挨拶をしていく。
「初めましてカイン皇子にトト姫。私はニイガミ=カイというしがない旅人です。
今回はルフト様に縁があってこうしてここまでやって来た次第です」
「かしこまった態度はしなくていい。ここに来るという時点でよっぽどの人物であるということはわかっている。なんせあの海は私達でさえ拒むのだからな」
その時、カインの後ろに張り付いていたトトがそこから離れると不意にシルビアへと近づいていった。
そして、シルビアの手を取ると呟いた。
「不思議......心が凪のように穏やか」
「それは当然です」
「......そう、そういうことなの」
そう言ってトトはそのままカイを見た。その様子にカインは驚く。
「ほう、まさかトト本人が安全であることを証明するとは珍しい。
ならば、もうこれ以上の素性確認は必要あるまい。では、これまでに一体何があったのか聞かせてもらえるだろうか」




