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第46話 約束を守るため

 場所は地下下水道の一つの空間、そこにいるカイとルーデルはさぞや激しい戦闘をしているかと思いきやその空間は驚くほどに静かであった。


 それもそのはず戦闘はすでに終了しているからだ。


 カイは氷の塊となっているベノムスライムの破片に腰掛けながら、内ポケットから取り出したタバコに火をつけて吸っていく。


 その丁度向かい側の壁には磔にされているかのようなルーデルの姿があった。

 無傷と言ってもいいカイに対し、ルーデルはその美形の顔が悲惨に朽ちているかのように一部にアザが出来ていたり、血が流れている。


 ルーデルはのどから込み上がってくる血をむせる形で吐き出しながらカイに尋ねた。


「ごはっがはっ.......お前は一体何者、だ? この僕が手も足も出ないなんて.......」


「ふぅーっ、ただの人間だっての。

 ま、強いて言えば俺の運命に茶々を入れてくれた神に恨みを持つ人間と言えるけど」


「お前のような存在があの脆弱な人間であるはずがない!......がはっ」


「無理して気張るなよ。それに言ってもお前らも人間だろ?」


 カイの目線は終始ルーデルの動きの機微に注意し続けていた。

 そのためルーデルも下手な動きが出来ないでいる。

 圧倒的な上下関係を作り上げた所でカイはルーデルに対して質問した。


「お前は俺の探している人物の中で『知っている者はいない』と言ったが、それはお前が神の眷属であるためか?」


「そう、ともいえる。我が主にとって僕達のような存在は所詮捨て駒でしかない。そして神影隊......あの人達こそ真の兵士だ」


「それは自分自身が出来損ないと認めてるわけだが......どうしてそこまで崇拝する? 相手は厄神なんだろ?」


「フォルティナ様は厄神などではない! あの方こそが真の神だ!」


 ルーデルはまるでそれが世界の真実であるかのようにハッキリ告げた。

 そのルーデルの目は一種の狂信者のように黒ずんでいたが、カイはそれを一瞥するだけでタバコを吸っていく。


 すると天井の方から轟音が響いてきて施設全体が揺れるとともに砂埃がパラパラと降ってきた。

 カイが思わず天井を見上げるとルーデルはまだ勝機はあるとばかりに笑って告げた。


「残念だったな、君が地上に戻る頃にはあの町はとっくに火の海となっているだろう。

 のこのことここにやってきたせいでな!」


「そうでもないさ。俺には信頼できる仲間がいるからね」


 カイはタバコの火を消して吸い殻ケースを内ポケットにしまうと立ち上がる。

 そしてコートに両手を突っ込んだまま、足元の影から二本の黒い手を作り出した。


「君との会話は有意義だったよ。なんせ君は嘘をつかないでくれたからね。

 ま、だからと言って見逃せるほど俺も心広くないけど」


 そう言ってカイは黒い手を伸ばした。

 その迫りくる手を見てルーデルは自分の死に恐怖しながら呟く。


「悪魔め」


 そしてルーデルの体はその黒い手によって握り潰された。

 辺り一帯には吹き出した血が飛び散っていく。

 そんな光景を一瞥しながら、カイは地上に向かって歩き出し捨て台詞のように呟いた。


「お前らがそうさせたんだろ」


******


 地上のカイサル北西部――――そこではエンディとカンザフの戦いが未だ続いていた。


「ハッハー! 俺が神の使いでなけりゃ一発で頭吹っ飛んでただろうな!」


「めんどうな奴」


 少しずつイラ立ちが募っているのかエンディの声色はやや冷たく、そして雑な言葉を使い始めていた。

 しかし、その様子がカンザフにとっては喜ばしかったのかエンディに向かって走り出した。


「俺が神の使いになった理由を教えてやろうか!

 それは単に燃えるようなケンカがしたかっただけだ!」


 カンザフは右手に持った片手斧を真っ直ぐ振り下ろすとエンディは左手に作り出した竜鱗で弾いていく。


 そしてそのまま、右手をストレートに振るおうとするが、その拳は地面から伸びた土で拘束されていた。


「大地の戯れ――――からの蹴りぃ!?」


「舐めないでくれる?」


 カンザフはがら空きとなったエンディの胴体に思いっきり蹴り込もうとした。

 しかし、その足は蹴る前にエンディの尻尾に掴まれてそのまま横にあった半壊の建物へと投げ飛ばされていく。


 カンザフがその建物に突っ込んだ瞬間、建物が一気に崩れ大きな砂煙と風を周囲に撒き散らしていった。


 その建物をエンディが注視していると砂煙から真っ直ぐ片手斧が飛んできた。

 それをエンディが弾くとその足元から土で出来た拳が飛び出してくる。


土人形の拳(リトルハンマー)


 まるでアッパーカットのような軌道にエンディは思わず体をのけぞらせると見上げた真上からカンザフが降ってきた。


地鉄骨(アースナックル)


「ぐっ」


 エンディは両腕でガードしながら、尻尾と両足の三点で真上からの逃れようのない衝撃に耐えていた。

 しかし、カンザフの攻撃はまだ続いている。


「これも耐えるたぁやるな! だが、もう側面からの攻撃は避けれねぇだろ!」


「がはっ」


 突き出た土の拳の横側から更に拳が伸び、エンリの腹部へと直撃した。

 重たくずっしりと来る衝撃にエンディはアバラに何本かヒビが入ったことを感じながら、民家へと突っ込んでいく。


 瓦礫に寄り掛かる状態で座っているエンディにカンザフは右手に片手斧を呼び戻すと更なる追撃を仕掛けた。


「いくぜぇ!」


 そう意気込みながらカンザフは片手斧を振るった。

 それに対し、エンディはすぐさま竜鱗を作り出した左腕で防ぐが、今度の一撃はエンディの竜鱗にヒビを入れた。


 そのことにエンディは思わず驚く。

 なぜなら部分的とはいえ、竜人族が作り出す竜の鱗はそれこそほぼありとあらゆる金属の攻撃を防ぐのだ。


 それほどまでに固く、絶対的な防御でありヒビが入ることすらあり得ないのだ。

 しかし、カンザフの武器によってたった数回攻撃や衝撃を与えられただけでヒビが入った。

 これは異常事態であった。


 そのエンディの竜鱗の様子を見て「チッ、カンザフはあと一回か二回ぐらいか」と呟く。

 その言葉に妙な嫌悪感を感じたエンディは片手斧を振り払った左手でカンザフの胸ぐらを掴むと右手を腹部に押し当てた。


「これなら逃げられない」


「ま、待てそらねぇ――――」


「竜拳法―――破溜崩」


 エンディは右手に魔力を流し込むとそれを一気に収束・爆発させて作り出した竜の咆哮のような衝撃波でカンザフは吹き飛ばした。


 その威力はカンザフを数十メートルと吹き飛ばし、さらに数件の民家を貫通させていくというものであった。


 しかし、エンディは油断せずに立ち上がっていく。

 なぜなら、竜人族に宿る特殊な目からはまだカンザフが纏う赤いオーラが見えているからだ。


 すると数十メートル離れた場所の民家が思いっきり爆発した。

 その瓦礫はエンディの方まで吹き飛んできながら、爆発した方向には丁度服のお腹部分に穴が開いたカンザフが歩いてくる。


「さすがに効いた。すげぇ痛い」


「そう、なら良かったわ。それにこっちも効いたわ。まさか私の竜鱗が壊れるなんて」


 そのエンディの言葉を聞いたカンザフは上機嫌になりながら、右手に持った片手斧を見せつける。


「そりゃそうさ、それが俺の神気武装――――カウントアックスの能力だからな。

 カウントアックスは相手に攻撃を与えるたびにその威力が増していく。ま、あくまでその対象者だけだがな」


「だから、私の竜鱗が壊れたわけね」


「そういうこった。ラクレン様って眷属の人が同じような殴るたびに威力が増す神気武装を持っていたが......それでも倒せねぇ防御を持った奴ってのは一体誰なんだか」


 そのカンザフの言葉を聞いてエンディはすぐさまカイの言葉を思い浮かべた。

 そしてエンディは知っている、神の使いが神の眷属よりも下であることを。


 エンディは少しだけ自分を恥じた。

 エンディはカイの隣に立ちたくて、そのために頑張ろうと決めたのだ。

 にもかかわらず、神の使い()()にこの体たらく。

 それが無性にイラ立ちを感じて仕方ないのだ。


 その瞬間、エンディは気づく。

 先ほどからずっと感じていたそのイラ立ちが相手の言動によるものではなく自分の劣等感によるものだ、と。


 ならば考えるべきことは一体何なのか、とエンディは思考を巡らせる。

 簡単だ、この使い(ザコ)を倒して自分も役に立てることを証明すればいい。


 もとより、この街(カイサル)が襲われる可能性があることは考慮していて、それでもカイはルーデルの策略に乗る形で作戦を実行した。


 それはつまり、エンディにこの街を守ることを任されたと言っても過言ではない。

 その信頼に対して答えるべきものは一つ――――約束を守る(敵を倒す)結果を作り出すだけ。


 その瞬間、エンディの体の中で何か一部が目覚めたような気がした。

 信頼にこたえようとすればするほど、自分の魔力が増幅していき体に輝かしい白いオーラを解き放っていく。


 そして同時に頭の中に過るのは一つ声。


『天恵を得し者――――白纏が使えるようになりました』


 その声は一気にエンディに情報を与えていくが、その一つ一つの情報がエンディにとってまるで無意識に動かせる手足のようにスッと自然に流れ込み、使い方がわかった。


 白い光を纏うエンディを見てカンザフは思わず慄いた。


「おいおい、竜人族の天恵者はまだ覚醒してなかったんじゃねぇのかよ......!?」


 だが、すぐに頬を叩いて気を引き締め直すとカンザフは考え直す。


「(いや、落ち着け。今まさに覚醒の第一段階が終わっただけならばまだ勝機はある。攻めるなら今しかない!)」


 カンザフは右手の片手斧を握りしめると左手を突き出してエンディを拘束しようとした。


「大地のたわむ――――」


「竜拳法――――」


「(疾っ――――)」


 カンザフが魔法を発動させる前にはまるで最初から目の前にいたかのような自然さでエンディは立っていた。

 そして大きく引いていた拳をそのまま叩きつける。


號拳(ごうけん)


 その瞬間、カンザフは殴られたダメージと共に接触の際に撃ち放たれた光の砲撃で跡形もなく消滅した。


 カンザフの姿が消えると軽く息を吐いて解放された魔力を解いた。

 その瞬間、エンディの全身に激痛が走っていく。

 どうやら先ほどの力の反動らしい。


「......キリア、今行く」


 しかし、エンディは痛む体を引きずりながら走り出した。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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