表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/66

おかえりなさい!

「泣き叫ぶ妹にメイド達、それに怒りにまかせて城一つ粉砕するドラゴン、国中の人々が喪に服すという人柄、王宮の周りで名前を呼び続ける民衆。


 ……さて、これを見てお前はどう思う?」


 鈍く光るものからの声は、聞き手の気持ちで、優しくとも、厳しくとも、どちらにでも聞こえるような不思議な声音で語りかける。

 また、あの部屋だ。

 半年前かな?それとも一年前かな?

 なかなかインパクトはあったものの、あの頃の自分には、色々な事に対して全く関心がなかったから、あまり覚えていない。



 一つだけハッキリしていることは、光るものの口調が変わっているみたいだということ。

 しかしそれすらも、ハッキリは覚えていない。



 ……ああ、また転生なのだろうか?

 前回のような優しさは感じられない。

 今回の転生は、失敗に終わって、僕の評価はかなり下がってしまったようだ。

 ここは、正直に話してしまう方が気が楽だ。

 どうせ、僕のことは語らずとも知っているだろうし。


「どうって、一言では語れない。

 国は守れたと思う。だから、民衆の平和は保たれた。

 人々から慕われていることは、十分過ぎるほど感じていた。しかし、近しい人に悲しみを与えたことはとても辛い。特に大切にしていた人達の悲しみを残したことは僕の一番気にしていることです」


「ほう、それとは別に思うことは無いかい?」


「ほか?

 うーん……、そうですね。

 シャルロットという女の子を幸せにできなかったことでしょうか。いや、いや、幸せとは程遠く、全然足りてなかった。

 自由に恋の一つもできなかったし、なにより自分の人生を十分に楽しむことすらできなかった。かなり残念だ。そう思っている」


「ところで、お前は、良い友人を持ったな。

 お前さんが死んで、お城に運ばれた時に、アルテミスという娘が、お前さんの言づてどおりに、黒い瓶の薬をお前さんに飲ませてくれた。

 あれの効力が、ここで発揮される」


「どういうことですか?」


「まあ、私からよりも直に本人に聞いてもらおう。

 シャルロット、よろしくな」


 ぼんやりと王女の正装をしたシャルロットが光と並んで、うっすらと見える。

 やはり、綺麗な娘だと思うし、今更ながら僕はこの姿で生きていたとは実感がない。

 それ程までにこの娘からは隠しきれない魅力がある。


「私は、私の生き方を間違っていたとは思いません。

 それに、少しの後悔はあるものの、これで良かったと感じています。だから、シャルロットとして私の生き方は合格点です」


 ……って、この娘は僕が転生して、シャルロットとして覚醒し、意識を支配する以前の元々のシャルロットなのか?


「そう、そう。お前さんの心の中に存在していた本来のシャルロットだ。そのシャルロットの気持ちを手短に話してもらったに過ぎない」


 ……ということは、僕はシャルロットの身体の中に前世の記憶そのままに、植え付けられていたということか?


「まあ、近いが、全く同じではない。

 あの黒い瓶の薬のお陰で、シャルロットの意識と前世の意識を分離したということじゃよ。

 だから、お前さんの目の前にいるシャルロットと、お前さんは同じ記憶を持っている。

 それに、私の試験に見事に合格したようだ。

 さあ、何か一つだけ願いを叶えてあげよう。

 時間が必要なら、私のことを念じてくれると、再び現れるから、じっくり考えてもいいよ」


「あなたは、神様なのか?」


「まあ、お前さんの世界ではそう言われておる」


「わかった。ありがとう。じゃあ、時間を戻したり、生き返ることも可能なのか?」


「それもできるが、願いは一つだけしか叶わないよ」


「神様、合格とはどういうことなのかな?

 それに、知っての通り僕の願いはもう決まっている」


「合格とは、前世の生き方とは違い、精一杯に生きたということじゃよ。それ以上は、企業秘密とでも言っておこう。それと、お前さんの願いを叶えてあげても良いが、そうした時にお前さんはどうする?

 どうなってもいいのか?」


「はい。僕の願いは変わりません。

 シャルロットには、幸せになって欲しいし、その権利は、僕よりもあると思います」


「ならば、お前さんの願いを叶えてあげよう。

 シャルロットよ。お前さんは死ぬには早いということらしい。それと恋愛をしなさいと、この者が言っておる。少しだけ、時間を戻してあげるから、グレイに気持ちを伝えなさい」


「はい。神様の仰せのままに。そして、もう一人の私、ありがとうございます。あなたも幸せになってください」


 鈍く光るものが、強く大きく光だし、シャルロットの姿を飲み込んだ後、再び鈍く小さな光に戻った。


 あれで、シャルロットは僕の望んだ世界に戻れたのか?

 今度はグレイを離すなよ。

 バイバイ、もう一人の自分、頑張れよ。


「んっ、ごほんっ! さて、人の心配をしている状況でしょうか? あなたには、私からの課題がありますよ。どんな課題かは、言えませんが、今のお前さんなら、難なくクリアできるでしょう。それでいいですね?」


「はい。シャルロットのこと、ありがとうごさいました。僕のことは大丈夫です。なんとか、やっていけると思いますから」


「そうか、なら頑張りなさい」


 目の前の光が僕を包み込むと、強く光だして、目の前が真っ白に変わる。そして、記憶が薄れていった。



「……ガチャ。こんにちは、院長先生」


「はい、こんにちは。しかし、君も毎日なんて大丈夫なんですか?」


「ええ、私のことは、心配しないでください。

 ちゃんと、ここから帰ってから、勉強していますし、そのまま家に帰っても、気になってしまうから……」


「そうですか、じゃあ私は少し帰って来ますが、お任せしても大丈夫ですか?」


「はい、お任せしてください」




 …………この声、なんだか聞いたことがある。

 今度の転生は、どうなっているのだろうか?

 って、僕はどうやら、ベッドの上らしいが、目が開かない。


「………………誰か、いますか?」


「……えっ、ひさ君、ひさ君なの?」


 バタバタと近づき、手を取られてガッチリ握られた。

 指と指を絡ませるなんて、誰なんだよ。

 咄嗟に手を離し、後ろにずり下がる。

 まだどんな場所なのかわからないのに馴れ馴れしすぎだ。


「どなたですか?」


「ひさ君、私はひなだよ。柚木ひなた。思い出せないの?頭を強く打ったみたいだから、記憶喪失にでもなったの?」



 ああ、頭を打ったのか……。

 なら、目の前を覆うものは、包帯かな。

 って、異世界にひながいる訳ないよな。

 これは、罠に決まっている。


「あっ、まだダメですよ。勝手に包帯を解いたら」


 ひなと名乗る女の子の声には耳を貸さず、僕は一心に頭を巻いた包帯を解いた。


「くっ、ま、眩しい!」


「当然です。まる一週間、意識不明だったんだから、その間、包帯したままだったし」


 そう言いながら、カーテンを閉めるシルエットは、僕のよく知る幼馴染だった。

 孤児院暮らしになってから、あまり相手をしていなかったのだが、どうしてここにいるんだろう。




 ────お前さんの罰は、退屈な世界に戻ることじゃよ。




 頭の中に一瞬、言葉が浮かんで消えた。


 ……つまり、僕に前世をやり直せということか。

 それなら、後悔しないように、やり直したい。


 カーテンのお陰で、やっと懐かしい優しい顔がぼんやりと見え始めた。

 涙を溜めて、僕を見ているしかできないようだ。

 そっとひなに手を出すと、握り返してくれた。

 そのまま、少し力を入れて身体を引き寄せると、自然に僕の方に近寄って来てくれる。


 上半身をベッドに起こして、ひなたを見つめると、ひなたも僕をじっと見つめてくれた。


「ひな、心配かけたみたいだね。ごめん」


「いいえ、心配するのは当たり前です!

 そんなことで謝らないでください。ひさ君がそんなことになったのも元はと言えば、私を助けてくれたからでしょう。こちらこそ、ありがとうだわ!

 ずっと、口も聞いてくれなくなって、久しぶりに話すんだから、なにか他に言うことないの?

 私はあるわ。私は、昔どおり、ひさ君と話したいし遊びたい」


 涙を溜めて、一気に言ってくれた言葉には、ぐっと来てしまった。


「ひな、ごめんな。僕も昔みたいにひなたと話したいし遊びたい。それに、ひなのこと、僕は大好きだよ」


「ず、ずるいよ。せっかく我慢していたのに……」


 栗毛のふわふわした顔にある大きな瞳から、ポタポタと大粒の涙がこぼれ落ちて、僕のベッドのシーツを濡らす。でも、いま言わないといけないと思ったのは、シャルロットの時に自分に素直だったお陰だね。


 そのまま、ひなたを抱き寄せ、膝に乗せた。

 ひなたも抵抗するでもなく、そのまま身体を僕に預けてくれる。温かな体温を感じると、なぜか安心でしてしまう。

 ふわふわな髪の毛を撫でながら、じっと黒い大きな瞳を見つめ、泣き止むのを静かに待った。


「ひな、ただいま」


 そう言った途端、ひなたの顔は、泣き顔から、お日様のような笑顔になり、次の瞬間には顔を赤く染めていた。


 恥ずかしげに耳元に「ひさ君、おかえりなさい」と言うと、軽く頬に口づけをしてくれた。

 女の子からの口づけに必要な勇気はよくわかる。


 僕は愛しくて、ひなたをギュッと抱きしめながら、今度の人生を頑張ろうと心に誓った。

長いこと、ご愛読ありがとうございました。

本作は読書様のお陰により、なんとか完結できました。本当にありがとうございます。



2016、7、24 のののより、感謝を込めて!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ