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第71話 僅かな変化

 白と黄金に身を包んだラザールは美しさと力強さを兼ねており、さらに纏う黄金の魔力は正に人類とは隔絶したステージを一瞬にして理解させるほどの威厳を持っていた。


 神に変わって遣わされた天使は同じく黄金に輝く死神が持つ鎌を片手に好戦的な笑みを浮かべて、正面に立つカイに告げた。


「さぁ、さぁ! これからはお互いの死をかけて戦いましょう! もはや楽しむために長引かせる必要などどこにもない! 人と天使の戦いを!」


「はぁ、もう後には引けないって感じだな。もとより引く気もないが」


 興奮状態のラザールにとは違い、やや冷めたような態度のカイは右手に持つシルビアを黒き刀に変形させると左手に持つ銃をラザールに向ける。


「もうこういう場合は決まってるから敢えて言う必要も無いが......ここでお前を倒して残りの俺の仲間の居場所を吐いてもらうぞ。生憎『聖樹の威光』は使えないみたいだからな」


「いいでしょう。そんな余裕があればですがね!」


 その瞬間、カイは向けた銃口から魔力弾を放った。

 高速に飛び出したその弾はラザールの頭を穿とうとするが、それよりも速く動いて躱したラザールはすぐさまカイの眼前へと現れる。


 ラザールは両手に持った鎌を振り下ろした。

 それをカイは右手に持つ刀を横に向け頭上で受け止めるとすぐさま銃口をラザールの心臓を向けた。


 ダダダンッと連続で三発の魔力弾が撃ち放たれる。

 だが、それはラザールが半身になったことで躱され、更にはその際に鎌の柄から手放した左手を拳に変えて振るった。


 カイはそれを僅かに首を傾けることで躱していく。

 しかし、その行動を見越していたかのようにラザールの左脚の上段蹴りが迫ってきた。


 その攻撃をカイは右腕で防ぐとさらにラザールが右手の鎌を横薙ぎに振るっていくので、素早くその場から距離を取るように後ろに下がっていく。


 さらにカイは牽制するように魔力弾を数発放った。

 だが、ラザールはその魔力弾をたくみに鎌を振り回して斬り払っていくとそのまま追いかけてきた。

 しかし、カイはその行動に僅かな好機を見出す。


爆発する雷撃(ボマーエレクトロン)


 ラザールによって切断された数発の魔力弾はその弾自体に魔法陣が組み込まれていて、時間及び衝撃で爆発するように仕掛けられていたその弾はそれぞれ半径5メートルほどに強力な電撃空間(スパーク)を作り出した。


「があああああ!?」


 その空間内にいたラザールは電撃による一瞬の筋肉硬直を起こし時間にして1秒にも満たない強制スタンをさせられた。


 だが、それほどの刹那の時間であればダメージは受けていてもほとんどスタンしていないと変わらない――――相手がただの人間であれば。


 カイはその刹那の時間にキッチリとラザールまで間合いを詰め、袈裟斬りに刀を振り下ろしていく。


「破断一刀」


 ラザールの左肩から右わき腹にかけて多くの血が飛び出していく。しかし、それだけであった。

 本来ならそのまま両断してもおかしくない刀の一撃は純粋なる天使の防御力を持ってして阻まれ、さらには――――


「瞬鎌光断」


 上半身が後方へ持ってかれているラザールは咄嗟に鎌の刃に光を纏わせ、右腕ごと真上に振るった。

 その鎌の先端は光の弧を描きながら最終的には天上に向かって光の斬撃を飛ばして風穴を開けていく。


 ラザールはそのまま吹き飛ばされると鎌の先端を床に引っかけて強制的にブレーキをかけた。そして、薄く笑みを浮かべる。


「ようやく流血しましたか」


 カイは血を流していた。首の左側から左頬にかけて斬られたであろう出血をしていて、あご先から床に血を滴らせている。


『大丈夫ですか、パパ』


 心配そうにテレパスでシルビアが声をかけてきた。

 それに対し、カイは「大丈夫」と答えると左手の平の一部で頬の血を拭う。


「結構強めに斬りつけたけどさすがに硬い。これが天使って奴か?」


「そうですよ......と言いたいところですけど、本来なら常人の刃なんて通らないんですよ。

 しかし、相手は常人ならざる人間に加え、魔剣シルベルクを持っているときた」


「へぇ、シルビアを知ってるんだな」


「それは当然、元はフォルティナ様が作り出した至高なる一振りですからね。

 その刃はあらゆる魔力を絶ち、その刀身はあらゆる魔力を反射させる。

 対ルナリス戦の時にどこかへ消えたはずでしたが、それがまさかこんな形で再開するとは。しかも、手にした人物がまた最悪」


「おいおい、そこまで褒めんなよ。この年齢になると褒められることが少ないからどう反応すればいいかわからないからな」


「ククク、いいですねそのセリフ。今まさに天使対悪魔の戦いが始まっているんですね!」


「それは少し違う。天使対悪魔じゃねぇ――――悪魔対悪魔だ」


「......っ!」


 その直後、ラザールの背後の影から巨大な黒い手が出現した。

 それに気づいたラザールは鞭のように振り下ろしてくる黒い拳をその場を飛び出すようにして避けていく。

 しかし、その背後からはカイが接近していた。


 カイは刀を横薙ぎに振るっていく。

 その攻撃をラザールは鎌で受け止めるが勢いまでは殺せずに壁まで吹き飛んでいった。


 ラザールが壁に叩きつけられると先ほどの黒い手が再び拳を叩きつけてくる。

 なので、壁を蹴って躱していくと再びカイが。


「光の盾」


「......っ!」


 カイは再び刀で斬りつけようとする。

 しかし、それはラザールが作り出した光の壁で阻まれ、さらにはその光の盾を貫通するようにして鋭い蹴りがカイの胴体へと突き刺さった。


「光の剣舞」


 床に向かって吹き飛んでいくカイを見ながらラザールは素早く体の周りに二つの輪をつくり、その輪に沿うようにしていくつもの剣を纏わせていく。

 そして、カイに左手を差し向けて体に纏わせた剣を連続射出していった。


 カイは吹き飛ばされながらその状況を冷静に眺めていて、高速で剣が向かって来るとわかるとすぐに銃での迎撃を開始する。


 カイが床に着くまでの間に辿り着くであろう光の剣はシルビアの特性を纏わせた銃弾で光の剣そのものを弾いていき、姿勢を制御しながら着地すると後ろに下がりながら床に突き刺さる光の剣を躱していく。


「当然、まだですよ」


 そうラザールが告げるとすぐに床に突き刺さった光は眩く輝き始めた。

 そして、最初に床に刺さった剣が突如として爆発するとまるで連鎖反応するように次々と爆発を繰り返していった。


 カイはその周囲が白一色に染まるような爆発の直前で自身を覆うようなドーム状の影を作り出すとその爆発を防いでいく。


 爆発が過ぎ影のドームを解除すると辺り一面の床は根こそぎなくなっており、下の階が見えてたくさんの瓦礫が積まれている。


 さらに周囲は爆発による砂煙が大量に舞っていて視界はほぼゼロに等しい。

 しかし、カイには関係ない。相手の魔力が捉えられるのであれば。


「――――時間ですね」


 視界不良の中、かすかに聞こえたラザールの声。

 そして、魔力で位置を視認しているからこそわかる突然の魔力の膨れ上がり。


「何が起こった?」


 カイは思わず呟いた。確認は出来ないがラザールに何かが起きたかは確かだ。

 先ほどの魔力量から2倍になったわけではないが、それでも1.2倍ほどには確実に膨れ上がった。


 カイはその変化を確認するために刀を斬る風圧で砂煙を払うとそこには大きさ10メートル程の巨大な光の鎌があった。


「円斬鎌」


 ラザールの両端に浮かぶそれは空中に立つカイに目がけて放たれていく。

 回転しながら向かって来るそれはもはや円形状のチェーンソーに等しくそれぞれ旋回してカイを両サイドから挟み込むようにして襲った。


 カイはそれを上に跳んで避けていくとそこ目がけてラザールが鎌を振るってきた。それをカイは刀で防ぐ。


「......力、上がっているよな?」


「気のせいじゃないですか? もしくはあなたが弱くなったかのどちらかですよ」


「そうかい。なら、若いもんに負けないようにしないとな!」


「......っ!」


 カイはラザールの鎌を弾き返した。

 そのことに僅かに驚いたような顔をするラザールにすぐさま左手に持つ銃の口を向けて放つ。

 しかし、それはラザールが首を傾げることによって躱された。

 だが、それ自体を見越していたかのようにカイは左脚で前蹴りをする。


 ラザールはそれを鎌の柄で防ぐが力強い蹴りに後方まで吹き飛ばされていった。

 すぐさまカイの追撃を警戒するラザールであったがカイの追撃はなかった。

 だが、代わりにやって来たのはあらゆるものを容易く切断せんとする二つの光の鎌であった。


「いつの間に!?」


「避けたついでに影の手でお返ししただけさ」


 ラザールは両サイドから襲い掛かってくる光の鎌を避けようと上に跳んだ。

 その瞬間を狙うようにカイが刃を振るって襲い掛かってくる。


「ほれ、これもお返しだ」


 カイが刃を振るってくる。そのタイミングに合わせてラザールは<光の盾>を作り出すが、その攻撃は盾をすり抜けた、否、実体がなかった。


「実像分身って魔法だ」


「がはっ!」


 ラザールがカイの声を聞いた時にはカイはすでに横にいて、さらには刃がラザールの胴体に触れていた。

 そして、カイは直進してきた勢いのままに刀を斬り払い、投げ飛ばすとラザールを壁に叩きつけた。


 壁にめり込む形で止まっているラザールに黒の拳を叩きつけ追撃――――


「――――また時間だ」


「......っ!」


 その瞬間、黒の拳はラザールを攻撃するよりも前に爆散した。

 カイは驚いていた。それが爆散したことにではない。

 再びラザールの魔力が跳ね上がったことに対してだ。


 黒の拳の爆散はその魔力による膨張の結果。

 魔力密度の違いから魔力そのものが壁となって攻撃を防がれたのだ。

 しかし、カイにとっては攻撃が防がれた結果なんてどうでもいい。

 それよりも防がれた内容に関しての方が重要であった。


「なぁ、やっぱり明らかに黄金の量が増えてるよな?」


 そう尋ねたくなるカイの気持ちに無理はない。

 なぜならめり込んだ壁の前に立つラザールは先ほどよりもさらに多くの神気を纏っているからだ。

 そのカイの質問に対して、ラザールは答えではない解でもって返す。


「まだまだ戦いはこれからってことですよ!」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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