七話 雫
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平成二十七年八月十六日
怪異事務管理所
怪務局 副局長 雪零ナズナ
怪異事務管理所 特異物・特遺物研究資料
蓬莱セイカから出現した円環と、それから溶け出した雫について。
場所的怪異安定後の現場検証において、溶け出した雫を目視したところ、
既視感や安心感を覚える職員が多数。ごく一部の職員からは誰かの記憶が
頭の中に流れ込んできたという報告もあった。
第一目撃者の澪は、黒く粘性を帯びた液体状で、床に落ちると一瞬で蒸発
することもあれば、残留することもある。と証言した。
科学的な分析を行ったところ成分を特定することはできず。「怪異媒体
由来の未知物質」として厳重に保管することとする。
今回のきさらぎ駅派生型怪異での蓬莱セイカ疑似的覚醒状態(仮定)は、
蓬莱セイカの頭上に出現した円環から天使の怪異(仮名)の関与が疑われる。
だが蓬莱セイカと天使の怪異との関連性は、十分な証拠がないため断定
することはできない。
以上
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目が覚めると飾りけも何もない、白い壁の部屋のベットで横になっていることに気が付いた。
おそらくは怪異事務管理所に併設している病室だろう。
静かだ。今自分がいるベットの他にも7つベットがあるが、この部屋にいるのはセイカだけだからだ。
なぜ自分はここにいるんだろう?そう思いながら頭を巡らせる。
怪異と戦っているとき、急に意識を失ったことを思い出した。
「澪さんは…」
ガー!とスライド式の白いドアが開く。
そこには手を負傷している澪がいた。
急いでセイカに駆け寄る。
「セイカちゃん…大丈夫?」
「澪さんこそ…」
「いやまぁこれは…。あ、はいこれ」
りんごを1つ、手渡された。
「帰ったら食べて」
「はい」
数秒間の沈黙の後、セイカが切り出す。
「私どうなってましたか…?」
「ん…」
「なんか途中から記憶がなくて」
「怖かったよ」
「怖かった…?」
「急におかしくなっちゃって」
「…どんな風になってたんです?」
「なんか、怪異みたいな…」
澪は立ったまま俯いている。
光の問題かもしれないが、眼には涙を浮かべているようにも見えた。
「仲間が死ぬのは今まで結構見てきてるけど、慣れないもんだよ」
この言葉には澪の、さまざまな感情が入り混じって聞こえた。
悲しみ、怒り、憎しみ。そんなところだろうか。
これらの感情が怪異になったらどうなるのだろう。
「まぁ、死ぬのに慣れるっていうのも怖いけど…。とにかく、死ななくて本当に良かった」
「はい…」
「ナズナさんには今度会ったらお礼しないとね」
「あ、やっぱりナズナさん、助けてくれたんですか」
「あれ?覚えてるの」
「いや、夢でナズナさんを見たので、そんな感じがして」
「へぇ~…?」
澪の口角が少し上がる。
それは少し不気味でナズナさんの感じに少し似ていた。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとあってほしい人を思い浮かべてね」
「あってほしい人?」
「うん、ナズナさんに話しとおしとくね」
セイカが相槌をうつと澪は軽くうなずき病室を後にしていった。
高熱出して休んでいました。復活です。




