第二十三話 消せるの?
落ち着きなさい。
ユーカリティーは、馬車の中で自分に言い聞かせていた。
私は王族。
何が起きても、取り乱してはいけない。
そう教えられてきた。
だから、今も冷静にしなくてはいけない。
……なのに。
頭の中は、さっきから疑問だらけだった。
あの子は何なの?
魔法をどうやって消したの?
そもそも魔法って消せるの?
魔法を消すって、なに?
……いや。
そこから分からない。
魔法は魔力を使って発動する。
それくらい、私だって知っている。
でも。
魔法そのものを消すなんて。
そんなこと、できるの?
それに――。
どうして、あんなに早く動けるの?
馬車から飛び出して。
私のところまで、一瞬で来て。
飛んできた魔法を消して。
……五歳。
あの子、五歳って言ってた。
五歳。
私と同じ。
……同じ?
「……」
ユーカリティーは、思わず頭を抱えた。
落ち着きなさい。
王女なんだから。
もっと冷静に考えなくては。
まず、襲撃について。
悪者に襲われるなんて、初めてだった。
怖かった。
魔法が自分に向かって飛んできたときは、本当にもう駄目だと思った。
でも、助かった。
レギオンという騎士。
そして、あの長髪の剣士。
二人が強いことは分かる。
特に、あの剣士。
動きが見えないくらい速かった。
あれだけ強い剣士なら、襲撃者たちを倒せたことにも納得できる。
でも――。
あの子は?
五歳の男の子。
どうして、あんなに速く動けたの?
どうして、私を助けられたの?
どうして、魔法を消せたの?
そして。
どうして――。
私と同じ五歳なの?
疑問が、次から次へと浮かんでくる。
考えても、答えは出ない。
「……あの子は、何者なの?」
ユーカリティーは、小さく呟いた。
*
ユーカリティー・フォン・アルヴェリア。
アルヴェリア王国の第三王女。
兄が三人。
姉が二人。
その下に生まれた、六番目の子供。
王位継承について考えるなら、かなり遠い位置にいる。
だからなのか。
両親からどれほど愛されているのか。
ユーカリティー自身には、よく分からなかった。
もちろん、何もしてもらえなかったわけではない。
衣食住に困ったことはない。
必要な教育も受けさせてもらっている。
けれど。
それが親としての愛情なのか。
王族として当然のことなのか。
五歳のユーカリティーには、まだ分からない。
今の彼女が一番頑張っているのは、淑女としての教育だった。
美しい姿勢。
きれいな言葉遣い。
食事の作法。
礼儀作法。
王族として恥ずかしくない振る舞い。
毎日のように教えられている。
少し難しいこともある。
でも、頑張っている。
いつか立派な淑女になるために。
そんな日々を過ごしていた。
今回も、少しだけ体調を崩したため、療養地でしばらく静養していた。
そして、王都へ戻る途中だった。
まさか。
その帰り道で、襲撃されるなんて。
*
王都の門が近づいてきた。
大きな門の前には、入場を待つ馬車が並んでいる。
レギオンたちが入場手続きをしている間、ユーカリティーは馬車の外へ出た。
少し離れたところに、あの男の子がいる。
「……ねえ」
ユーカリティーが声をかける。
レンが振り向いた。
「どうしました?」
「あの……」
聞いていいのだろうか。
でも、どうしても気になる。
「魔法って……消せるの?」
レンは、ものすごく不思議そうな顔をした。
「……?」
少し考えてから。
「出せるので……消せるかと……」
「…………」
ユーカリティーは、何も言えなかった。




