第45話 襲来の使者
カイが地下施設で戦闘を始めた同刻――――エンディ、キリアの所でも異変が起きていた。
「本当にカイさんの言う通りになりましたね」
「できれば本当になって欲しくなったけどね」
その二人の目の前にはカイサルの街に突如として現れたたくさんの魔物であった。
どこからか現れたかわからない獣型の魔物や地面から這い出てきた虫型の魔物などが一斉に街を襲い始めたのだ。
ものの数分で街の一部は壊滅状態となり、燃え盛る家々に逃げまどう人々など数日前の日常が嘘かのように地獄となっていた。
「キリア、私達は出来る限り魔物を倒すよ」
「当然です」
二人は魔物に襲われてる民間人を助けながら魔物の討伐を行い始めた。
エンディはその有り余る竜人族の膂力で殴り飛ばし、キリアは得意の風魔法で切り刻んでいく。
その二人の雄姿を見たのか冒険者もその姿を見習って戦闘を開始した。
至る所で魔物の鳴き声が響き渡る中、二人は手が空いている民間人に近くで助けを求めてる民間人を助けるよう指示しながら、魔物を殺しまわっていくと突然二人の前に一人の男が降りてくる。
「ちょいと待たれよ、お嬢さん。これ以上の蛮行はこのカンザフが許さねぇぞと」
神官のような白い服を纏った大柄な男はエンディとキリアに声をかけた。
二人はその男から感じる圧倒的な魔力からすぐさまその男が何者であるかを理解する。
「あなた......神の眷属かしら?」
「いやいや、そこまで大それた人物じゃねぇぞと。
だがまぁ、神の使いであることは確かだな。
んで、知ってるってこたぁおめぇは俺達の敵っつーことだが?」
カンザフは睨むような目で二人を見た。
それに対し、エンディはカンザフに目を合わせながらキリアに指示を出した。
「この男は私に任せて。キリアは出来る限りの魔物を」
「......わかりました。無理だけはしないでください」
キリアは自分の存在が足を引っ張ることを理解しているからこそ潔くこの場をエンディに任せた。
その表情はどこか自身の無力さに悔しそうで、キリアが離れていくのを魔力で感じるとエンディはカンザフに話しかける。
「簡単に見逃してくれるのね」
「そりゃ、この場で一番危険なのは竜人族であるおめぇしかあるめぇぞ。
それに竜人族のエンディ=フォルナード、おめぇさんには俺達にとって重要な人物だ。
最悪、おめぇさんでも確保できればいい」
「だとしたら生憎それは無理そうね。なんせ私は――――もう一人の男の女であるから」
「へっ、言ってくれるじゃねぇか!」
カンザフは地面を踏みつけるとその足の直線状の地面を隆起させた。
その剣山ともいえる地面の針をエンディは躱さずに正面から受ける。
「竜拳法――――覇迅」
力強く引いた右拳をストレートに叩きつけるだけのその技は剣山の地面に直撃した瞬間、一気に爆散させて殴りによって発生した拳圧が粉々になった地面の欠片ごとカンザフへと押し返していった。
カンザフはそれを躱しながらエンディに近づいていく。
そしてエンディに向かって手を向けると魔法を唱えた。
「しがらみの針」
すると、エンディの足元の左右から突然針のような形状の地面が隆起していく。
それをエンディはバク転しながら素早く躱していくも、その攻撃が避けきった頃にはカンザフが目の前に迫っていた。
「地鉄骨!」
カンザフは左手に周辺に散らばる瓦礫をかき集めてくっつけていくと瓦礫でできた拳を作り上げた。
そしてその拳をエンディに思いっきり叩きつけていく。
しかし、そのエンディの半身はあろう大きな拳をエンディは両手で受け止めた。
「ハハッ、さすがに竜人族を俺の魔法だけでどうにかするたぁ無理があったか」
「だったらどうする気?」
「決まってんだろ――――神気解放・神気武装カウントアックス」
「っ!?」
カンザフは右手に黄金に輝く片手斧を作り出すとそれを思いっきり下から上へと振り上げた。
その武器による攻撃はまずい、と感じたエンディは後ろへ跳躍しながら素早く両腕をクロスさせた。
「竜拳法――――鋼竜鱗」
カンザフの片手斧によって吹き飛ばされたエンディは勢いよく後方に吹き飛んでいき、そのまま背後にいた魔物を巻き込みながら家に突っ込んでいった。
「魔物のクッションはたまたまだろうが咄嗟に背後へ飛んで勢いを殺し、両腕に部分的竜の鱗を作り出すことで俺の攻撃を防ぐたぁやるな......あ?」
エンディの咄嗟の行動に感心しているとカンザフは自身の異変に気付く。
それは視界がぼやけるように歪み、鼻や口の端から血が流れているのだ。
カンザフは瓦礫を解いた左腕で血を拭いながらその異変について考える。
「(どういうこった? 今のは確かに俺のターンだったはず......だが、血が流れてるってことは確かな攻撃を受けたってことだ)」
ぐらつく視界の中、先ほどの一瞬について考えてみるが特に思い当たる節は感じなかったカンザフ。
だがふと足元にある不自然に細く抉れた地面に気付くと自分の異変にも気づいた。
「(この線のような抉れた地面の場所にはさっきの女が立っていたはず。
だが、あいつは踏ん張るために足を使って......そうか! この地面はあの女が作った尻尾の跡か!
あの女、俺が攻撃するタイミングで股下から尻尾で俺のアゴを攻撃してきやがったんだ!)」
カンザフはそのことに気付くと思わず笑い始めた。
そしてその表情のまま遠くに見える風穴の空いた家から煙を纏いながら現れたエンディを見つめる。
「こりゃあ楽しくなってきたな!」
「ぺっ、どこが」
エンディは口に溜まった血反吐を吐き捨てるといつにもなく睨むような目で言い返した。
*****
カイサル南西部、そこではエンディとキリアと同じように至る所から現れた魔物によって襲撃を受けていた。
そしてそこでは数で勝る魔物の軍勢に悪戦苦闘しながらもなんとか堪えているエンリ、ルイスの姿があった。
「この魔物、一体どうなってんのよ!」
「わかりません。ですが、襲撃であることは確かでしょう」
しつこさを増す魔物にイラ立ちを募らせるエンリにルイスが冷静に状況を分析しながら返答していく。
そしてルイスにはこの襲撃に少しだけ心当たりがあった。
「(まさか本当に襲撃されるとは......ということは本当にこの街に神の眷属が?)」
ルイスがそう思うのはカイがルーデルと接触するよりも前にこうなる可能性があるということを事前に知らせていたからだ。
その情報の中でカイが特に強く可能性を提示していたのが神の眷属による襲撃であった。
「その狙いは自分であるかもしれない」とカイは伝えていたものの、それがどの程度の規模で起こされるのかわからなかったため最悪この街自体が戦場になるとも伝えていたのだが、そのまさかになってしまったのが今であった。
ちなみに、この情報に関してはエンリには伝えていない。
現状況で詳細に話す時間はなく、部分的に話してしまえば厄神に呪われたエンリが自分が招いた悲劇と思ってしまう可能性があったからだ。
しかし、このあえて伝えてない情報も知られてしまう可能性はある。
そう例えば、神の眷属本人からの言葉とか――――
「おっ、随分と頑張ってんな。偉い偉い」
すると突然、緊急事態にもかかわらずどこか他人事のように言葉を投げかけてくる男の声がした。
エンリが「誰?」と言いながらその声をのする方を見ると崩れた家の屋根にしゃがんだ状態で見下ろす粗暴そうな男がいた。
その男は軽く跳躍してエンリ達の前に立つと半笑いの表情で話しかけた。
「いや~、こんな所で我が主に染められし聖女が未だに世のため人のために頑張ってるとは。
正直言って、爆笑。腹で茶を沸かせるレベルだわ」
「あんたは誰って聞いてんだけど?」
「おーおー、あくまで強気で正義者気取りか。まぁいい、俺はシムって言うもんだ。良かったら覚えておいて」
「で、あんたは何者?」
「何者って神の眷属だけど」
サラッと告げるシムにエンリは「この人が......」と呟きながら唾を呑みこんだ。
しかし、そんなことを知らないエンリはシムへと助力を頼む。
「この際変人でもいいわ。今、民間人が魔物に襲われてるの。一人でも多く助けたい。だから手伝いなさい」
「いいぜ、ほらよ」
そう言ってシムは空中に水の槍を作り出すとそれを――――民間人へと投擲した。
その直後、その槍は民間人を貫通して一瞬にして絶命させていく。
その光景を見たエンリはすぐに怒りの沸点を爆発させて発言した。
「あんた何やってんのよ!」
「何って言われた通り助けたじゃねぇか。
死こそ増えすぎた弱者の救済。むしろ、お前の方こそ我が主フォルティナ様に認められてるくせに何正義者ぶってんの?」
「何言ってるわけ?」
「だから、俺はこの街の連中をぶっ殺すためにいるっつってんの。
はぁ、本当はあの男と殺り合いたかったが、まさかあそこでルーデルがパーを出すとはな......」
シムは腕を組みながらふとどちらがカイを殺すかを決めるじゃんけんのことを思い出していた。
その状況の中でもたくさんの人が魔物に殺されたり、倒壊した建物の下敷きになっている。
しかし、あくまでシムにはどうでもいいことで、そのシムの様子を見てエンリは体を震わせた。
「ふざけんじゃないわよ! 確かにあたしはフォルティナによって呪われた! だけど、心まで真っ黒に染まっちゃいないわよ!」
「はぁ? 今なんつった?」
エンリの言葉にシムはピクッと反応した。
そして先ほどの笑みを浮かべた表情から一変して一気に魔力を溢れさせて威圧する。
「呪われただぁ? 祝福の間違いだろうが。今すぐ訂正しろ脆弱な人間が」
悍ましい殺気と魔力の圧の奔流に飲まれ、エンリとルイスは全身の毛穴から汗が噴き出して止まらなかった。
しかし、エンリはあくまで毅然とした態度で言い返す。
「脆弱な人間? ふんっ、それで結構!
私は女神ルナリス様に遣える聖なる信者よ!
たとえ厄神から認められようともこっちから願い下げよ!」
「そうか、ならば死ね」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




