第四話 ステータスオープン
「ステータスオープン」
心の中でそう唱えた瞬間、目の前に光が浮かんだ。
……出た。
文字が並んでいる。
まるでゲームのステータス画面のようだった。
ただ、俺はまだ赤ん坊だ。
目の前に浮かんでいるはずのそれを、実際にどうやって見ているのかはよく分からない。
まあ、魔法の世界だ。
そういうものなのだろう。
とりあえず、上から確認していく。
名前。
レン。
種族。
人族。
年齢。
0歳。
ここまでは分かる。
そして――。
体力。
4。
「……」
低い。
いや、低いのか?
基準が分からない。
そもそも俺は今、生まれたばかりの赤ん坊だ。
前世の三十五歳男性と比べてはいけない。
むしろ赤ん坊なら、こんなものなのかもしれない。
試しに手を握ってみる。
……弱い。
当然だ。
赤ん坊なのだから。
次。
魔力。
1200。
「…………」
これは。
どうなんだ?
やっぱり基準が分からない。
神様は魔力をかなり増やしてくれたようなことを言っていた。
だから、多分かなり高い。
でも、1200と言われても比較対象がない。
ゲームなら説明書に「一般人50」とか書いてあるんだけどな。
そんな便利なものはないらしい。
その下に表示されていたのは、二つのスキルだった。
言語理解。
鑑定。
……以上。
「…………」
俺は、しばらく画面を見つめた。
いや。
待て。
他には?
アイテムボックスは?
全属性魔法は?
身体強化は?
剣術の才能は?
病気への耐性は?
長寿は?
女性からモテるやつは?
……ない。
「意外ともらえてねえな、あのジジイ」
まあ、仕方ない。
神様も最後にはかなり困っていた。
あれだけ要求したんだ。
全部通るとは思っていなかった。
そもそも、魔力1200が本当にチート級なら、それだけでも十分だろう。
「魔力チートだけでも通ったなら、御の字か」
俺はそう納得した。
問題は――。
1200がどの程度なのか。
これを知る方法がある。
鑑定。
スキル一覧に表示されているということは、使えるはずだ。
俺は自分の意識を、部屋にいる父親へ向けた。
名前はレギオン。
俺を抱き上げている、十九歳の父親だ。
鑑定。
そう念じる。
すると、ステータスとは別の表示が浮かんだ。
レギオン。
人族。
十九歳。
体力――。
そして。
魔力――。
……二百五十。
「……二百五十?」
俺はもう一度、自分のステータスを見る。
魔力。
1200。
「……」
今度は母親。
ミレーユ。
十七歳。
魔力――二百三十。
なるほど。
どうやら、この世界の人間はこういう数字らしい。
もちろん、全員がそうだとは限らない。
父親も母親も貴族らしいし、一般人より魔力が高い可能性もある。
だが。
二人とも二百を超えている。
そして俺は――。
千二百。
「……俺、やばくない?」
思わず呟いた。
まあ、今の俺は赤ん坊なので、実際には「あぅ」としか聞こえない。
それでも俺自身は確信した。
これは、たぶん。
かなり凄い。
神様。
さっきはジジイ呼ばわりして悪かった。
魔力1200。
これは結構いいものをもらったらしい。
そして、ここで俺は改めて自分の状況を整理した。
まず。
俺には前世の記憶がある。
三十五年間、日本で生きてきた記憶。
会社員として働いていた経験。
人付き合い。
仕事の経験。
最低限の常識。
これはかなり大きい。
次に。
今の両親。
レギオンとミレーユ。
二人とも若い。
ものすごく若い。
俺の前世の会社の後輩より若い。
そして――。
美男美女だ。
これは重要だ。
俺自身の顔はまだ赤ん坊なので分からない。
だが、両親を見る限り。
少なくとも――。
「俺の容姿も、ちょっと期待できるんじゃないか?」
前世では、別に容姿に絶望していたわけじゃない。
普通。
たぶん普通。
ただ、今回は親がこの二人だ。
期待くらいしてもいいだろう。
さらに。
二人は貴族らしい。
詳しいことはまだ分からないが、生活に困っているようには見えない。
家の中には魔法を使った道具があり、暑さや寒さも魔法で調整できる。
風呂もある。
明かりもある。
つまり――。
金持ちっぽい。
少なくとも、前世の俺みたいに毎月給料を気にして生活する必要はなさそうだ。
しかも。
この世界では十六歳から成人。
貴族にとって、家を継ぎ、子供を増やしていくことは大切な役割らしい。
俺の両親もまだ十代なのに、俺が生まれている。
そして二人は――。
やたら仲がいい。
今日も俺を抱きながら、普通にキスしている。
……。
まあ、夫婦仲がいいのはいいことだ。
俺としても、家庭環境はかなり恵まれていると言っていい。
整理すると。
前世の記憶がある。
貴族の家に生まれた。
おそらく金にも困らない。
両親は美男美女。
魔力はどう考えても異常に高い。
そして俺は――。
まだ人生が始まったばかり。
「……」
ここまで考えて、俺はふと思った。
前世の俺。
三十五歳。
仕事は悪くなかった。
生活も、それなりに充実していた。
友達もいた。
高橋みたいな女友達もいた。
恋愛だって、まったく経験がなかったわけじゃない。
ただ。
結婚するところまでは行かなかった。
そんな俺が――。
もう一度、人生をやり直せる。
しかも今回は、かなり条件がいい。
「……だったら」
俺は考えた。
せっかくの二度目の人生だ。
前世と同じように、普通に生きるのも悪くない。
だが。
少しくらい、欲張ってもいいんじゃないか?
俺はまだ赤ん坊だ。
時間はたっぷりある。
そして――。
異世界。
剣と魔法。
貴族。
美男美女の両親。
高すぎる魔力。
ここまで条件が揃っているなら。
「……ハーレムくらいは、してみたいかな」
口に出すと、なんだか妙に現実味があった。
もちろん、無理やり誰かを従わせたいわけじゃない。
そんなのは違う。
せっかくなら、俺のことを好きになってくれた女の子たちと、仲良く暮らしたい。
一人に決めなきゃいけない理由もない。
……まあ。
そんな都合のいいことが、本当にできるのかは分からないけど。
でも。
せっかく生まれ変わったんだ。
ハーレムくらい、目指してみてもいいだろう。
そのために、まずは――。
赤ん坊を卒業しないとな。
俺は目の前のステータス画面を見つめながら、そんなことを考えていた




