↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/177

第78話 祈る希望

 カイ達が移動を始めてから数日が過ぎた。

 その間、特に目立つような出来事はなく、和気あいあいとした雰囲気と時折結託したように寝込みを襲い始めた乙女二人の対処に明け暮れた日々が過ぎていくだけだった。


 そんな調子で車を走らせていくと港町クランベルに辿り着いた。


「海風が気持ちいいな」


「潮の香りがしっかりと感じる」


「海は初めて見ました......」


「パパ、ここで魚料理が食べれるんですね!」


 車から出たカイ達は各々に遠くに見える海と水平線を眺めながら感想を述べていく。

 そして、影魔法で車を影の中に引っ込めていくとクランベルの中へと入っていった。


 そこは港町というだけあって沿岸にはたくさんの大小さまざまな船が並んでいた。

 その近くでは一見バイキングみたいな恰好をしたスカーフを頭に巻き、青と白のボーダーの服を着た男達の姿がある。


 その男達は船に積み込む荷物を抱えながらせっせと往来を繰り返している。

 そんな港町特有の景色を横目に見ながら街の中の探索を始めた。


「さて、俺は船でこの先の島に行けるか聞いて回ってくる。君達は好きに動いたらいい」


「なら、私はカイと――――」


「エンディちゃん、ここは私と一緒に回ろ。ね?」


「え、えぇ。いいけど......」


「なら、決まり。もちろん、キリアちゃんとシルビアちゃんもね?」


「いいよ」


「わかりました」


 ソラが率先して女子達をまとめていくとそのまま先頭に立って歩き出した。

 その後ろ姿を見ながら「気を付けろよー」と見送っていくとカイは歩き出す。


「で、どこに行くんですか?」


「うわぁ!? びっくりした。いつの間にそこに......」


 歩き出してすぐに声を声をかけてきたのはカイの胸ポケットからのそのそと登って肩に座る指人形ほどのミニチュアシルビア――――略してミニビアであった。


 そして、ミニビアはカイの言葉に対して淡々と答えていく。


「それはパパが一人だと寂しくて泣いてしまうだろうからという娘なりの配慮ですよ? パパは泣きむせて喜ぶべきかと」


「俺って時折どう思われてんのさ」


「戦闘とか目的がハッキリした時には超強いですが、それ以外の時は結局一児のパパですかね」


「案外悪くない評価だ」


 ミニビアの言葉にカイは意外そうな顔をする。てっきりまたどんなからかわれ方をするのかと思っていたからだ。

 それに対し、シルビアはそのまま変わらず割と真面目な様子で尋ねてくる。


「そういえば、ソラさんの体からルナリス様の反応がしませんが何か聞いているのですか?」


「空曰く魔力を使い過ぎたことによる休眠期って感じらしいよ。

 強い魔力反応を感じた時に起きれるよう意識をセットしてあるとかなんとか」


「強い魔力反応......まぁ、確かにルナリス様にとってソラさんは大事な依り代ですからね。

 適合する人もそうそういるものではないですから、その肉体が魂を失えばそれはルナリス様自身の死を表しますからね」


「そういえば、その話だと確かフォルティナも自身の器となる肉体を求めて俺の友人や家族を召喚したんだよな?」


「そうなりますね」


「なら、フォルティナも今のルナリス様と同様で仮に誰かの器に入ってたとしたら、まだその肉体の本来の宿主は生きているってことでいいのか?」


「パパらしくない楽観視......いや、恐らく単純な確認のための質問ですね。そして、その答えを示すのであればわからないですね」


 シルビアは横を向いく。そこからは眼下に広がる煌めく海が見える。それをぼんやりと見つめながらそう答えた。


「わからないってのは?」


「現状、ルナリス様がソラさんの肉体を操っていないのは主な肉体制御権を本来の持ち主であるソラさんに委ねているからです。

 ルナリス様はルナリス様の意思で共生していて、表に肉体制御権を得て現れるためにはソラさんの同意がなければ出ることは出来ません」


「つまり、フォルティナ様はすでに肉体制御権を奪っている可能性もあるってことか......」


 カイはその可能性があることに眉間を寄せ、拳を握る。

 その可能性は深く考えないようにしていただけで思いついていた。

 そして、その時はきっと決断を迫られるだろう。一生の咎を背負う決断を。


「――――ですが」


「......?」


「ですが、個人差はあります」


「個人差?」


「肉体制御権を奪うためには相手の精神に干渉し、その上で相手の精神を支配もしくは消滅させる必要があります。

 しかし、外部からの精神干渉があったからとはいえ、必ずしもすぐに肉体制御権が奪われるわけではありません」


「なんとなく話が見えた。それは本来の宿主が抵抗するからってことだろう?」


「そういうことです。ルナリス様の場合、ソラさんの同意を得たためにすんなりと入ることが出来ました。

 しかし、そう入るということは親はソラさん、子はルナリス様という上下関係が生まれて肉体制御権を奪うことは難しくなります。

 つまりは、相手の肉体を奪うのなら真っ向から干渉しなければいけないのですが、精神世界の中に物理攻撃も魔法も存在しません」


「んじゃ、どうやって.......?」


「至極単純な話ですよ。精神力が強い者が優位に立つというだけです。

 そうですね、例えばひ弱な青年がガラの悪そうな見た目をした人を見たとします。

 その人の中身は良い人だとしても、青年が恐怖を感じればそれが結果となる。

 つまり、それが精神世界の話になれば別に意図せず入ってしまったとして、それで相手が勝手にビビって恐怖を感じたなら、入ってしまったその人が肉体制御権を得るわけです。

 後は生かすも殺すも自由。精神世界にさらに外部からの干渉なんてそうそうないですから。


「臆した方が負けか。それは本当に至極単純だな」


「肉体は嘘をつけます。しかし、精神は嘘をつけません。

 ですから、前にパパに言ったことあるでしょう? パパが驚いたと言った時に『精神に揺らぎがありません』的なことを」


「なるほど、それはそう言う意味だったのか。ともあれ、だとすれば俺が出来ることは祈ることだけか」


 カイは力の入った拳を解いた。そして、溜まった息を吐き出すようにフーと吹いていく。

 しかし、コネクトしているミニビアにはカイの精神にまださざ波が立っていることに気付いている。


 故に、カイに新たな安心を与えるために言葉を続けた。


「加えて、これはあくまで可能性の話ですが、フォルティナ様はまだ適合する肉体と接触していない可能性があります」


「.......どういう意味だ?」


「フォルティナ様の権能制御に関する話です。

 フォルティナ様はルナリス様から権能を神の座を簒奪しましたが、ルナリス様がこう存在している以上その全てが得られたわけじゃないと思われます。

 その根拠の一つとして挙げられるのが召喚魔法です」


「召喚魔法って俺がこの世界への移動手段に使った魔法陣のことか? 強制テレポートさせるやつ」


「強制テレポートは言い得て妙ですね。ただし、位置座標は制御できないといった感じでしょうか」


「......シルビアが引っかかってる疑問ってのはフォルティナが召喚魔法で呼び出したとしてどうして一緒に召喚した残りの連中をバラバラに飛ばしたかってところだろ?」


「そうです。仮に位置座標が制御できるとすれば、どうして仲間を助けにその残りの仲間が結託する可能性を無視したのでしょうか?

 確かに肉体を得れば特に敵としては問題ないでしょう。神影隊もいますし、それに天恵者もいますから彼らに任せれば問題ないと言えばない......ですが、よっぽど確実なのは召喚したその瞬間から死地に送り込むことでしょうし」


「......深く考えることは悪いとは言わない。しかし、ある程度の引き際は考えた方が良い。

 そこを過ぎてしまえば慎重ではなく臆病になってしまう。

 その二つには行動力を伴う力に大きく作用する。下手な推測は足元を鈍らせるぞ」


カイの言葉にミニビアは静かに「そうですね」と答えた。

 その表情は相変わらず無表情に見えるがよく見れば沈んだような感じだ。

 そんなミニビアの頭を人差し指で撫でながら優しい口調で告げた。


「とはいえ、もしそうであればこっちにとってありがたいことでしかない。だから、そうあってくれることをただ祈るよ」


 そして、カイは気持ちを切り替えるように「さて、聞き込みだ!」と拳を天に突きあげると近くの船員に話しかけ始めた。


*****


 海に囲まれた島カレットマリン。

 そこはコバルトブルーともいえる透き通った海があり、その海には様々な海洋生物が豊かな生態系を繰り広げていて、有名なダイビングスポットとして多くの種族から観光地として人が集まっていた。


 また、その島に住み着く手足の指の間に薄い膜があり、耳にはひれのようなものをつけ、体は一部鱗に覆われた魚人族いて、その海はその者達によって管理されているのだ。


 そんな海にとある異変が起きたことに気付いたのはたまたま港を歩いていた一人の青年であった。

 その青年はいつも通り縛られた業務を抜け出し、自由を求めに海にやって来たかと思えば、その海に見たこともない巨大な渦潮が出来ていた。


 この島の海に渦潮が出来たことなんて一度たりともない。少なからず青年が生きた何十年の間には。

 加えて、その渦潮は一つだけではなく、奥の方にいくつも同じようなものがあり、空は不穏を感じさせるような雷雲が近づいていた。


 青年はその異常な光景に妙な不安が過ったが、その異常の原因を確かめに意を決して海に飛び込んでみれば、天然で美しかった岩肌を削るように乱立した海の竜巻が長く立っているではないか。


 その直後、側面に光る赤い両目に気付く。そして、その目が消えたかと思うと次の瞬間には長い尾ひれが青年を叩きつけ、飛ばされた青年は近くの渦潮に飲まれていった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。