第82話 海の上で
数分後、エンディ、ソラ、ルフトの三人の活躍によってその場一帯の海賊は全て叩きのめされ、拘束されたまま生かされていた。
所々に顔の一部が腫れていたり、体には青あざがあったりと散々な状態の海賊達は船の前に立った一人のおっさんの方へと目線を向けていく。
「えー、ごほん、私はニイガミという者で(この世界ではないが)悪を取り締まる仕事についていた者である。
で、こういった奴隷に関してだが、これは人の権利や健康を奪っている立派な犯罪行為であるためにこうして少々手荒になってしまったが拘束させてもらった。ここまでの理解はいいか?」
「ふざけんな!」
「せっかく苦労して捕まえた奴隷を奪いやがって!」
「ケッ、何が『悪を取り締まる仕事についていた者』だ?
それを言うならこっちこそお前に仕事を妨害されて困ってんだ!」
カイの言葉に海賊達は怒鳴り声で言い返してくる。
それを全て聞いた上で聞き流しているカイに対して、身勝手な言い分に怒り心頭なのかエンディがゆっくりと前に歩き出した。
「よし、口答え出来ないようにぶちのめそう」
「どうどうどう、落ち着けエンディ。まぁ、君達の言い分もあるだろう。
この世界には奴隷貿易ってのもあるらしいからな。だが、それはそれ、これはこれだ。
俺はそういう人権を無視したような商いをセーフとしている常識がないんでね。
俺に見つかった時点で諦めて大人しくしてくれ」
「ざけんな!」「俺達を今すぐ解放しろ!」
――――バンッ
逆ギレして言葉を発してくる海賊達に一発の銃声が鳴り響いた。
その魔力弾は一人の海賊の頬を掠め、地面に着弾。
その男の頬からは血がうっすらと流れ落ちていく。
「じゃあ、君達の流儀に従って言ってやろうか。
つべこべ言わずに黙って俺に従え。てめぇらは負けたんだ。つまり奴隷だ。
奴隷が主人に向かって口答えするな。少しでも調子に乗ればぶっ殺すぞ」
「「「「......」」」」
カイはトドメにさらに魔力弾を海賊達のギリギリを掠めるように地面に撃ち当てていく。
その瞬間、海賊達は揃って大人しくなった。なぜなら、これまで自分達が奴隷にしてきたことがまんま降りかかってきたのだから。
*****
「ほぉ~、船に乗るとこんな気分になるんだな」
「海風が気持ちいいですね」
十数分後、カイ達は船に乗って風を感じていた。
というのも、カイが海賊達を従えてからそのまま船に乗り込んでカレットマリンに向かうことにしたからだ。
カイ達が数日間港町にいたのはカレットマリンに向かうための移動手段であった貨物船の準備が終わらなかったからだ。
その要件が解消されたならもはや待つ必要も無いであろう。
そして、船の先頭で移動によって生じる風を感じるカイとシルビアは他愛もない会話をしていた。
「にしても、こんな手段を思い浮かべていたならもっと早く言っても良かったのに」
「私とて貨物船がここまで出向に遅いとは思わなかったんですよ。
それにここら辺に海賊の入り江があるっていう噂をたまたま訪れた店で聞いただけですし。確証自体はありませんでした」
「とはいえ、火がないところに煙はたたない......か」
「それに遅れたからルフトさんは助かったと言えますよ?
いくら亜人族種は人族よりも身体的回復力が高いとはいえ、あれだけの傷を負っていれば失血死していた可能性も十分にありますし。
加えて、海賊がいたとなればこき使っても良心が痛みませんですしね」
「まぁ、それは相手次第じゃないか? ワン〇ースの麦わら海賊団ほどの気立ての良さの海賊がいるかもしれないし」
「あぁ、漫画のキャラクターのことですか。それはさすがに理想が過ぎるでしょう。
なによりフィクションですし。それではさぞかし本物の海賊を見てがっかりしてるのでは?」
「いいや、ある意味予想通り」
そう言って二人が後ろを向くとそこにはせこせこと忙しそうに働く船員や至れり尽くせりで優雅なひと時を過ごしている乙女達に群がる船員、そして奴隷から解放された魚人族達の前に立ってルフトが船長や服船長に説教している光景となんともある意味賑やかだった。
「飲み物どうですか?」
「あぁ、ありがとう」
すると、カイの近くに一人の青年がやってきた。
他の船員に比べれば圧倒的に若手に入る年齢である。
そんな彼が飲み物を持ってきたのでカイはそれを受け取ると話しかけた。
「悪いね、気を遣わせてもらって」
「いいえ、正直いずれはこうなることは予想していましたので。命があるだけ儲けもんという所ですよ」
「まぁ、この世界は世知辛いからね。特に君達のような生業は。
きっと命がいくつあっても足りないだろう。とはいえ、君はどうして海賊なんかに?」
すると、その青年は後ろのデッキから下に目線を落としていく。
そして、話しながら視線をカイの方へと戻していった。
「俺は船長の息子なんですよ。どこかの女との間にこさえた子供で、たまたま性別が男ってことでこうして海賊として育てられたんです」
「にしては、随分と礼儀正しいように感じますが」
「まぁ、思うことがありましてね。昔の子供のある時に山で鹿を狩りに行って、鹿を狩ったんです。
で、その鹿や親鹿だったらしくて、後から死んだ親鹿に子鹿が悲しそうな顔して集まって来たんです。
その時は食うために仕方ないと思ったんですが、それから数日後に今日のように奴隷を連れて、その時見た親子の奴隷がその時の鹿とダブって見えてしまって......それからあまり海賊業は好きじゃなかったんです」
「なるほどね」
「でも、魔法も力もない俺じゃ親父はおろか船員一人も止められなくて。
だから、いつかこうして罰が下って死ぬんだろうなと思ってたんですよ。
でも、死ななかった。そう言う意味じゃニイガミさんは恩人なんですよ」
そういう青年にカイは思わず笑った。その反応にキョトンとした青年の肩を叩くとカイは告げる。
「恩人か、この俺が。それは少し勘違いしてるな」
「......どういう意味ですか?」
「俺は君達に罰を与えに来たわけじゃない。
俺は俺の都合のためにお前達を利用するために襲ったまでだ。
そして、君達が俺に今こうして利用されている」
「それじゃあ、俺達を襲ったのは悪に手を染めている俺達を正義感で叩きのめしたのではないと?」
「全くないとは言わないがな。だが、主目的はカレットマリンに向かうための単なる移動手段だ。
とはいえ、俺に正義感があったのならそれは魚人族への贖罪だ」
「贖罪......ですか......」
「あぁ、君達は過去にこのようなことを繰り返して、もう君達の領分ではどうにもならない奴隷達やこの世にはいない奴隷達もいるだろう。
それに対して、君達が本当に罪意識を持っていて、尚且つその悪しき心を浄化したいのであれば、散々迷惑かけた相手に礼節を持って見返りを求めずに懺悔の務めをするのは当然だろう?」
「......そう、ですね」
カイの言葉に青年は苦しそうに顔を俯かせ、拳を固く握った。
どうしようもなく突きつけられた自身の罪に自分自身への怒りが込み上がってしかなかったのだ。
そんな青年の姿を見たカイは「飲み物、ごちそうさん」とだけ告げるとそのまま通り過ぎて甲板の中央へと向かっていく。
しかし、そこにただ一人残ったシルビアは俯く青年に声をかけた。
「あのようなことを言ったパパをどう思いますか? 憎むべき相手ですか?」
「いいえ、何も間違ってませんよ。勝手な都合で普通の暮らしをしていた人達の人権を奪ったのはこちらも同じですので。
全く逆の想定をしていたといえば嘘になりますが、こうなることはきっとあったのだと思います」
「なるほど、それは殊勝な考え方ですね。
殺し殺される条件は平等であるという自然界の摂理に乗っ取った当たり前の考えです。
ですが、時折このような常識を勝手に曲解して一方的な搾取といった愚かな考えをする人もいるものでして、もしそうであるならば今この場で私が殺していたかもしれません」
「......っ!」
青年は右腕を剣に変えて幼女とは思えない悍ましい殺気を放つシルビアに思わず足を一歩退かせる。
しかし、シルビアがすぐにその殺気を解いたのでホッと青年は息を吐くとシルビアが言葉を続けた。
「言っておきますが、パパは聖人君子ではありませんよ?
人を殺す時は躊躇いもなく殺します。逆に言えば、それほどの覚悟を持っているとも言えますが。
とはいえ、基本は不器用な優しさを持った人なんですよ。
自分は目的のためなら手段は選ばない的なことを言っておきながら、結局色々周りのことを考えて行動してますし」
「......」
「それに今回だって『利用』とか言っておきながら、こうしてあなた達にチャンスを与えてますしね」
「チャンス......?」
その言葉に青年が首を傾げるとシルビアは柵に手をかけて上るとそのまま座った。
そして、青々とした太陽の光を反射する海を見ながら答える。
「考えてみてください。私達の目的がカレットマリンに向かうことなら奪うのは船だけで良かったはずです。いても、船を動かすための操舵手ぐらい。
こうして全員を乗せる必要性はどこにもありませんでした。
にもかかわらず、こうしてあなた達を乗せている......この意味、わかります?」
「まさか、俺達の贖罪の機会を与えて......!」
「パパの厄介な所は他人の嘘は見抜けるくせに、相手は見抜けないことに平然と嘘をつくことなんですよね。まぁ、それも全ては相手を思ってのことなんでしょうけど。
パパは職業柄更生できる人にはそうさせるチャンスを与えるんですよ。
少なからず、パパのいた場所ではそれが常識でしたから」
シルビアは柵から降りると青年の横を通り過ぎながら言葉を続けていく。
「あなたがこれからの未来を考えるなら弱かろうが何だろうが行動して帰ることですね。
少なくとも、人間は言葉だけで動くのは少数ですし」
シルビアは甲板の中央に向かってていくとそのままのんびりしている乙女達の下へ向かった。
そんな後ろ姿を青年はただひたすらに眺め続けた。
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