第33話 それぞれの思惑
宴から数日が過ぎたアルフォルトでは、お別れの日がやって来ていた。
「カイ殿、孫をよろしくお願いします。
不束者でパニックになると問題発言しか言わない子ですが――――」
「じい様!?」
「カイ殿なら任せられると思います」
アーガンは託すようにカイの肩に手を置いて優しい笑みで伝えていく。
それに対し、カイも同じように笑みを浮かべて答えた。
「ははっ、買いかぶりすぎですよ。俺でも手に余ります」
「カイさん!?」
カイの擁護してくれると思いきやむしろ加勢するような言葉に二人のやり取りを聞いていたキリアは思わず素っ頓狂な声を上げた。
さすがのこの発言にはじい様も何かいうのではないか、と恐る恐るアーガンの方へ向くキリアであったが、想像以上にいい笑顔で気にしてない様子だ。
それを見て少し悲しそうな顔をするキリア。
そんなキリアをエンディとシルビアは「ドンマイ」と言わんばかりにそっと慰める動作をした。
悲しきかなそこにフォローの言葉なかったようだ。
そしてカイ達はアーガン達に手を振られるままにアルフォルトを出ていった。
カイ達の旅の出発を皮切りにこの国に集まって来ていた獣人族や魔族のパーティ、今回の交流によって仲良くなったエルフを交えてのパーティなど様々な人達がアルフォルトを離れていった。
そんな中、途中まで同じルートを辿るということで、ウィルガムやコングルゥと話をするカイ。
その男メンツの後ろではエンディ、キリア、シルビアと獣人のミカエラ、魔族のアンジュが話している。
「それでお前達はどこにいくんだ?」
「俺はとりあえず母国の獣王国に帰るかな」
「同意見だ。ただ獣人と違って魔族が訪れられる街が少ないってのがあるせいで帰るのが時間かかっちまうのがネックだがな」
「ちなみに、お前達はどうするんだ?」
ウィルガムにそう聞かれたカイは特に黙っておく必要もないので素直に答えていく。
「とりあえず、この先にあるカエサルって街かな。
そこに俺の求めてる情報や人があるかもしれないから」
「そういや、人探しをしてるとかなんとか前に言ってたな」
「確か、随分と多かった気がするが......」
ウィルガムに続けてコングルゥが前に話したな内容を思い出し、そう言葉を挟んでいく。
その顔は自分達だけ浮かれてて気まずいと言った感じであった。
その表情を見たカイは気にしてないように笑みを浮かべると答えていく。
「まぁまぁ、これは俺の問題だから気にすることじゃないさ。
またどこかで出会えたら仲良く飲もうぜ」
「......そうか、お前がそう決めたんなら俺はそう従うまでさ」
「魔王国に来た時は真っ先に俺を頼れ。そこは人族に対して当たりが強いからな。
ま、そうじゃなくても単にお前と会って酒を酌み交わしたいだけだが」
「そうだな。頼らせてもらおうか」
「獣王国の時は俺だぞ?」
「わかってるわかってる」
食い気味に顔を近づけるウィルガムにカイは困り気味に少しのけ反りながら対応していく。
しかし、その表情は「信頼」という言葉が溢れていたので、カイの気分は明るくなった。
まるで乾いた心に僅かに潤ったように。
そんな楽しい道中も再び別れの時がやってきた。
今まで一本道でやって来ていた森の中の道を抜け、広がる草原には三つの道があった。
そしてカイ達、ウィルガムとミカエラ、コングルゥとアンジュはそれぞれ行くべき目的地のためには違う道を歩まなければいけない。
「カイ、またな」
「じゃあね~、皆~!」
ウィルガムとミカエラが先に別れを告げて歩いていった。
その姿をカイ達とコングルゥ達は手を振って見送っていく。
「相変わらず、妙にカッコつけたがるなアイツは。
だがまぁ、男に長ったらしく別れ際をする必要もないか」
「あのぐらいサッパリの方が案外いいかもな」
ウィルガムの後ろ姿を見つめながらコングルゥはどのか楽しそうな雰囲気で笑っていた。
そしてそんなウィルガムに倣ってかコングルゥも短い言葉で別れを告げる。
「それじゃあ、カイ。俺達も行く。今度な」
「では、皆も達者でな」
アンジュもサッパリとした別れの言葉を送ると二人で歩き始めた。
そんな後ろ姿をコートのポケットに手を突っ込みながら見つめるカイの表情はこの世界に来て一番明るい表情をしていたかもしれない。
そんなカイの様子に気付いたシルビアが思わず尋ねる。
「パパ、楽しかったですか?」
「そうだな......楽しかったよ。やっぱり人と繋がるってのは大切だと思ったよ」
カイはその二組に背を向けると目的の場所に歩き始めた。
その両脇をキリアとエンディが横に並んではカイを挟んで笑い合い、シルビアは相変わらずここ一番の跳躍でカイに肩車した貰うように肩に座っていく。
太陽に温められた心地よい風がカイの頬を撫でていく。
それを気持ちよさそうに少し目を細めながら、アルフォルトで知り得た情報をもとに決意を固くして目的地カイサルまで歩みを続けていった。
*****
聖王国ルリアントから北に数十キロ離れた土地にある帝国レベメンティス。
その国にあるラグサール城の国王の間では僅かに殺伐とした空気が流れていた。
王座に座る金髪オールバックの男【トリオン=レベメンティス】はその広く見せる額に何本かの青筋を走らせている。
「どういうことだ! トレントとなった世界樹レスティルによってエルフの国は壊滅するはずじゃなかったのか!?」
激昂するトリオンに目の前で膝まづく密偵らしき黒ずくめの男は震えた声で返答した。
「し、しかし、我々が様子を伺えばエルフの国アルフォルトは健在し、さらに天災ともいえるはずの世界樹レスティルが細切れになっているのが発見されました!
く、加えて、世界樹レスティルは未だ顕在しているようです!」
「それはどういう意味ですか?」
そう聞いたのは銀髪の爽やかイケメン参謀ラザールであった。
柔らかな物言いとは裏腹にその目から人とは思えない冷たさのある視線を送っている。
実のところ、密偵の男が怯えているのは激昂するトリオンではなく、その妙な存在感を放つラザールであったりする。
そして密偵の男はその質問にありのままに答えた。
「顕在とい、言うのは切断されたトレントの切り口から新たな芽が出ていることからそう判断しました。
そのことから何らかのイレギュラーが起こっていると判断した上で、急いで報告参った次第です!」
「.......なるほど。そう言うことでしたか」
そう返答するラザールの脳内では様々な疑問が思い浮かんでいた。
「(トレントの国での作戦は第一に天恵者の回収、第二にアルフォルトの壊滅......だったはず。
天恵者の回収は先ほど私に報告があったが、アルフォルトに関してはラクレンから報告が入るはずだった)」
そう思いながらラザールは密偵の男をもう一度見るがすぐに頭を横に振った。
「(ラクレンが変装なんてできるほど器用な人間じゃない。
だから、会う時はもっと人気の少ない場所と言える。
だが、そんなラクレンからの情報がない。
まさか神の眷属であるアイツが負けたのか? 一体誰に?)」
ラザールは不可解な疑問に思わず困惑した表情を見せる。
そんなラザールの表情を見ていたのかトリオンは思わず焦ったように尋ねた。
「ラザール、アルフォルトは聖王国ルリアントに攻め込むための重要拠点になるんじゃなかったのか!?
世界樹が負ける!? 何がどうなっているんだ!?」
「さすがの私も神でありませんのでわかりませんよ。
ただまぁ、一つ言えることはその世界樹を倒した人物の情報を得ない限りこの先は危険ということですね」
一先ずトリオンをなだめるようにそう返答する一方で、脳内では次なる企てを考えていた。
「(ともかく、その情報を得るためにはその国から近いカイサルに人を向かわせてみましょう。それまでは......様子見ですね)」
******
聖王国ルリアント、その国にあるルナリア城の中では髪の毛の半分が右側白髪でもう半分が灰色という奇抜な髪色をし、さらに髪色とは反対に右側が灰色で反対側が白という特殊な瞳を持った少女が廊下を闊歩していた。
ツインテールによって出来た二つのシッポを揺らしながら歩くその少女を見て周囲の神官や修道女達は「灰かぶりの聖女だ」と口々に呟いていく。
その少女【エンリ=ルリアント】は周囲の戯言に耳を傾けることなく、むしろ睨むように視線を送った。
その視線から逃れようとその連中は顔を背ける。
そんな中、一人の茶髪セミロングの侍女は言及する。
「お嬢様、そのような顔をされてはいつにも増して顔がおばあさんに近づきますよ?」
「誰がいつもおばあさんですって?」
「おっと、思わず口から滑り出てしまいました」
そう言いつつも全然悪びれもしない侍女にエンリは呆れたため息を吐く。
昔からこうだ、と諦めるように。
「それでお嬢様、この度はどのような用件で動かれるのですか?」
「なんでもエルフの国で魔物になった世界樹が暴れまわっていることでその被害が最悪ルリアントの支配域にあるカイサルまで及ぶかもってあったじゃない?」
「ありましたね」
「だけど、その世界樹の魔物がが突如として消えて、それを聞いた勇者の奴が『やったのはもしかしたら自分の友達の相川翼かもしれない』とか面倒なことを言い出してきたから、仕方なく私が出ようってわけ」
やれやれと言った様子のエンリを見て侍女はクスッと笑うと告げる。
「相変わらずお嬢様はツンデレですね。
本当は来てから一年も経つ勇者様が未だ心から笑ったことがないから、その原因が一緒に転移したとされるお友達にあるとされてずっと探しておられたのでしょう?」
「それこそ勘違いね。
いい? 私はいい加減『灰かぶりの聖女』なんてふざけた異名をつけた民衆やクソ神官、修道女どもを見返したいの」
エンリは杖を持つ右手とは反対の左手の平をぼんやり見つめながら、そっと拳を握る。
「そのために私は勇者の友達を見つけるっていう口実を利用したに過ぎない。
あくまで私のためよ! 勇者のためじゃないんだからね!」
「ツンデレ乙」
「話聞いてた!?」
相変わらずズバッと言って来る侍女にエンリは再びため息を吐く。
そういうハッキリ言えるからこそそばに控えさせているのだけどもう少し自重してもいいのでは、とエンリは思ったり今更だったり。
「ともあれ、お嬢様の言い分は確かに一理あると思います。
私もお嬢様を貶める異名は払拭したいと思っていましたから」
「一理じゃなくて全部なんだけど......まあいいわ、次に向かうべきはカイサルよ。ついてきなさい!」
「仰せのままに」
そしてエンリは侍女を連れてカイサルへと向かっていった。
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