第二十一話 5歳
俺、五歳になりました。
背も少し伸びた。
以前と比べれば、言葉を噛むことも少なくなった。
前世では三十五歳だった俺にとって、子供の身体というのは意外と不便だった。
頭の中では普通に話せるのに、口がついてこない。
走りたくても、すぐに疲れる。
やりたいことがあっても、身体が追いつかない。
そんなことが、少しずつ減ってきている。
そして現在。
俺は王都へ向かう馬車の中にいる。
窓の外には、見慣れない景色が広がっていた。
辺境伯領を離れ、王都へ。
その理由は父さんだ。
父さん――レギオンが、王都の軍に抜擢された。
俺が災害級魔獣を倒したこと。
闇奴隷商人を見つけたこと。
……まあ、そのあたりの功績が、いろいろあって父さんの手柄になったらしい。
そして、その評価によって王都へ行くことになった。
正直。
俺としては、別に悪い気はしない。
父さんが評価されるなら、それでいい。
俺が五歳で、
『災害級魔獣を倒しました』
とか言われる方が、いろいろ面倒そうだし。
それに。
王都には、リカも来る。
来月から、王都の小学部に通うらしい。
だから俺たちと一緒に王都へ向かっている。
馬車の中には、リカとミカ。
そしてハボリムもいる。
なかなか賑やかな旅になっていた。
まあ。
王都へ行くことになったからといって、この数年が何もなかったわけじゃない。
俺は、この数年でかなり成長した。
まずは魔法。
リカと一緒に研究したり、実際に使ったり。
繰り返しているうちに、魔力の流れが以前よりもはっきり分かるようになった。
魔力をどこへ流すか。
どれくらいの速度で動かすか。
どこに集中させるか。
それが分かるようになったことで、魔法の発動速度も上がった。
精度も上がった。
威力も上がった。
そして。
俺の魔力量は、二千五百を超えた。
「……増えたなぁ」
思わず小さく呟く。
別に、何か特別なことをしたわけじゃない。
普通に生活して。
普通に魔法の練習をしていただけだ。
それなのに、少しずつ増えていく。
どこまで増えるんだろう。
ちょっと怖い。
まあ。
使える魔力が多いこと自体は悪くない。
今のところは、そう思っておこう。
そして。
剣の修行も順調だ。
ハボリムから教わっている。
ただし。
まだ本格的な剣技を教わっているわけではない。
今は五歳。
まずは体力をつけることが優先だ。
走る。
身体を動かす。
剣を振るための身体を作る。
そんな基礎的な訓練が中心になっている。
でも。
それだけじゃない。
父さんとハボリムは、よく模擬戦をしている。
俺は、それをよく見ていた。
もちろん。
普通の五歳児には見えないだろう。
でも俺には、魔力がある。
魔力を使って視力を強化すれば、二人の動きはかなりはっきり見える。
そして。
二人の身体には、魔力が流れている。
――身体強化。
以前から、そうじゃないかと思っていた。
身体の中に魔力を流す。
その瞬間。
動きが速くなる。
力が強くなる。
父さんとハボリムは、それを使っている。
だったら。
真似してみればいい。
ということで。
俺は二人の動きを、こっそり真似している。
足の運び。
身体の動かし方。
剣を振るときの姿勢。
そして、身体に流れる魔力。
見様見真似だ。
でも。
意外とできる。
特に身体強化は、何度も試しているうちに、かなり慣れてきた。
もちろん。
まだハボリムに正式に教わったわけじゃない。
だから、あまり大っぴらには使わない。
でも。
できることが増えるのは、素直に嬉しい。
そして。
ミカも成長している。
俺と一緒に、ハボリムから修行を受けている。
ミカは俺より二歳上。
今は七歳だ。
剣の技を本格的に習うには、まだ早い。
だから俺と同じように、まずは身体を作るところから。
それと同時に、専属使用人としての修行もしている。
最初に会った頃と比べると、できることはかなり増えた。
そして。
隠密のスキルも上がっている。
気づいたら、近くにいる。
後ろにいる。
どこにいたんだ、と思うこともある。
……便利そうなスキルだ。
そして。
リカ。
こちらも、かなり成長している。
魔力量は、二百を超えた。
父さんと母さんに次ぐ。
辺境伯領では、三番手の魔力量らしい。
……七歳なんだけど。
この前。
俺は見様見真似で、隷属の首輪を作ってみた。
以前見たものを思い出しながら。
魔力を使って。
それっぽいものを。
そして。
「リカ、これ壊せる?」
「うん」
壊した。
簡単に。
「……え?」
俺が作った首輪を見ながら、リカが首を傾げる。
「これ、壊しちゃ駄目だった?」
「いや。大丈夫」
大丈夫だけど。
簡単に壊した。
俺が作ったものを。
充分チートよね。
俺の魔力量が多すぎるせいで感覚が麻痺しているけど。
魔力量二百を超えた七歳児。
普通に考えれば、かなりおかしい。
そんなリカは、来月から王都の小学部に通う。
俺が通うのは、まだ先だ。
だから。
王都でも、今まで通り魔法の練習ができるかは分からない。
まあ。
学校が始まったばかりなら、忙しいだろうし。
そこは、そのとき考えればいい。
俺は五歳になった。
魔法の修行は順調。
剣の修行も順調。
身体強化も、見様見真似ながら少しずつ使えるようになってきた。
ミカもそばにいる。
リカも、充分すぎるほど強くなった。
そして。
俺たちは今、王都へ向かっている。
窓の外を見る。
少し離れた場所に、一台の馬車が見えた。
その周囲には、何人もの男がいる。
何かを叫んでいる。
そして。
剣を持っている。
「……あれ」
馬車が襲われてる。
俺は、しばらく前方を見つめた。
「…………」
……またテンプレだな。




