六話 虚構廃線(3)
所々蛍光灯がついている薄暗い改札だ。
横を見ると澪の瞳が震えている。
まるで人生最大のトラウマともう一度対面しているような。
そんな様子だった。
声にもならない声を出す澪にセイカは「大丈夫ですか?」と投げかける。
だが澪の震えは収まるどころか強まった。
「声が聞こえる…」
「…声?」
「優しく囁きかけてくる声が…」
セイカは声と聞き
『自分で言う音のことだろうか?』
この考えが真っ先に浮かび上がった。
「呪詛が紛れている…」
その時セイカにはあの音が聞こえていた。
嫌いだ。嫌だ。
聞きたくない。
だが今までの音とは少し違う感じがした。
まるで今から始まるような───
改札の蛍光灯が消え、電光掲示板が光る。
そしてまたあの鬱陶しいスレッドが流れ始めた。
「ああ!収まれ!」と思わず感情的になる澪。
そして人生を狂わせたあの音。
セイカはじりじりと、確実に追い詰められていった。
「あれ…」
澪が下にしていた目線をあげると何かがおかしかった。
何かを感じ取った。
だが、その何かを最初に感じ取ったのは澪でも、セイカでもない。
二人が気づくころにはもう空気が丸々入れ替わっていた。
入れ替わったように、セイカの様子がおかしくなっていった。
息ができているはずなのに、空気が体の内側に入ってこなかった。
手は動いている。だがそれが自分の手だという確信だけが少し遅れてきた。
逃げようとした、だが出来なかった。
逃げ場がなかった。
いや、逃げ場がない、というより『すでに逃げ終わっている場所に立たされている』という感覚だった。
セイカの体の中と外で何かが鳴り続ける。
それは音として聞こえているわけではない。ただ、聞き終わった後の静けさが聞こえていた。
───何かが外に出た。
セイカの意思とは無関係に。
彼女を通り抜けて。
その瞬間セイカの頭上に黒い液体が出現した。
液体には粘り気があった。
たまにボタボタと雫が落ちてくる。
地面に吸い込まれるように消えるものもあれば。
地面についた瞬間固形化するものもあった。
液体は徐々に円を形成していった。
だがそれは円形とは決していえない。
所々が途切れていたり、くぼんでいたりした。
不安定な存在で、なぜ存在できているのかもわからなかった。
「何…これ…」
澪はただただその形成される様子を見ていた。
普段ならそこで何か対処をする。
だがその時だけはなぜか動けなかった。
液体は澪に近づいてきた。
そして、触れた。
それで澪を襲ったの強烈な苦しみでもなければ、悲しみでもない。
強烈な既視感、そして何かの記憶が流れ込んできた。
澪は危険を顧みず、すぐさま固形となった液体を憶境界に放り投げた。
すると憶境界は安定したのか消えた。
「これはいけない」
澪は聞きなじみのある声に安堵した。
「ナズナ…さん」
「なんかすごいことになってるね」
「どうにか…してください」
「わかってるよ」
ナズナは何もないところで矢を番える仕草をする。
そして、放つ。
電光掲示板に矢のようなものが刺さった。




