第32話 新たな仲間
時刻はお昼真っただ中、されどそこは夜のお祭りのようにとても賑やかであった。
どこもそこも開けた場所に机や椅子を並べ、そこにエルフ、獣人、魔族と関わらず酒を片手に談笑している。
つい数時間前まで命のやり取りをしていたとは思えないほどの空気感には当然緊張感などどこにもなく、誰しもが全身から緩みきっている。
そんな一人であるエンディは誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡している。
しかし、その目的としている人物の姿はどこにもない。
「カイさん、どこだろう......」
せっかくの宴で好きな人と一緒に美味しいものを食べようと考えていたエンディであったが、いくら探せどもカイの姿はどこにもない。
そのことに心配にならずとも多少の不安は抱えるもの。
また前回の宴のようにどこかの種族の女性を侍らせていたなら嫉妬してしまうかもしれない、と。
エンディは一先ず知ってそうなキリアに話しかけてみた。
「キリア、カイさんを見てない?」
「カイさんですか? 私も少し話したかったんですが、あいにく見てないんです」
宴の席にもかかわらずキリアは周りの浮かれた雰囲気に飲まれずシラフであった。
前回の宴ではベロベロに酔った下ネタ量産マシーンだったというのに。
しかし、エンディはそのキリアの心中をしっているので、それ以上突っ込むことはない。
エンディは「ありがとう」と声をかけると再び散策していく。
次に見つけたのは男女問わず多くを侍らせて女王様気分に浸っているシルビアであった。
「シルビアちゃん、カイさん見てない?」
「パパですか? それなら世界樹の方へ向かいましたよ」
「そうなの? ありがとう」
エンディはシルビアから聞き得た情報をもとに世界樹のある場所に向かってみた。
そして少し離れた位置からいるか確認してみると確かに両手に酒瓶とジョッキを持ったカイの姿があった。
しかし、どこか楽しそうな雰囲気とは程遠い。
その場にいるのがカイと世界樹レスティルもといエンリュレの二人であるからかもしれないが。
その妙な雰囲気にエンディは深く足を踏み入れることを躊躇い、されど何が始まるのか気になって茂みから観察することにした。
その一方で、カイはレスティルを見ながら酒瓶を軽く掲げる。
「どうです? せっかくの宴なんですから一杯やりませんか?」
『......そうですね。
せっかくの子供達が開いてくれた宴の席で私も楽しまないというのは道理に反しますね。
では、それを根っこにかけてくれませんか?』
エンリュレがそう言うとカイの近くに木の根っこが一つ近づいてくる。
それに酒瓶をひっくり返して、根っこに酒を浴びせていくと「もういいですよ」とエンリュレから声がかけられた。
「こんなので飲めるんですね」
『木は全て私の一部ですから』
カイは残りの酒を自分のジョッキに注いでいくとその場にドカッと胡坐をかいた。
そしてジョッキを掲げて「乾杯」と告げると口をつけていく。
「ぷはーっ! 美味いですね」
『当然です。私の子供達が丹精込めて作ったお酒なんですから。
この森にある清らかな空気に、水、美味しさが詰まった果汁をふんだんに使っているのです』
「楽しそうで何よりだ」
カイは口がその酒の味を求めるように早いペースで飲み始めた。
しかし、その顔は全く赤くもなっていない。
エンリュレはそのカイの様子を見ながら早速本題へと移行することにした。
『それで、あなたがここに来た理由はなんですか? 聞きたいことがあるからでしょう?』
「単に一人寂しく見守ってるエンリュレ様と話がしたかった......と返すつもりが、どうやらこちらの本心がバレているようですね」
『早いペースの割には酔う雰囲気じゃありませんからね』
「酔えなくなったんだよ。妻と娘が消えたあの日から」
カイはどこか寂しそうに地面をぼんやり見つめながら答える。
その幸せだった時のことを思い出しているのだろうか。
それから一つ息を吐いたカイは率直にエンリュレに質問した。
「エンリュレ様よ、あなたはここで異世界から誰を召喚した覚えはあるか?」
カイの瞳は真剣で共感覚による嘘を見破る力でエンリュレの言葉の審議を確かめようとする。
それに対し、エンリュレはハッキリと答えた。
『私は異世界召喚などしていません。
しかし、召喚された者達の中にはフォルティナ様が直接召喚した人達がいます』
「......嘘はなし、と。はぁ、わかっていたけど、手掛かりはつかめないか」
エンリュレの反応を見てカイは思わずため息を吐いた。
もしここで何か情報が得られれば、今後の動き大きく進展するかもしれなかったからだ。
しかし、結果は空振り。
厄神フォルティナの情報をしゃべった時点でこの質問による見込みはもともと低いと分かっていたカイであるが、それでも十分に気持ち的に凹むのだ。
カイはジョッキを口につけて酒を流し込むと思考を切り替えて、次の質問に移った。
「それじゃあ、陸井哲也......俺と似たような黒髪の少年について教えてください。
そいつに関してはアーガンさんからも情報を得ていますから」
『そうですね――――』
そう言ってエンリュレは知り得る情報をカイに説明し始めた。
エンリュレが「陸井哲也」という人物を目撃したのはカイがやって来てから約一年前。
その少年は突如として森の中に姿を現したのだという。
森および世界中の木は世界樹レスティルと繋がっている。
そしてレスティルを依り代に存在しているエンリュレも当然森に起きた異変を事細かに確認できる。
基本的に神という存在はカイがいる世界には無干渉とのことだ。
しかし、「陸井哲也」に限っては違った。
気配もない所から突然気配を現したのだ。
それは何もないゼロからイチを生み出すようなもので、その違和感をエンリュレは印象深く思っていたらしい。
故に、普段は無干渉のエンリュレは「陸井哲也」に、カイが最初にシルビアに声をかけられたように脳内に直接声を飛ばしたらしい。
そして「陸井哲也」はこのエルフの国アルフォルトに辿り着いたのだという。
その際、「陸井哲也」がボロボロだったのは、エンリュレは木を通して人を見ることはできようとも世界樹のように数ある木の一本を動かすのは髪の毛の一本を動かすようなものなので無理だったからだという。
そこで治療を受けた「陸井哲也」はエルフの国で休養と多少の戦闘が出来るほどに鍛えた後、この国を出ていったとのこと。
「その先のことは知らないのですか?」
『ごめんなさい。街までいくと私の木からでは見ることができない領域になってしまうのです。
しかしながら、その少年を最後に見た方角にある町は恐らくカイサルという街です』
「カイサル......」
その言葉を聞いて思い出すのはラクレンが告げた「相川翼」というもう一人の友人がいるとされている情報。
カイは思わずため息を吐きながら「次の目的地はそこになるかな」と呟くと再びジョッキを口につけ、酒を飲み干していく。
「ご協力感謝します。エンリュレ様」
『いいえ、あなた様にはこの身を救ってもらったのです。
また何かあれば尋ねに来てください。
この世界における神としての制約で先ほどの『陸井哲也』さんのようなイレギュラーな事が起きない限りこちらから助言を与えることはできませんが、近くに木があれば見守ることはできます』
「それは......神としてのこの世界の秩序を守るためって奴ですかい?」
『そうですね。これを決められた我らが神である創造神ルナリス様の制約破棄がない限り不可能です』
「それは大変だねぇ」と呟くカイはふと自分の受けたものに関して思い出し、尋ねてみる。
「そう言えば、エンリュレ様からもらった『聖樹の威光』って奴はどうやって返せばいいんですか?」
『返さなくていいですよ。その力は今の弱った私にある方が危険ですから。
それにその力はいずれあなたの力になります』
「では、ありがたく頂戴することにします」
カイは両膝に手を付けると頭を下げてエンリュレに感謝の姿勢を示した。
これにて、エンリュレとの話したいことが終わったカイであるが、少し離れた場所から眺めている人物に声をかけてみることにした。
一人は別に声をかけなくてもいいが、もう一人は何やらものものしい雰囲気であったからだ。
「キリアさん、何か用かい?」
「気づいてたんですね......」
カイの言葉に茂みに隠れていたキリアは姿を現した。
そしてどこか決意を決めたような表情でカイに近づいていく。
カイは背後へと向きを変えると緊張したように拳を握るキリアを見た。
その感情からは不安、緊張、覚悟、希望と負の感情と正の感情が対立している。
キリアはカイの前に立つと軽く深呼吸した。
そして、キリッとした目をすると思いっきり頭を下げる。
「私も旅に連れてってください!」
森に響き渡るような大きな声でキリアは告げた。
その心中をカイはなんとなく察しながらもあえて聞いた。
その覚悟がどの程度本気なのかを確かめるために。
「どうして俺なんかに?」
「カイさんの目的は人探しです。
そして、私も行方知れずになったマリネを探すため利害が一致している......と最初はそんなことを考えていました」
僅かにキリアの声が震える。
「ですが、カイさんは同時に神の眷属と戦う身でもあります!
そして私は神の眷属と戦いたいのです!」
カイからはキリアの顔は見えない。
しかし、涙が地面に落ちているのがわかる。
「その人に兄エイレイが殺され、力を授けられたマリネも人が変わったようになってしまいました。
その人はカイさんが倒してくれましたが、私はまだマリネを取り返していません。
それにマリネが言った言葉の心意を確かめたいのです! それがどんな結果になろうとも!」
「......それが君の本心か?」
カイはもう「見」てわかっている。
しかし、その覚悟がどの程度本気なのかは実際に人の表情を見てじゃないとわからない。
故に聞いた。
キリアのその目的が自分の目的に良い結果を出すか判断するために。
それに対し、キリアは顔を上げて流れる涙を拭うこともせず、凛々しい顔つきで返事をした。
「はい!」
そのキリアの反応にカイは思わず笑みを浮かべ、その場に立ち上がった。
「二人には簡単な説明で事足りるだろう。
だから、俺のように覚悟して言いに行く必要はないよ。
ともあれ、これからよろしく頼むよキリアさん」
「キリアで構いませんよ。はい、よろしくお願いします!」
こうしてカイの旅のメンバーにまた一人目的を持った人物が加わった。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




