第43話 依頼人
「......依頼?」
「はい、どうもカイ様宛てに届いている依頼でして......こちらで勝手に中を見るわけにもいきませんので、お伝えした次第です」
「なるほど......」
カイがルイスとのいざこざがあってから三日が経った。
その間は特に何も起きず、カイが警戒していたトカゲを操っていた存在もわからないまま時間だけが過ぎていくかと思えば突然の依頼要請。
加えて、カイ達のランクは未だにまだまだ初級といった感じなので、本来そんなカイに指名依頼が来ること自体おかしいのだ。
故に、カイを担当している若い受付嬢はなんとも言えない顔をしている。
あまり良い予感はしていなさそうな感じだ。
「正直なところ、この依頼は特に怪しいです。
旅人のカイ様がこの街にてギルド登録をしてまだ二週間と経っていません。
なのに突然の指名依頼......しかもこのルーデルフェルトという人物をカイ様が知らないとなるときな臭さしか感じませんが......どうしますか?」
そう受付嬢は尋ねてくるがその顔はもはや「受けないでください」と言っているようなものであった。
されどそう聞いてくるのは、あくまで冒険者とギルド側が互いの利で契約しているからだ。
カイは「少し見せてくれないか?」と受付嬢の持っている依頼書が入っているであろう封筒を受け取るとその封を切って中身を確認した。
そのカイの手に持つ内容に肩車してもらっているシルビアは覗き込むように、エンディとキリアは互いに隣から覗き込むように見ていく。
その内容はこう書かれていた。
『拝啓 新緑の英雄様へ
私はこの街に住むルーデルフェルトというもので、故郷であるアルフォルトを救っていただいたとのことで身勝手ながら信用してこの依頼を出しました。
その依頼というのが最近流行っているといわれる連続失踪事件のことについてです。
先日、私の友人が突如として消えてしまい私なりに探してみたものの未だ行方知らず。
そんな折、アルフォルトの英雄のことを思い出しまして、英雄様なら私の友人を見つけてくれるのではないかと思ったのです。
受けてくれるのであれば、どうか明日の午前十時にフォークス通りの猫看板に来てください。
どうか私の友人を見つけてください。お願いします。 ルーデルフェルトとより』
その内容を読んだカイはまず三娘に尋ねてみることにした。
「どう思う?」
「そうですね......まず相手がこうして本人に送れてる時点で怪しいですね」
カイの質問にシルビアはその紙を疑わしい目で見ながらそう答えた。
それに対し、カイは「ま、確かに」とだけ返事をする。
すると今度はキリアが感想を述べ始めた。
「あたしも怪しいと思いますが、それを否定できるようなところまだないと感じます。
この人がエルフであるかどうかはわかりませんが、確かにアルフォルトを離れて住んでいる人はいますし、実際故郷が危機に陥った時は遠くから戻ってきた人もいました」
「その反対に戻ってない人もいると?」
「それはまぁどういう事情かは分かりませんが、一部の人は家庭を持っているとも聞きましたから可能性はなくはないかと」
「キリアの言う通りかもな。疑わしくはあるがそれを確かめる力がない。
今から確かめるとしても、もしその人が本当に被害者であるならば、そんな悠長なことは言ってられないしな」
カイは最後に「エンディはどう思う?」と聞いてみる。
「それが罠であってもそれが真実である可能性が否定できない以上は受けるべきかもしれない。
だけど、それが罠である可能性を前提に行動すべきだと思う。
杞憂であればそれでいい。備えあれば憂いなし」
「......そうだな。現状はそれが一番ベストな解決案かもしれない」
カイはそう告げると受付嬢に向かって伝えた。
「悪い、これ受けるわ」
「......本当にその選択でいいんですか?」
「ああ、構わないよ。これは俺が請け負う責任だから君が気にすることじゃない。
それからもしこの依頼を受けて二度と俺の顔を見なくなったらそういうことだと思っておいてくれ」
カイはその依頼を受理すると冒険者ギルドを出た。そして丁度、街の喧騒に紛れるのを見計らってシルビアがカイに告げる。
「パパ、さすがにあの発言は酷だと思いますが。あの受付嬢さんはまだ新人って感じでしたよ?」
「だからちゃんと前置きを入れておいたんだが......そう簡単に受け止めきれるものじゃないよな」
「しかしですけど、今回は依頼が依頼なので言い回しにも限界があると言いますか。
カイさんはちゃんと言葉を濁したと思いますよ?」
「それに大人としての後始末の仕方を提示していた。カイはさすがだと思う」
「おいおい、そんな褒めんでくれよ」
キリアとエンディから褒められて思わずニヤケてしまうカイ。
そんなたるんだカイにシルビアは一喝する。
「ダメです、パパを褒めては。パパはすぐに付け上がりますから厳しめぐらいがちょうどいいのです」
「ちょっとー? シルビアは一体どんな立場なのよ?」
「娘ですがなにか」
「そんな高圧的に事実を言われたの初めてなんだけど。っていうか、微塵も理由になってないんだけど」
「強いていうならば、けちょんけちょんに言い負かされてるパパが見たいですね」
「本音は本音で酷いな。誰だ俺の娘をこんなドSっ娘にしたのは」
「パパですが」
「それは違う」
二人の不毛なやり取りが続いていく。
そんな二人のやり取りはエンディとキリアは楽しそうに見ている。
それから少しだけ露店巡りをしてカイ達は自分達の宿屋に戻っていった。
――――翌日
カイサルのフォークス通りと呼ばれる場所をカイ一人で歩いていた。
「えーっと、フォークス通りの猫看板......猫看板.....っとあったあった。
で、そこの近くにいるあの青年が依頼人ってことか?」
カイは地図を片手に辺りを見渡して目的地を探し当てると依頼人へと目を移す。
依頼人の顔立ちはイケメンでエルフの特徴である尖った耳もしていた。
「(外見は一致していますね)」
「(みたいだな)」
カイは脳内に響き渡るシルビアと会話していく。
というのも、現在シルビアはすでに銃の状態になってカイのホルスターに収まっているからだ。
しかし、シルビアがすでに人間でないことはトカゲを通して目撃されているので、あくまで牽制用ともいえる形だ。
カイはごく自然を装ってその青年に話しかける。
「君が依頼人のルーデルフェルト君かい?」
「はい。ですが、その名前は長ったらしいのでルーデルでいいですよ。友人からも基本的にこっちで呼ばれてましたし」
「ではルーデルさん、依頼を始める前に不躾な質問だがどうして俺を頼ったんだい?」
「英雄様のお噂はかねがね。なんでもあの世界樹を斬ってアルフォルトに襲い掛かる危機を退けたと聞きまして」
「(どうやら内容は当てずっぽっていう感じでもなさそうだな。もしくは騙すことに長けた狂人の域か)」
カイはルーデルの表情から読み取れる感情を見てそこに不安や欺瞞心といったものがないことがわかった。
つまりそこから導き出されるのは本当に被害者としての依頼か、もはや呼吸をするような感覚で嘘をつく詐欺師かの二択である。
「まぁ、結構ギリギリだったけどね。
皆の支援があったからこその結果だと思うよ。
俺だってただの人間だしね。
出来ることは限界があるから」
「ははっ、謙遜を。たとえ支援があったとしてももはや人が太刀打ちできる域を超えてる自然災害とも呼べるものを止めたのです。
それは誇っていいと思いますよ」
「そうか。なら、ここはいっちょこの英雄に頼ってもらおうではないか」
「では、よろしくお願いします。
少なからず独自で調べがついた所まで案内しますのでついてきてください」
そう言ってルーデルはそのままカイに背を向けて歩き出した。
それはただ無防備な背中なのか、それとも背後から攻撃されても対処できるという意味なのか。
どちらにせよその真偽を確かめるようにカイの目は僅かに細くなる。
「(引っかかるワードはあったが......現時点では何もしてこないな)」
「(油断しているのでしょうか、はたまた油断させているのでしょうか。
神の眷属以降は基本的この世界に住む種族に負けることがないですからプライドが高くなりやすいですが、パパを敵と怪しんでいる状態で油断するほど愚かでもないでしょうし)」
「(結局は現時点では何もわからないってことだ。
俺のウソ発見器の能力だって、明らかな嘘を自分自身まで騙す嘘で塗り固められていたとすればそれは見抜けないしな)」
カイはルーデルとの後ろを警戒するように歩いていく。
その視線が強く出てしまっていたのか時折ルーデルに「どうしました?」と聞かれてしまう始末だ。
「(パパ、感情を表に出し過ぎです。もう少ししまって下さい)」
「(悪い、恐らく考え過ぎだな。俺の脳はどうやら少しばかり空きがある方が案外回るらしい)」
「(どうでもいいカッコつけは良いですから油断だけはしないでください)」
「(はい......)」
カイ、シルビアに怒られる。
とはいえ、現状はシルビアの方が正論なのでカイは大人しく受け入れた。
「(そういえば、俺の目とリンクして何か見えたか?)」
ふとカイはそう聞いた。
それは丁度カイがルーデルと軽く立ち話をしてる時に敵がトカゲを通して見ていたのを利用して、シルビアもカイの魔力パスを通して視界をリンクさせていたのだ。
それによってカイは普通にルーデルに目を合わせている一方で、シルビアはカイが気付けないルーデルの機微を見ることが出来たのだ。
「(強いて言えば、一度それも一瞬だけ銃の方を見ましたね。
サイズ的に剣よりも圧倒的に小さいので腰についていても気づかれないことが多いですが、あの目は明らかにこっちを見ました)」
「(ということは、こっちの武器サイズを把握してるってことか?)」
「(可能性は高いですね)」
そのやり取りが意味することはルーデルが敵側であるという疑いがより強まったということである。
しかし、あくまで疑いでありそれを示す証拠も証言も何もない。
故に、カイは相手の出方を伺い続けた。
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