第16話 エルフの国アルフォルト
「うぅ......昨日はお恥ずかしい所をお見せしました」
「大丈夫。あれだけ恥ずかしいセリフが言える(面白い)子はそうそういないから。私は仲良くなれそう」
「それ、フォローのようでフォローになってないですよぅ......」
明くる朝、カイ達はキリアの先導によりエルフの国アルフォルトに向かっていた。
その道中、昨日の恥ずかしい場面を思い出しながら赤面するキリアにエンディが少しだけからかい気味に寄り添っている。
そんな二人の姿をカイとシルビアは見ながら、相変わらず肩車してもらっているシルビアはカイへと質問した。
「それにしても、昨日のパパの選択はあれでよかったんですか?
私はパパが決めたことなら否定しませんが」
「いいんだよ。エンディも勝手に決めてしまったことを謝ろうとしたら『ここではあなたがリーダーだからあなたの指示に従う』って言ってたし。
それに俺は聖人君子じゃないし、ちゃんと打算的意味合いもある」
「というと?」
「俺の目的は人探しだ。だからエルフの国の長にでも聞いてみるつもりだし、昨日シルビアが言っていた神の召喚に関する話もしたい。後はコネクションかな」
「ですが、相手は天災クラスと言えますよ?」
「まあ、なんとかなるだろ」
「楽観的ですね」
とはいえ、実際どうにかなりそうなのことにシルビアはため息を隠せないでいた。
確かにシルビアは森での過酷な修行とサバイバルはカイを強くするためにしたことだが、カイがあそこまでやる人物とは思っていなかったので正直引いているようだ。
村で襲われた大蛇とて、まるで苦戦などせずに一撃で沈めてしまった。
本来なら、森の一部を消し去ってもおかしくない竜に匹敵する存在を。
いくらシルビア自身が手を貸していようと、シルビアが銃で放つ魔弾は使用者の強さに準ずるもの。
つまりは今のカイは竜に匹敵するぐらいならもはやスライムと何ら変わりない。
「(まぁ、強くて越したことはないですけど)」
シルビアはカイが戦っていく存在としてはカイの力は十分すぎるほどにあるのでそこは心配していない。
しかし、その力がもし悪意に飲まれ暴走したとするなら世界が崩壊するかもしれない。
それほどの力をカイは持っているのだ。
本人はそのことを理解しているだろうかとシルビアは思わざるを得ない。
もしくは理解しているうえで気にしてなさそうな感じだろうか、と。
「そういえば、昨日言っていた獣王国ってどこにあるんだ?」
「ここから馬車で一週間ちょっとですよ」
「遠っ。まさかそこまで走って移動を?」
「まさか。いや、走っていたことは確かなんですけど、風魔法でアシストして馬車よりも早く移動していました。
ただまあ、魔力が尽きかけてそれでも昼夜問わず走っていたら魔物に追われちゃいまして」
キリアは特に何でもなさそうな様子で話す。
しかし、キリアがそこまでして助けを呼びに行くということは相当な事態になっていると言えるだろう。
「しかし、君の目的としては俺達だけじゃ戦力不足だろ?」
「いえいえ、そんなことないですよ......。
確かに、本音を言えばもっと戦力を呼びたかったところですが、恐らく......いえほぼ確実に間に合わなかったでしょうし。
それに私、こう見えても見る目あるんです! カイさんが一番強い人であると!」
「はは、そんなことないよ」
そう言うカイだが、キリアは「いえいえ、そんなことあるんです」とさらに言葉を否定する。
そして自身の目に指先を向けると自慢げに説明を始めた。
「実は私の目は特別製でして、生まれつき相手の力量がわかるのですよ」
「そうなの?」
「勘ですが」
「勘なのかい」
キリアの意外な適当発言にカイは思わず振り回される。
「ですけど、生まれてからそういうの外したことないんですよね。
もしかしたら、竜人族の目と一緒だったりして」
「さすがにエルフにそんな目は宿らないわよ」
キリアの言葉を否定するエンディにカイが「竜人族の目って特別製なの?」と聞いてきたので、エンディはサラっと答えていく。
「竜人族の瞳は直接目撃した相手の闘級がわかるの。ちなみにカイさんを初めて見た時、一瞬だけバケモノに見えた」
「なんか悲しいなそれ」
カイがエンディの言葉にショックを受けてるその時、キリアは「あ、見えました」と言って遠くを指さした。
現在場所から見える道は森の中で下り坂の整備された道。
つまりカイ達は位置的には少し高い場所にいる。
そこから見える遠くの正面には一際大きな木が見えた。
まるでその他の森が雑草であるかのような感じで。
その大きな木の周辺にはいくつもの大量な砂煙が舞っていて、その木が通ったであろう道は肉眼でも確認できるほどに木々をなぎ倒した道が出来ている。
「また移動してますね。動きは遅いですけど、到達までには後二週間と少しと言ったところでしょうか」
「キリアの住む国はどこにあるんだ?」
「世界樹レスティル様の現在の位置から北に進んだ周りの期より少しだけ大きい木があるのがわかりますか? あの場所です」
「ああ、そこか」
キリアが指さす場所には確かに周りの木より二回りぐらい大きな木が見える。
確かに、その場所に向かって世界樹は向かっているように見える。
「普通に歩いて進んじゃってたけど、これ急いだ方がよくないか?」
「ですね。私もうっかりしてました」
「なんとも怖いうっかりですね」
「.......気をつけます」
シルビアのキツい一言をキリアは重く受け止めるとカイ達に手をかざしていった。
「あまねく風よ、我が足の運び手となれ――――風纏」
その瞬間、周囲の森がざわめきカイ達を囲むように風が吹き始めた。
荒々しくもなく、髪を撫でるような優しい風はカイ達の足に纏うように足首辺りでグルグルと回り始める。
「これで皆さんの移動スピードが上がりました。さあ、私についてきてください!」
キリアが走り出すとカイ達はキリアの後をついていった。
ただ走ってるだけなのにまるで車で走っているかのようにすぐ横の景色が高速で通り抜けていく。
その光景に「魔法って何でもありだなぁ」って呟くカイと風を全身で浴びながら「フォーーーー!」と楽しそうに叫ぶシルビアがいた。
それから道中、魔物に襲われるなどの多少のいざこざがあったが、特に問題なくカイ達はエルフの国アルフォルトにやって来ていた。
その場所はまさに自然の楽園といった感じで、遠くからはただの一本の木にしか見えなかったが、その場所はいくつもの巨大な木々でできた場所であった。
まるで巨人が寄り掛かれそうな木にはツリーハウスというべき家がいくつもあり、主に木をくりぬいてそこを家にしているようだ。
木と木の間にはいくつも橋が架かっていて、木に登るための螺旋階段のようなものまである。
そこはまさに自然だけで作りだされた営み。
カイの僅かに残る少年心を刺激するには十分だった。
「ほぅ、すげなぁ......」
その圧巻の光景にカイは思わず感慨深く眺めていく。
日本じゃあり得ないような光景だからこそ、さすがファンタジーとしか言いようがない。
しかし、その感動は長くは続かなかった。
――――ピーーーーーーッ!
森の中に甲高い笛の音が響き渡る。
まるで何かの合図であるかのように。
その瞬間、カイの気配察知は周囲の木々に一斉に現れるエルフの存在を捉えた。
そのエルフ達はカイ達を警戒するように弓を向けたり、杖を向けたり、剣を構えたりしている。
「どうやらある意味手厚い歓迎だねぇ」
「恐らく警戒されてるのはパパでしょうね」
カイとシルビアは周囲を軽く見渡しながら会話していく。
すると一人の二十代ほどの男性が現れた。
「どういうことだ! キリア! なぜここに人族がいる!」
「エイレイ兄様......」
エイレイと呼ばれる男は軽装備で左腰に剣を携えていた。
そして例外なくイケメンであった。
もっと言えば周りを囲んでいる人達も一部の例外もなく美男美女なのだが。
エイレイは激怒している様子で眉間にしわを寄せながら、カイ達を連れてきたキリアに詰め寄っていく。
「答えろキリア! なぜ貴様が人族を連れている! お前は自分の立場が分かっているのか!」
「わかっています! ですが、今はそんなことを言ってる場合じゃありません!
たとえ人族であろうともこの窮地に応えてくれた人です!
兄様であろうとそのような愚弄はやめていただきたい!」
「なんだと! 貴様、妹のくせに口答えするのか!」
エイレイは怒りのままに拳を振り上げる。
キリアはエイレイに振りかざされる拳に思わず顔を目を瞑るが、痛みは感じなかった。
そして聞こえてくるのはカイの声。
「妹に拳はないでしょ。そもそも手が出るのもおかしいけど」
「人族如きがでしゃばるなっ!」
エイレイはカイに受け止められた拳を無理やり引き離すと今度は逆の手で拳をカイに振りかざす。
その光景を見てキリアは「危ない!」と叫ぼうとするが、隣に立ったシルビアに「大丈夫ですよ」と止められた。
そして心配そうにカイを見ていると確かに全く心配する必要はなかったとキリアは思った。
なぜなら、エイレイの何発もの攻撃を全くその場から動かずに捌いているからだ。
「ちょっと、拳で語り合う時代じゃないと思うんだけど」
「ならばその顔に受けろ! そうすれば、拳を止めてやる!」
「痛いのは嫌なので却下で」
「ならば斬られろ!」
エイレイは刹那の時間に柄に手を伸ばすと一気に斬り上げた。
しかしすぐにその光景を見ていたシルビアとエンディ以外は全員が固まる事態となった。
それはエイレイがカイに向けた剣を摘まんで止めるでもなく、人差し指だけで止めたのだ。
エイレイはエルフの中では族長の後継者と呼ばれるほどの剣の使い手。
その一撃はこの場にある巨大な木ですら切断できる。
しかし、カイはその剣を指で止めた。
つまりその意味が差すのはエイレイの剣ではカイの首は斬れないということ。
そのことにこの場にいたエルフの誰もが戦慄を禁じえなかった。
あれは人族の皮を被ったバケモノだ、と。
「さて、俺は友好的な話がしたいんだが......そこら辺をそちらの御仁はどう思っているのか」
カイの目線はエイレイを見ていない。
その後ろに立つ木の杖を持った白いひげを生やしたエルフを見ていた。
その姿を見た瞬間、エイレイは思わず狼狽える。
「ぞ、族長様......」
そんなエイレイを見て、族長は威厳を持って強く言い放った。
「さて、これは如何様な出来事なのか。詳しく話を聞こうじゃないか」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




