鳥将軍の二合殺しは深い闇 その5
「俺は何をすればいいんですか?」
「伸君にはスナギモに串を打ってもらおうか」
「スナギモって、どれですか?」
「目の前のそれだよ」
ステンレスのバットの中にピンポン玉をつぶしたような形の肉の塊が並んでいる。
「ひと串に五つだよ」
竹の串を突き刺すと、サクッと貫通する。
「スナギモって、鶏の肉なんですか?」
「そうだよ」
「ふだん食べている鶏肉とは、ずいぶん違いますよね」
「正確に言うと、鶏の内臓だから、食感が違うんだよ。スナギモは、コリコリしてるだろう。それが好きな人が多いの」
「内臓って、どこの部分なんですか?」
「スナギモは、胃袋の前にあるんだよ。どんな鳥にも必ずある」
「ハトやカラスにも?」
「そう。鳥には歯がないだろう」
「そうですね」
本当に鳥には歯がないのか、俺は知らない。でも、焼き鳥屋の大将といえば、鳥の専門家だから、間違いないだろう。
「鳥ってのは、食べたものをそのまま飲み込むんだ。だけど、それだと消化に悪い。だから石とか砂を飲み込んで、スナギモに溜めておくわけよ。
そこに丸飲みしたエサが入って来るだろ。そうすると、スナギモが動いて、石や砂がエサをすり潰すわけだ。だから鳥には歯が無くてもダイジョウブなんだよ」
「じゃあ、これって、もともとは、クダの形をしているんですか?」
「そうだよ。クダの外側にも内側にも皮があるから、それを剥すのがメンドウなんだ」
「その内側の皮がケイナイキンじゃ」
「ケイナイキンって何?」
「知らんのか。漢方薬じゃよ」
爺ちゃんは酒を飲み始めていた。勝手に探し出した一升瓶が、もう半分以上なくなっている。あれは本物の高級品だ。
「ペースが速すぎませんか?」
「つまみがないから仕方なかろう」
爺ちゃんは一升瓶に残っていた酒をビールジョッキに入れて、ゴクゴクと飲み干した。
「ぷはー。うまい。もう一本」
大将はカウンターから出て、二合殺しのビンを爺ちゃんに渡した。
爺ちゃんはビールジョッキに二合殺しを注いだ。高級品とはぜんぜん色が違う。
「うまい。さすが米どころ新潟の地酒じゃ」
爺ちゃん、完全に味覚がバカになっている……
このペースだと、俺が焼き鳥を食べ始める前に、爺ちゃんが倒れてしまう。
俺は超速で串を打ち、焼き鳥盛り合わせを注文した。
「爺ちゃんが倒れる前に、どんどん焼いて下さい。カネに糸目はつけません。払うのは爺ちゃんですから」