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第17話 現状でわかること

「初めまして、ニイガミ=カイです。カイで構いません」


「私はこの国で長をしているアーガンというものです。キリアとエイレイの祖父です」


 巨大な大木の一つの中にある螺旋階段を上がった場所にあるアーガンの応接間でカイとアーガンは握手を交わしていた。


「(その見た目で祖父、ね)」


 カイは久々のジェネレーションギャップならぬファンタジーギャップを感じていた。

 なぜなら目の前にいるアーガンはカイと年齢がさほど変わらない。


 しかし、アーガンの孫はすでに十六、七ほどの見た目だ。

 一体どのくらいから生きていてその見た目になったのだろうか、と。

 

「剣術とかされていたんですか? あ、すみません。つい気になってしまったもので」


「ふむ、どうしてそう思うのですか?」


「手のひらにあるこぶ。これは長いことものを握りしめてないとできないとものです。それに相当な鍛錬をした証かと。

 お孫さんのエイレイ様も迷いのない剣の振りをしていたので」


「確かに。私は数百年前は世界を長いこと見て回っていましたから、その時に鍛えたものですね。

 私は魔法も剣も平凡な才能でしたが、何分長命種であるがために時間だけがありますので」


「なるほど。それなら、納得ですね。()()()()()万能だなんてさすがです」


「ハハハ、こうでもなきゃ示しがつかないからね」


 カイとアーガンは気さくな様子で言葉を交わしている。


 そのニコニコした様子は周囲にいるエンディ、キリアや護衛のエルフにとっては単なる会話にしか思えなかったが、シルビアだけはその会話の意図を理解していた。


「(パパ、この会話で魔法と剣の行使の牽制を入れましたね)」


 シルビアはこの場所でカイと(人族の見た目をしている)自分にとってはアウェーな状況であると理解していた。


 そして人族にとって被差別種族であるエルフが人族を警戒するのは当然のこと。

 いざとなれば殺すことも視野に入れてる可能性もあるかもしれない。


 カイの会話はそれに対する牽制だ。

 万が一攻撃意志が見られないように動きは注意深く見させてもらいますよ、と。


 そのことは恐らくアーガンも理解している。

 気づかない周りの人からは穏やかな会話でも、わかるシルビアからすればカイとアーガンの間は殺伐としている。


 カイとアーガンは互いに向かい合うように席に座った。

 それぞれの後ろにエンディとシルビア、護衛の二人は立ち、キリアはカイとアーガンの中間に立つ。


「それでは......と早速入りたいところですが、つかぬ事をお伺いしますが、エイレイ様はどちらに?」


「あの子には外してもらっています。

 あなたも身をもって経験したでしょう?

 話がややこしくなる可能性が高いので」


「なるほど、そうでしたか。では、あえて差し出がましいことは重々承知の上で言わせてもらいます。

 エイレイ様はキリア様を()の目の前で傷つけようとしました。

 家族間の話なので、深く立ち入るべきではないのでしょうが、職業柄たとえ兄妹であってもそういうのは見過ごせない質でしてね」


「それについてはキリアから聞きました。

 私もそのことには悲しく思っており、エイレイには言いつけてあります。

 とはいえ、あの子も昔からそうであったわけではなく、ここ数十年前から人族に対して強い意識を持つようになったのです」


「では、それよりも以前ではキリア様のように人族に対しても温厚であったと?」


「キリアのような考えを基準にするのならそうと言えるでしょう。

 私も旅の中で様々な人物と会って来たので、全ての人族が差別意識を持ってるわけではないと理解しています。

 それ故に......あの子の態度の急激な変化にはこちらも手を焼いておりまして」


「中々難しい話なのですね。

 それはキリア様達にご両親がいないことに関係があるのですか?」


「.......」


「......失礼。ずけずけ聞いてしまうのは悪い癖でしてね。

 他人も他人の私に聞かれるのは嫌でしょうから」


「いえ、もう他人というわけではないですよ。こうしてキリアが連れてきてくれたのですから」


 穏やかな会話の端々にバチバチとしたやり取りが感じられる。

 多大の腹の中を探り合っているような雰囲気でもある。

 その空気を引っ張りながらアーガンは「本題に入りましょう」と話題を転換した。


「それでは改めて、レスティル様の討伐への協力感謝します」


 アーガンはそう言うと深々と頭を下げた。

 その反応にカイは慌てて言葉を返す。


「頭を上げてください。私は頭を下げられるような存在ではないので」


「そうは行きませんよ。私達の都合でここに連れてきて戦ってもらおうというわけですから。

 それ相応の対応をしなければそれこそ示しが尽きませんので」


「そうですか。では、早速世界樹レスティル様というのはもともとどのような存在なのですか?」


「御神木ですよ。人族で言うね。

 私達にとっては森神エンリュレ様が宿る木として認知されていて、神聖でエルフの大切な信仰対象でもあります」


「そのために傷つけられないというわけですね?」


「はい。ですが......どうやらそうも言ってられなくなってしまいました」


「それはどういう意味ですかじい様!」


 アーガンの言葉を聞いてキリアは思わず身を乗り出すように机に手をつけて聞いてきた。

 それ言動にアーガンは冷静に「落ち着きなさい」とキリアに促すと答えていく。


「私はキリアを含めた使いの者にあなた達のような戦力を集めてくるよう指示を出しました。

 その数は計二十三名なのですが、そのうちに現時点で兵を連れて戻ってきているのがわずか七名」


「それは単にまだ探しているか戻って来ていないということでは?」


「そう“あえて”聞くということはすでに察しが付いているのですね。

 そしてその質問に対して答えるなら半分正解です。

 しかし、もう半分はすでに何名かは戻ってこないことが確定しています」


「それは......どういうことですか?」


「兵を連れて戻ってきた数名の同胞が使いである者の亡骸を見つけたということです」


「ということはすでに襲撃は始まっていると?」


「......」


 アーガンは机に置かれた紅茶を一口飲んでいく。

 その表情には憂いの感情が浮かんでいた。


 その沈黙は無言の肯定だ。

 しかし、その犯人像の未だ手掛かりはない。

 カイはその情報について切り口を変えてみた。


「そう言えば、世界樹がトレントという木の魔物に変化したのは『高魔素魔物症』という症状らしいのですが、キリア様から道中で聞いた話によると世界樹は魔物化する魔素の因子を浄化しているらしいじゃないですか」


「はい、そうです。ですが、世界樹が魔物化することはほぼ全くないと言ってもいい」


 この世界の魔素には二つの種類がある。「陽」の魔素と「陰」の魔素だ。


 「陽」の魔素とは言わば酸素のようなもので、人が魔法を使う時に消費し、魔法の行使が終われば「陰」の魔素となって空気中に放出される。


 「陰」の魔素とは言わば体外に出る二酸化炭素のようなもので、その魔素が体に吸収され魔法として消費されることは()()なく、植物によって「陰」から「陽」への交換が行われなければ変わることはない。


 また、「陰」の魔素だけは供養されなかったり、燃やされなかったりした死体などから自然発生する場合がある。


 そして「陰」の魔素による魔法について例外があるとすれば、黒魔法や闇魔法と呼ばれるいわゆる負を司る魔法に関してはその魔素を使う。

 その場合、使われても「陰」は「陰」のままだ。


 「陰」の魔素を吸収した植物は二酸化炭素を酸素に変えるように「陽」の魔素を放出していく。


 それからそれは植物の大きさが大きければ大きいほど、取り込める魔素の量が多くなるため「高魔素魔物症」になりにくい。


 そもそも「高魔素魔物症」とは非常に稀な病症と言えて、まず通常で成ることはない。


 もしその場合があるとすれば、死屍累々が大地に広がり、血が地中に染みわたり、草木も生えない荒野にずっといる場合だ。


 だが、そんな不浄の血を好き好んでいる人も動物も生物もいない。

 たまたまそばに死体があり、近くにいた植物がたまたま基準値以上の「陰」の魔素を吸収して変化する程度。確率は圧倒的に低い。


 つまり言えることはキャパシティが圧倒的に多い世界樹レスティルがその()()()()の確率で魔物へと変化することは、たまたま死体が近くにあった木が魔物化するよりもさらに確率が低いということだ。


「それじゃあ、その世界樹は何者かによって人為的に魔物させられたと?」


「ええ、そういう推測になります。

 ですが、その場合にはいくつかの常識の範疇を超える理解をしなければいけません」


「と、言いますと?」


「まず、レスティル様を魔物化するためにはレスティル様の基準値を超えるほどの陰の魔素を与えなければいけません。

 しかし、レスティル様は世界の木に繋がる――――いわば世界の目のような存在で、それを魔物化させるなど魔法に長けた人物であっても数千人は必要です」


 アーガンは軽く頭を振りながら困惑の雰囲気を醸し出して告げていく。


「その時点で私達の目を欺くのは不可能と言っても過言ではないのに、仮に私達の目を欺けたとして行使された魔法すら隠すことはさすがに不可能です」


「だが、現実にはそのあり得ない状況をクリアして世界樹を魔物化してこの場所に向かわせている。

 そういえば、この場所はどうして襲われそうになっているのですか?」


 カイの質問にアーガンは再び頭を横に振って答える。


「それは私も詳しいことはわかりません。

 単に邪魔だから殺すために襲わせているのか。

 ただ一つだけ推測を上げるとすれば、ここが最初の種子の木だからでしょう」


「種子の木? 世界樹が最初に作りだした木ってことですか?

もしそうなら、ここの木が周りよりやけに大きいのが納得できますけど」


「そうなります。親木である世界樹がここを潰してしまえば、もうこの世界に緑が増えることはない」


「......なるほどね。襲う動機としては立派過ぎるじゃないですか」


「――――失礼します!」


 その瞬間、応接間に飛び込むようにしてエルフの男性の一人が入ってきた。

 そしてその男性は慌てた様子でアーガンに告げた。


「族長様! ()()()()使いの者が帰ってまいりました!」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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