第四十三話「玉座の決戦」
白金城——白金領の中心にして、犬飼忠範の支配の象徴。
義勇軍が城門前に到着したのは、夜が明けきる直前だった。月がわずかに空を照らし、重厚な門と高い城壁が不気味な影を落とす。
しかし、意外なことに、門は開かれていた。
「……罠、か?」
宗二が警戒を強める。
「けど、開いてる以上は……突っ込むしかないな」
晴仁が剣の柄に手をかける。
「忠範にはもう頼りになる家臣はいない。家臣の多くは城から出て、当の本人も逃げる姿を見られないよう最低限の者しか残していないのだろう」
雷堂が静かに言い切った。
「どこまで腐ってるんだ... 早く忠範を見つけなくては」
陣内が呆れた顔で言い放った。
「...それなら行こう」
朔也が前に出て、仲間たちに向かって頷いた。
「ここで終わらせる」
———
雷堂の指摘通り、城内にはわずかな兵しかおらず、戦意も薄い。忠範の圧政に嫌気がさした彼らは、朔也たち義勇軍に剣を向けることなく道を開けていった。
道を進むと、天守閣の手前でぶつぶつと声が聞こえてきた。
「..... 許さぬ...あやつは......」
「この声は、おそらく忠範だ。まだ残っているみたいだぞ!」
雷堂が声を上げ、全員で急いで向かった。
襖を開くと、そこには、漆黒の装束に身を包んだ忠範が老いた身体ながら、目には狂気にも似た光が宿っている。
「雷堂...!? 奴らは全員倒されたというのか」
「あぁ、お前の配下は全員倒してきた」
忠範は突如現れた朔也たちに狼狽しながらも、続けた。
「よくぞ来たな、雷堂... お前は先祖代々支えてきたというのに、なんという不届き者ぞ..! 決して許さぬ...」
「誰もお前なんぞに仕えてなどいないわ... 親父は白金領を守り、豊かにするためにお前たち犬飼家に仕えていた。決してお前みたいな無能に仕えていたわけではないぞ」
雷堂は冷静に返した。
「そうやって、貴様... ずっと我のことを馬鹿にしていたな。今までの恩をこのような仇で返してくるとはな...
...む。そちらの小僧は何度か伝令に上がっていた、神谷朔也か...? その見た目はもしやお前も何か特別な力を持っているのか」
「……さあな」
唐突な問いに朔也は若干の動揺をしながら、はぐらかした。
「なに、隠す必要はないぞ。おい、小僧... 我の配下にならないか?」
「...は?どういうことだ...」
「特別な力を持ち、雷堂が認めているのならばさぞ強いのだろう貴様。我が犬飼家の専属として雇ってやるぞ」
忠範は悪びれもせず、朔也に提案してきた。
「朔也、こいつはな... スキル持ちの存在を知ったが故に、異形の者をこの領から追い出そうと各地にお触れをだしていたこともあるんだ... 自分の保身のためにな」
「そうだとも。我を脅かしうる異形の血を引く者どもなどこの領地には不要なのだ。だがな、これもすべてこの白金領を治め、豊かにするためにしてきたのだ!」
忠範の声が響くたび、空気が震えるようだった。だが朔也は一歩も引かない。
「お前がそのような自分勝手な考えで、みんなを巻き込み苦しめていたことに気づいていなかったのか...?」
「何を言っておる... 城に毎年立派な作物などが献上されているぞ。民は豊かに暮らしているに決まっているだろ」
忠範の言葉に陣内、顔を顰めながらも茜も続いた。
「おい、俺たちはこの国を渡り歩いてきたが、この領地の荒み具合は酷いぞ。お前は何も見てこなかったのではないか?」
「領主様、貴方の行いで私は村から異形の見た目ゆえ追い出され、ひどい間にあってきました。それでも、この領地は豊かだというのですか?村も貧しく、子どもを十分に養うこともできていないのです」
「お、お前たち、無礼ぞ!我の領地に文句をつけるとは。たまたま、お前たちが見てきたものがおかしかったのだろう」
忠範は、聞き入れず、激昂した。
「そうか... 正しさを語るなら、まず目の前の現実を見てくれ。民は飢え、兵は疲弊し、城は崩れかけている。あんたが守ってきたのは、この玉座と自分の醜さだけだ」
「な、貴様も... そのようなことを言って良いのか?お前の村ごと潰してや..」
忠範が立ち上がろうとした瞬間——
———シャッ
—————— バタッ
一瞬の間に、雷堂が刀を抜き、忠範の首を落とした。
「朔也、お前が手を汚すことはないぞ」
「...雷堂さん」
唐突な出来事に驚き、朔也は倒れた忠範の体を見つめた。
「これで、終わりか...」
「……終わったんだ」
舞がぽつりと呟いた。
「終わった……忠範は、もういない」
朔也が頷く。
雷堂が一歩前に出て、かつて仕えていた玉座を一瞥し、静かに言った。
「これで、白金領の呪いも終わった。しかし、ここからが本番だ。俺たちは白金領 領主の犬飼を討ち、新たな領主となる。これから混乱するだろう白金領だけではなく、国や他領とも戦っていかねばならない...」
「ただ、これだけは言わせてくれ。今日この日を迎えられたのは、間違いなく朔也、お前たちのおかげだ!これからも長い戦いとなるが、共に最後までやり切らせてくれ」
雷堂はこれまでの感謝も込めて、朔也たちに頭を下げた。
「...もちろんだ、雷堂さん。俺たちは忠範を討つために戦っていたんじゃない。みんなが豊かに暮らしていけるようにしたいんだ!」
朔也が雷堂に、そして全員に向かって言った。
「もちろんだ」
「私も最後までお共します」
「雷堂さまについていきます」
「ああ!俺もやるぞ」
「俺たちも同じ気持ちだ」
「ガオッ」
各々が返事をしながら、シンも頷くように吠えた。
「ありがとう、みんな。雷堂さんもこれからもよろしくおねがいしますよ」
「ああ」
朔也は雷堂に手を差し伸べ、雷堂もその手を掴んで笑った。
やがて、東の空から日が昇り始める。新たな白金の夜明けが、そこにあった。
ここまでで第一部完になります。
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