番外編 謙一視点
何となく思いついたので書きました。久し振りなのでおかしい所があるかも知れません。
ある日クラスの誰かが噂していた、それがはじめて彼女を知ったときだと思う。
文武両道...と言ってもいいのかな?
昔から勉強も運動も得意だったし相応の努力もしていた。顔も親のお陰でそれなりに良いし人に噂されることには慣れていた。
誰かが噂をしていれば大抵僕のことで、後は誰かの悪口や近場に出た変質者の話し。
「すっごいデブがいた」
彼女の話しはシンプルに要約するとそれだけなんだけど「どこどこで見た」とか「体重100kg越えてる」とか、人によって話しが微妙に違ったり勝手な憶測の多い不確かな噂だった。
けれど、俺にとって自分と同じくらい噂になっているその人物は珍しくとても興味を持った。
噂は何度か聞くことがあって、たまに「どんな子なの?」なんて質問したりして。
その頃はまだ、興味があるといってもその程度だったと思う。
そうしてある日電車が遅れていつもより遅く登校したとき、偶然彼女を見掛けた。
まだ中学生だろうセーラー服を着た彼女は髪を後ろで一つに縛っていたが、その見た目は普通じゃなかった。
・・・横に、でかいのだ。
すごいデブがいると聞いていたのですぐに噂の人物だと気付いたけど、俺が想像していた相撲取りのような姿よりずっと太かった。
歩く度にプルプルする肉という肉。斜め後ろから見える頬はプックリしていて、お腹も妊婦と見紛うばかりに大きく膨らんでいたし、豚足のように太い手足にも驚いた。
あんなにプックリ膨らんだ頬はおたふくなんじゃないのか、お腹は中に何か入れてるんじゃないのか、あの太い丸太のような手足で服を着るなんて高等なことができるのか...
歩く度に地面が揺れているのではないかと何度も周囲を確認したし、一歩一歩歩く度に「ドシーン、ドシーン」と大きな音が聞こえた気がした。
そんな風に色々考えてしまって...そして何とかこの生き物が現実に存在するのだと自分を納得させた。
しかし本当に初めて見たときは驚いた。
テレビでしかあそこまで太った人間は見たことがなかったからね。誰だってあれを目の前にしたらその存在感の強さに圧倒され、自分がいかにちっぽけな生き物だったのかを思い知るだろう。
小太り程度ならクラスにも1人か2人いたし、町中で見掛けることもあったけどここまで太った人間は初めて見たのだからしょうがないだろう。
(※注 : 彼の周りの女子は彼によく見られたい為に痩せる努力をかかさなかった。(周辺の若い女性も一様に) 男子はライバル心から多少なりとも己を鍛えたりしている者が多かった。そして何より謙一は相撲などの太った人を実際に見たことがなかったこと、そして本人の受けた衝撃で余計に大きく見えている)
驚いているのは俺だけじゃないようで、よく見れば周囲でもヒソヒソと彼女のことを話す者がいた。
しかし、会話をよく聞けば噂している者の殆どは偶然見掛けた者より、興味本位で集まった野次馬ばかりなのだと気付き俺の眉間には皺が寄った。
同じようにいつも噂され見世物になる自分と彼女が重なり不快感を覚え、それと同時に彼女に親近感を覚えた。
そうやった同族意識と同情とで彼女のことが気になるようになっていったんだと思う。
勿論、あれほどインパクトのある人だし、嫌でも忘れられないだろうけど。
現に俺は何日も彼女に追い掛けられる夢を見た。
今までも多少興味があり話しを聞くこともあったが、今では周りにいる女子に自分から彼女のことを聞いたりするようになった。
そうして長谷川百合子という名前や誕生日、住所などの個人情報を集めていった。
毎日のように彼女のことを思い出す。
百合子は癖毛のようで頭の上で一つに縛った髪がくるんと丸まり豚の尻尾に見え、背の低さもありまるで子豚のようで、なんだか段々と可愛く思えてきた。
そうして気付かぬうちに俺は百合子に恋していたのだと思う。
それに気付いたのはクラスの男子が「豚の中学生がいる」と噂しているときだった。
3人組のその男子達はクラスのムードメーカーの葛城が中心となっているグループだ。
なかなか面白い奴で俺もそこそこ彼のことは気に入っていたのだが。
そいつらはふざけて「おい、その豚見に行こうぜ!」「面白そうだな! 行こう行こう」なんて楽しそうに盛り上がっていた。
女子が百合子の話しをしているのはムカつくけど我慢できるのに、なぜか男共が話しをしているのは異常に腹が立って、その上こいつらは見に行こうなんて馬鹿げたことを言うから俺は席を立ちその男子達の目の前に立った。
近づいてきた俺を不思議そうに見るこいつらに、感情のままに口を開いていた。
「そういうのって最低じゃない? 相手は中学生の女の子なんだよ? それをわざわざ見に行くなんて高校生にもなって何してんだって話しだし、人としても最低で気持ち悪いゲスの極みだと思う。でも、今の話しは冗談だよね? まさかわざわざ中学生の女の子を見に行くなんて変態みたいなことしないよね? ストーカーじゃあるまいしそんな馬鹿げた理由で近付くなんてしないよね、そうでしょう葛城君?」
ニッコリ微笑んで話し掛けると葛城君もその仲間の男共も口をぽっかり開けて無反応だった。
無視されてムカついたので「葛城君?」と優しく呼びかければ「はいぃ!!」と大きく返事をしてくれた。
「良かった、葛城君が馬鹿な人じゃなくて」
またニッコリ笑って席に戻る。
そのとき何故か周囲の誰もが口を開けて俺を見ていたのたが、そんなことはどうでもいい。
それから席についても時間が経っても微妙なイライラがなかなか消えず、何故自分がここまでイラついているのか何度も何度も考えて...
そうして今までも何度か思った ー俺は百合子に恋しているのでは?ー その考えをもう認めることしかできなかった。
俺だって普通の美的感覚は持っている。綺麗な顔をして痩せているのに胸が大きい、そんな女が好きだ。
今まで付き合ってきたのも美人と言われている女だし「付き合ってほしい」と言われれば断る理由もないので了承して合わなければ別れていた。
それが百合子は、お世辞にも美人とは言えない顔にでっぷりと太った体。
正直見苦しいと思う。
それでも百合子を見ているうちに可愛いと思うようになって、...それでも理性があんな醜女を好きになるわけがないと必死に否定していた。
それでも認めてしまうとストンと嵌まった気がして、悩んでいたのが嘘のように心が軽くなった。
そして認めた途端に無性に百合子に会いたくなった。
...それでも百合子はまだ中学生だし、もし会ったりしたら何をしてしまうか分からないので暫くは今の彼女で我慢しよう。
綺麗な女だし体の相性は良いと思う。性格だって悪くないと思うし、いつかこの女を好きになるのかなー...なんて漠然と思っていたくらいには気に入っていた。
けど、実際に心を奪われたのは百合子だった。
世の中どう転がるか分からないもんだな... そう苦笑いするしかない。
百合子は中3で俺は高1だから、後1年...百合子が高校生になるまで待てばいい。
それくらいあっという間だ。
そう思っていても1年は思いの外長くて、会いたくなっては我慢我慢と己に言い聞かせて...
それでも我慢しきれず時々だけど百合子の登下校を後ろからそっと見守ったりした。
あの見た目だから男ができる心配なんて全くしてなかったのに、それでも百合子が他の男の側にいるのはめちゃくちゃ嫌だった。
相手が百合子に対して1%も好意を持っていないことは分かっているのに、それどころか嫌悪を抱いている者が大半だと頭では分かっているのに、側にいる男が、百合子の目に映る男が憎らしかった。
...まさか自分がこんなに嫉妬深いなんて想像もしてなかったな。
今まで自分の彼女が他の男と一緒にいても何も思わなかったのに。恋がこんなに厄介なものだとは思いもしなかった。
最初は見た目や自分と似た境遇なことで百合子に興味を持ったが、今ではその見た目や性格も気に入っている。
百合子は見た目通り食いしん坊な子でよく食べる。特にお菓子が大好きだ。
電車の中でコンビニで買ったお菓子を食べているのを見掛けるし、男をキラキラした目でじっと見てたから惚れたのかと焦ったけど、そいつの持っていたお菓子を見ていただけだったし。
潔癖な所もあって他人が触ったものを触るのが嫌みたいで吊革を掴むのもできるだけ避けているし、人に触らないように異常に気を使っている。
これは太っていることで苛められたせいだと思う。
「うわー、気持ち悪い豚に触られちゃった! もうこれ使えない!」「うげぇ! 菌が移る!! はい、移したー!」「うわぁ、何すんだよ気持ち悪い!!」
俺の小学校でも「○○菌」とか言ってその子に触られるのを嫌がったり、わざと触ってその手で他の子に触ってバイ菌を移し合ったりするくだらない苛めがあったりした。それを百合子もされていたらしい。
あれをされていた女子は泣いていたけど、百合子も泣いたりしたのだろうか...
そう考えると興奮する。
いや、でも俺以外が百合子の泣き顔を見るなんて許せないな。うん、百合子は泣いてないことにしよう。そうじゃないと嫉妬で何するか分かんないし。
そうやっていっぱい辛い思いをして頑張ってきた百合子だから、早く俺の元においで?
大切にしてあげるから。
今まで辛かった分いっぱい甘やかしてあげる。百合子の好きなお菓子好きなだけ食べていいんだよ、ダイエットなんて気にしないで。
好きなだけだらけていいよ、食っちゃ寝を繰り返してどんどん肥えてね。
その分美味しく食べちゃうから。
子供は沢山欲しいな。みんな百合子みたいに小太りで可愛らしい子豚ちゃんだろうね、母豚のお乳を我先にと競う姿は興奮するな。 あぁ、勿論本物の豚じゃないよ、百合子のこと。
みんな可愛がってあげるよ。だってみんな百合子そっくりだから。
ふふ、そんな焼かないで、勿論一番は百合子だよ。美味しく食べてあげるね。あ、勿論両方の意味でだよ?
そうして色々な気持ちをごちゃ混ぜにして過ごしていた次の年の春に、新入生としてこの学校に百合子が現れたことに運命を感じた。
百合子が高校生になったら偶然を装って近付き仲良くなろうと思っていたのに、百合子から俺の元に来てくれるなんて...
嬉しくて嬉しくて堪らなくて百合子が入学してすぐに告白しようと思ったのに、思いの外緊張して声が掛けられなかった。
間近で見る百合子は迫力満点で、その威風堂々とした姿は見るものを圧倒しなかなか声をかけづらい。
遠くから見詰めるだけの日々が続き、気付けば1年も経ってしまった。
それでも、このままでは折角一緒の高校になったのに俺が卒業して離れ離れになってしまうと勇気を振り絞って告白して...
高3の春、俺達は恋人になった。
その日のうちに百合子のご両親に挨拶もしたしこれでいつでも結婚できるね。
ちょっとテンパり過ぎて色々早く進め過ぎた気はするけどいいよね? だって早く百合子を俺のものにしたかったから。
自分でも気付かなかったけど、俺は相当焦っていたようだ。
百合子はブスだしデブだから男が寄ってくる可能性なんて1%もないが、百合子が誰かを好きになる可能性は高いと思う。
あんなブスだからちょっと優しくされただけでコロッと落とされかねないし。
それでも相手の男と百合子がくっつくなんて欠片も思えないが、それでも百合子が俺以外に心奪われるなんて嫌だった。
それにもう百合子に触れたくて触れたくて、我慢の限界だった。
早くあのモチモチした肌に触れたい。よく肥えて美味しそうなお肉を食べたい。
そう思うけれど百合子のペースに合わせてあげないと。
人生で一度もモテたことがない百合子だから、グイグイいったら男に免疫がなさすぎて混乱し逃走しかねない。
逃がすつもりはないけどあまり束縛したら可哀想だからね、ゆっくり追い詰めてあげよう。
...でも、俺の家に呼んだのは失敗だったかな? 謙二の奴が「オークオーク」って連呼するから百合子が泣いてしまって...
それから俺も百合子がオークにしか見えなくなった。
百合子が俺を孕ませようと何日も何年も犯し続ける妄想が頭から離れない。
俺は男だから孕むわけないし、むしろ百合子の方が孕んで産んで、また俺を犯して孕んで産んで...
いつの間にか子沢山で温かい家庭を築くの。あぁ、早く実現しないかな。
でもその為にはもっと体を鍛えないと。
そこそこ筋肉はついてるけど今のままの俺だと、百合子の激しい攻めに耐えきれず骨が折れかねない。
百合子を満足させられるだけの体力をつけないとね。今からすごい楽しみだ。
「キモいんだけど、消えてくれる?」
俺達を邪魔しようとする者は多い。その殆どが俺に好意を抱いている女。
前は適当に笑って相手をしてあげていたけど今はそんなの止めた。
だって今の俺には百合子がいるし何よりマジでウザい。追い払っても追い払っても湧いてくる。
俺が睨み付けて文句を言えば消えてくれるけど。よくその程度の気持ちで告白しようと思えるよね、人間として理解できないしそういう奴は嫌いだね。
しかもそいつら、百合子のせいで俺がおかしくなったとか言ってるんだぜ? 笑える。
中には本気で俺が百合子に操られてると思ってる奴もいるらしいし。
信じらんないよね? それが事実なら俺は喜んで百合子に操ってもらうのに。
「謙一君、自分に好意を持ってくれてる相手なんだし、もっと優しくしてあげなよ」
「ん、分かった。もっと優しくね」
「んぅっ、...違っ... ん... 私じゃな...!! 」
百合子が他の女に優しくしろなんて言うから、ムカついて口の中に舌を入れた。
優しくゆっくり舌と舌を絡めると、すぐに真っ赤になる百合子が可愛い。
百合子の口には口内炎ができてるから右頬の内側には触れないように、それでも時々わざと舌で掠めるとビクッと跳ねる肩も可愛い。
それでも必死にキスのあいまに言い募ろうとしてるけど、邪魔をして最後まで言わせてあげない。
ギッと睨み付けてくるけどそれも真っ赤な顔をしてるから可愛いだけだよ?
そっとお尻も撫でるとビクリと肩が跳ね、そのまま股の付け根に手を動かす。
「へっ...んん、変態!!」
「僕は変態ではありません」
そのままスカートの上からそっと敏感な部分を撫でるだけでビクビクと百合子の肩が跳ねた。
愛しくてギュッとその体を抱き締めると、ブヨブヨとした肉感が俺を包んでくれる。
「ふふ、可愛い僕のオークちゃん」
「私はオークじゃありません!」
「じゃあ可愛い僕の子豚ちゃん」
「私はオークでも豚でもありません!!」
真っ赤になって怒るその顔も可愛い。愛しさが込み上げてそっとその唇に口付けた。
そして大きな体に反して小さく可愛らしい耳元でそっと呟く。
「じゃあ...俺の可愛い奥さん」
「!!! まっ、まだ結婚してません!!」
真っ赤になって手の中で暴れ出す百合子を抑え、心の中で歓喜する。
そっとポケットから一枚の紙を取り出して告げた。
「じゃ今すぐ結婚しよう! ほら、後は提出するだけだから!」
「!!? なんでそんなもん持ち歩いてんの!? 私記入してないんですけど!?」
「うん。百合子のとこも僕が書いておいたんだよ。百合子は恥ずかしがって記入してくれないから。さ、早く行こう!」
真っ赤になって暴れる百合子を引っ張り役所へと駆け出した。