第65話 突然の惨劇
「最初は冗談かと思ってたが......まさか本気の本気で女神、それも創造神ルナリスだったとはな......これはどういった御用でしょうか?」
「良いわよ、さっきの空ちゃんみたいにいつも通りに話してくれれば。
さっきも言った通り、私はただこの体に宿ってるだけですから。
そしてその訳はそこにいるお嬢ちゃんが一番知ってるはずですよね?」
ソラの容姿をそのままにルナリスは両眼に刻まれた五芒星を輝かせながら視線を向ける先にいるのはシルビアの方であった。
そのルナリスから視線を向けられたシルビアはその問いかけが来ることをわかっていたように目立った反応は示さなかった。
ただ少しだけ焦りが浮かんでいるようにも見えなくもない。
「シルビアのことを知ってるのか?」
「そりゃあ、女神ですから。とはいえ、私が本当にいるということを知っているのは今この場にいる子達だけで、今宴会を続けている子達は女神のように思ってついてきてくれているだけですけど」
「つまりはこの場でできる限り本物がいるということを知られたくない事情があるわけだな?」
「察しが良くて助かります」
ルナリスは嬉しそうに笑顔を浮かべると簡単に状況だけを説明していく。
「まず私が置かれている立場はいわゆる反逆者。
私の分身体でもあるフォルティナが暴走し、本来私の立場を奪い取ってこの世界の全権力を手中に収めています。
ただ完全に奪われたわけじゃなく、だからこそ完全にするために私を殺すことでその権力を集めようとしているの」
「まさしく神話の話だな。とはいえ、ただ普通に暮らしているこっちからしてみれば、あまりにはた迷惑な話だ」
その言葉に信徒であるハイギルは思わず怒鳴った。
「おい、カイ! それは言い過ぎだぞ!」
「大丈夫よ、ハイギル。私は彼の全ての言葉を受け止めるるもりですから。
少なからず、彼にはその言葉を言えるだけの辛さを抱えています」
ハイギルを制止させたルナリスはただ温和な笑みを浮かべてカイに少しだけ申し訳なさそうな目で見つめた。その様子を見てカイは質問する。
「俺のことを知っているのは空を通じてか?」
「それもそうだけど、少なからず同じ体であるフォルティナの行動はある程度伝わってくるのです。この世界を統治する創造神としての権能によってね。
とはいえ、ソラちゃん達がここに召喚された時にはすでに妨害できるほどの力は残っていなかったから......何もしてあげられなくてごめんなさい」
「まぁ、そちらにしても事情があるんだろうさ。それはわかってるつもりだ。
とはいえ、同じ存在ならフォルティナが何をしようとしているのか知っているんだろう?」
「ええ、もちろん。彼女がやろうとしていることは―――――」
―――――ドゴオオオオォォォォン!
ルナリスが答えようとした矢先、この場が大きくがたつくほどに揺れる衝撃に襲われたとともにそう遠くない場所から巨大な爆発音が聞こえてきた。
この緊急事態にカイ達は急いで地上への階段を上っていく。
その間にも小規模の爆発がいくつも発生していて、カイ達が外に出るころには目を疑うような光景になっていた。
所々に大きく縦に伸びた炎、いくつもの民家を隠すような黒い煙、突然の爆発の連続に逃げ惑う人々。
その人々を背中から斬る者とその者を更に斬る甲冑を着た騎士。
「なんだこれは......戦場じゃないか.......」
その光景を一言で済ませるならハイギルの言葉が最も的確であった。
するとそこに一人の粗野な恰好をした男がやってくる。
その男は武装していたために思わず警戒したカイ達であるが、ルナリスが「仲間よ」と待ったをかけるとその者に尋ねる。
「この状況は一体なんですか?」
「わかりません。ただいきなり仲間の数人が暴れ出したと思ったら、正気だった仲間も皆狂って。今は騎士団と交戦中です」
「そうですか。わかりました。あなたは今すぐ市民の誘導を――――」
「なので、私も一戦交える所存です」
「......っ!」
そう言うとその男は突然手に持っていた武器でルナリスめがけて攻撃し始めた。
その奇襲に咄嗟に動けなかったルナリスであったが、すぐさまカイがみぞおちに重たい拳を一発入れることで沈めていく。
「ありがとう。助かりました」
「それは構わないさ。それよりも今の男、完全に殺意を空――――ルナリス様にしか向けていなかったようだが」
「恐らく先手を打たれたのでしょうね」
その言葉に「どういうこと?」とエンディが詳しく尋ねていく。
それに対し、「一先ず中心地に向かいましょう」と言うとルナリスは話し始めた。
「私は狙われていることを知りながらも、ずっとここにソラちゃんの体を借りて留まっていたのは訳があります。
それは先ほど私が殺さなければいけないと告げた大臣......そいつがフォルティナに最も近い存在にいる者だからです」
「最も近い存在......神影隊って奴か?」
「えぇ、その者達です。彼らはフォルティナに仕える最強の天使達で、その力は一人で国を滅ぼせるほど」
「なら、なんでそんな所にいるんですか? そんな危険な相手が近くのなら逃げた方が良いじゃないですか?」
キリアの言葉は最もであった。しかし、それでも引けぬ事情があるようにルナリスは言葉を告げていく。
「そうね、その言葉は正しいでしょう。だけど、それだと恐らく本当に勝つことは出来なくなるの。
仮に私が力を蓄えて戦えるようになっても、フォルティナと神影隊、さらにはその眷属とまでの数にはさすがに勝てない。だから、その前に確認する必要があったのです」
「まさか天使相手に人間をぶつけようってのか? さすがにそれは無茶だ」
「もちろん、わかっています。こうして組織を作ったのはあくまで人間が勝てる範囲での敵に対してだけ。
眷属やそれ以上の相手に関してはフォルティナが召喚させた異世界人に戦ってもらう予定でした」
その言葉に思わず胸の内から黒い感情が湧いてきたが、シルビアに手を掴まれることで冷静さを取り戻していく。そして、ルナリスの言葉に反応を示した。
「まぁ、確かに異世界人には随分過剰な戦力を与えてくれるもんな」
「大きな力には大きな責任が伴うと言うけど......もちろん、こんな目に合わせるために授けた力ではないわ。それに私にはそんな力を付与できるほどの権能はない」
「となると、フォルティナがやったってのか?」
「......ただの推測ですけどね。とはいえ、少なからず私がこの帝国内にいることを留まっていることを知っていながらも攻撃しなかったのはあくまでこの状況が彼女にとってのハンティングゲームでしかないからかもしれないわ」
「召喚した連中にわざわざ強い力を授けて、相手がその戦力で固めた所を叩き潰して......ってところか? もしそうだとしたら、かなり趣味が悪い話になってくるな」
「ただその中でもイレギュラーが起きました。その目論見が破綻しかねないほどにね」
「なんだそれは?」
「気づいてないようね。それはあなたよ――――ニイガミ=カイさん」
その言葉にカイは思わず小首を傾げるとルナリスは簡単に説明していく。
「本来あなたという存在はこの世界に居てはいけない存在なのです。なぜなら、神の力無くしてこの世界にわたって来たから。
本来あなたがいた世界とは別の世界があることは全く認識できないもので、仮に存在が確認されても自力では絶対に行けない」
「だが、俺はお前らの方法で逆利用してやって来たが?」
「そう、それこそがあなたがイレギュラーたる所以です。
この世界から人が呼べるのは神に召喚されるからであって、人間がやる儀式だってそれはあくまで神に召喚させるよう促してるだけなのです。
しかし、魔法のないあなた達の世界の神は究極的な放任主義の神であるから普通はどんなことしても別の世界に移ることは不可能」
「なら、俺はどうしてここに来れたんだかって話になるんだが?」
「そこは私にも謎ですね。まぁ、言うとするならば仲間を助けたいという想いが果たした正しく“神がかり”的軌跡なのかもしれないわね」
「軌跡、ね。なんでもいいさ。仲間を助けられるなら。とはいえ、そんなイレギュラーにフォルティナが力を与えるはずがないよな?」
「それは私が“月神”というもう一つの姿の権能を全てあなたに譲渡したからかもしれません。
その結果、私自身の力はほとんどなくなって、今はこうして体を借りないと動けない状態」
「まさかその異常な力はルナリス様によるものとは知りませんでした」
ルナリスのカイの力による衝撃的なカミングアウトに対して思わず反応を示したシルビア。
しかし、シルビアは納得している様子なのかあまり声に抑揚がなかった。
「あなたの主人の秘密を暴いて幻滅したかしら?」
そう尋ねるとカイの銃としてホルスターに収まりながら揺られているシルビアはすかさず返答していく。
「別にそんなことはないです。そもそも神が力を与えたとしても、それはあくまでその人に使える限界レベルでしかないはず。
しかし、パパに与えたのが月神の権能の全てであるとすれば、普通の人間は神という超常的存在の圧倒的力によって廃人になりかねません。
ですが、パパは平然と使いこなしている。やはりパパは変人ですね」
「そうね。この世界に一人でやってくるは、神の力を全て受け止めながら使いこなすは、考えてみれば結構な異常者ですね」
「カイが異常者になっちゃった」
「しかも神様お墨付きですよ、カイさん」
「良かったな、カイ!」
「この言葉を素直に受け止めていいのやらなんやら。とはいえ、この力で救えるのならそれいいさ。まだしばらく借りさせてもらうよ」
「ええ、この世界のキーとなるのはあなたですから」
そう話しているとカイ達は中心地までやって来た。そこは文字通りの地獄となっていて、数日前まで活気の良い声が溢れていたその場所は今や悲鳴や断末魔のような声が至る所から聞こえ、焦げた匂いがよりこの場の激しさを物語っている。
真夜中で夕暮れのような明るさを示す中心地で待ち受けていたのは圧倒的な魔力で立ちはだかる二人の天使。
「さぁ、やって来たぜ姉者よ」
「そうね。盛大に血祭りにあげましょうか」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




