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第70話 神影隊ラザール

 場所は移って帝国城内。そこの最上階にある国王の間には二人の男が向き合っていた。

 一人は神官にも似たデザインの服をした黄緑色の髪をしたにこやかな笑みを浮かべる青年。

 もう一人は死んだような目つきの奥に揺るがぬ信念を抱えた中年のおっさん。


 そして、おっさんのカイは銃型のシルビアの銃口を青年のラザールへと向けて告げた。


「――――それじゃあ、事情聴取を始める」


 その言葉に対し、窓際にいたラザールはゆっくりと歩き出し、広間の中央へと着いた。それから、カイの言葉について言及する。


「事情聴取も何も言ったことが全てなんですけどね」


「本当に包み隠して言ったのなら俺の言葉は違っただろうさ。だが、生憎嘘は通じないんでね」


「そうですか。ま、そんなことは私にとってどうでもいいんです。今という状況が最も重要なんですよ」


 そう言ってラザールは両手を大きく広げるとそこからいくつもの光で出来た槍を生成した。

 そして、それをカイに向かって手をかざすだけで放ってくる。


 カイがそれを容易く躱していくとその槍は床に着弾した瞬間に爆発を繰り返し、辺りに砂煙を巻き上げさせる。


「残念ながらそれでも位置がわかれば放てるんだな」


 カイは<魔力探知>からラザールの居場所を探り当てるとそこに向かって魔力弾を射出していく。

 その魔力弾は砂煙に穴を開けるように貫きながら、その魔力の位置まで飛んでいった。


 しかし、カイはそのすぐにその場にしゃがみ込むと回転するように背後に向かって足払い。


「――――と、言うブラフを申し訳程度に言っておくのさ」


「さすがです――――がっ!」


 一瞬にして背後を取っていたラザールであったが、カイの足払いによって体勢を崩し、そのままカイに背撃で壁まで吹き飛ばされた。


 壁に勢いよく直撃したラザールはそのままバウンドするように壁から離れていくが、まるで何事もなかったかのように着地するとそのまま歩き出す。


「あんな簡単なフェイクで一撃貰うようでしたら期待外れもいい所でしたからね。

 とはいえ、引っかかるはずもない攻撃を敢えてやるというのは武人同士ではもはや失礼に値するというものです。申し訳ありません」


「そうやって謝ってくれるんだったら老体に鞭打ってる俺の身にもなって欲しいものだね」


「ハハハッ、ご冗談を。あたなの内在される能力値はとっくに“人間のそれ”を超えてますよ」


「仲間や家族を助けようってんだ。こっちははなから人間やめるつもりで生きてる。おっさんの覚悟舐めんなよ?」


「舐めるだなんてもったいない――――食らい尽くさせてもらいますよ!」


 ラザールは狂気的な笑みを浮かべるとカイに向かって直進してきた。

 その姿はもはや常人に捉えられるものではないが、カイはそれを視線だけで追うとすかさず銃口を向けて引き金を引いていく。


 しかし、それらの銃弾はラザールによって全て躱されると眼前に迫られて鋭い右ストレートが放たれた。


 カイはそれを咄嗟にガードするがこれまで戦ってきた神モドキとは違い、神影隊のその一撃は容易にカイの上半身を大きく逸らさせる。


 そして、そのままがら空きになったカイの胴体に勢いに乗った蹴りを入れると王座のある壁まで吹き飛ばした。


光熱の導(サンクトワール)


 ラザールは再び自身の背後の空中に光を作り出すとその球体からカイに向けて数本のレーザーを放った。


 そのレーザーは地面に一瞬に焼き焦げた痕を入れたかと思うとすぐにその痕を追うように巨大な爆発が連鎖的に起こった。


 そして、その爆発はカイが吹き飛ばされた場所でも盛大に起こったが、その直後に爆発を斬るような斬撃がラザールに向かって飛んでくる。

 その斬撃をラザールが手で軽く吹き飛ばすとカイに向かって告げた。


「やはりイイですね。こうして魔法も出せて全力で戦えるってのは」


「嫌に決まってんだろ。あーあ、俺の大事な一張羅のコートが焦げちゃったよ。これお気に入りだったのに」


「全然効いてないですね。さすがに使いや眷属があっという間に負けるわけですか」


 爆発の煙を背後にすすまみれであるだけのカイを見て増々気持ちが昂っていくラザール。

 しかし、対照的にカイの視線は相変わらず冷め切ったものだった。


「君、まだ様子見てんだろ?」


「......! どうしてそう思うんですか?」


「感覚的な話っつーか......まぁ、アレだ、単に地下闘技場で戦った時よりも勢いがない。

 確かに力やスピードはあの時以上だ。だが、それでもあの時の制限があった闘いの時よりも気持ち悪さがないんだ」


「それは随分と素直な悪口ですね......」


 カイは何かを考えるように手を顎に当てて悩み始めた。

 そして、何かを理解したように「そうか」と呟くと右手のシルビアを二つに増やして二丁拳銃に変えるとラザールに告げた。


「そうかそうか、わかったぞ。君の狙いが。君はあくまで自分の願望に率直だったというわけだ。

 だが、君があくまで戦いを長引かせて戦い尽くそうとするなら――――」


「......っ!」


 ラザールは戦慄した。その額から吹き出る汗はこれまでに味わったことのない冷たいもので、そしてそれが引き出される原因となったのは「恐怖」という感情。


 それを感じることになったのはカイの言葉が僅かな瞬間。その僅かな間にカイはラザールの真横に立っていて、銃口の一つをラザールのこめかみに突きつけていたのだ。


「――――君の全力が出る前に戦闘不能にさせてもらうよ。そっちの方がこっちも楽でいいし」


 その一瞬がラザールには見えなかった。ずっと警戒態勢でいたにもかかわらず、神影隊という厄神フォルティナに仕える純潔の天使でありながら、純然たる人間の速度に意識が追い付かなかったのだ。


 それはラザールの人間よりも遥かに高みにいる天使というプライドを傷つけるには十分すぎ、さらには恐怖与えるには十分すぎた。


 加えて、銃口を突きつけられるという行為で()()()()()ことが戦いを好むラザールにとっては許されざる行為であった。なぜなら、手加減されたということだからだ。


「ふ、ふざけるな――――がぁっ!」


 ラザールは咄嗟に攻撃をしようと拳を振りかざすが、それよりも速くカイの回し蹴りが入りラザールを再び壁に叩きつけた。


 その蹴りはラザールにとって先ほどの背撃よりも遥かに重く感じ、さらには壁に叩きつけられて全身が伸びる一瞬を突くようにして両腕両足に魔力弾が撃ち込まれた。


 それによって、ラザールはうつ伏せのまま地面に伏していく。その姿を見ながらカイは相変わらずの目つきで淡々と告げた。


「おいおい、俺が君を殺すわけないじゃないか。だって、()()()()だぞ? 死者と対話できるほど万能じゃないからな、俺は」


「そ......それが手加減してるってことです!

 私は女神フォルティナ様に仕える神影隊の天使の一人ラザール! その私に手加減ですか!?」


「そう怒るな。だが、最初に戦いを長引かせようとして手加減したのはお前だ。

 俺は俺の目的のために君を“今は”殺さないだけであって、別に用がなければとっくに殺している」


「なら......見せて上げますよ。私の本当の力をね!」


 ラザールは口から血を吐きながら体を起こそうとする。

 そんなラザールに対して、カイは冷たく言い放った。


「それはいい。めんどくさいからな」


 カイは両手に持つ銃の銃口から氷の属性を持った魔力弾を放った。

 その弾は一瞬にしてラザールに近づいていくが、ラザールに着弾する前に弾き飛ばされる。


 それは立ち上がったラザールの体に纏われる黄金の魔力――――神気によるものであった。

 その魔力は使いや眷属よりも遥かに神々しく、また圧倒的な魔力量でこの場一体をカタカタと揺らすような激しさを持っていた。


 その様子を見てシルビアはカイに告げる。


『調子に乗ってたのはパパの方かもですね』


『言わないで。さっき、すっごくカッコいいムーブしてた自分に対して猛烈に反省してるから』


『自覚あったんですね』


 さすがのカイもラザールの神気には苦笑いを浮かべる。

 そんなラザールは神気を全身に纏わせていき、神官の服に黄金の装甲を脚、腰、胸、手と纏わせていくと最後には身の丈ほどの鎌を手にした。


「......確かにあなたの言う通りです。戦いは互いが全力でもって戦うからこそ華というもの。

 それを長引かせようだなんて愚かにもほどがありました。感謝します」


「い、いや......感謝よりももうそのまま寝て欲しかったんだけど」


「ふふふ......ハハハッ、ご冗談を! これからが華じゃないですか! さぁ、存分に殺し合いましょう!」


*****


 場所は移って広場から北西部に移動した場所にソラに乗り移っている女神ルナリスとハイギルがいた。


「くっ、どいつもこいつも正気を失ってやがってキリがない」


「しかし、大事なこの国の民です。決して殺してはいけません」


「わかっています――――そらよ!」


 そう言って正気を失った一般人を剣に鞘をつけたままみねうちで気絶させていくハイギル。

 そして、襲ってきたある程度の数を全て倒すと一息つきながらルナリスに聞いた。


「それにしても、コイツらルナリス様を見かけたらルナリス様だけを狙って攻撃してきますね」


「そういう風に洗脳されているのでしょう。加えて、この国全体に洗脳をかけるとすれば、一人ずつなんて面倒なことはしないはずです」


「ということは、先程からルナリス様が向かっている場所はその洗脳をさせた魔法、いや、魔法陣がある場所ということですか?」


「そうですね。この先に邪気が一層に強い場所があります。その場所に向かいましょう」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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