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俺は自分の目を疑った。「死病」の発症、だと??大男の背中には翅とも触手ともつかぬ器官があり、それが門の前に立ちはだかる黒髪の女――アムルに向けて撃ち付けられている。
アムルはまだ持ちこたえているが、服は千々に破れ鮮血が滲んでいる。耐えられなくなるのも時間の問題に見えた。
幸いなことに、市川は既に階段奥の扉から逃げ出したようだった。多分、ジュリ・オ・イルシアを呼びに行ったのだろう。ここでもう少し足止めできれば、事態は逆転する。
俺は倒れ込みそうになる身体を必死にこらえ、大男へと向き直った。
「俺もいるぞ、この木偶の棒がっ!!!」
触手が鞭のようにしなってこちらに向かって来る。俺は跳躍してそれを避けた。べルディアとの戦闘で魔力は相当消耗している。これ以上「錬金術師の掌」を使えば、こちらが危うい。だが、ここが踏ん張りどころだ。
少し離れた所に倒れているべルディアを見ると、「ニィ」と嗤っていた。……これはトラブルではないのか?
「ベルディアァッッ!!!」
『べギル……頼んだぞ』
『御意っ!!!』と大男は叫ぶ。「死病」第二段階が発症しているにも関わらず、この男は正気を保っているように見えた。
見れば攻撃も無暗矢鱈ではなく、的確にアムルの急所を狙っている。こいつは、まさか……!?
「『慢性』かっ!!!」
再び太い触手がこちらに浴びせかけられる。回避動作が間に合わず、俺はガードの上からそれを受けた。とてつもなく重い衝撃に、俺は床を転がりながら吹っ飛んだ。
「ぐああっっ!!!?」
マズいっ。俺にはもう余力はない。本来なら奴の足場を崩して時間を稼ぐところだが、多分それをやると魔力欠乏症になる。頼みの綱の「滅魔の剣」も、王城の外だ。奴に対抗できる手段が何一つない。
アムルも限界が近付いている。相当な使い手なのは見て分かるが、しかしあのべギルとかいう男に対処できるほどじゃない。しかもべギルはあれでも手加減をしている。
恐らく、べギルはアムルが魔族だと知っているのだろう。魔族は死ぬと周辺を巻き込むような大規模の魔素汚染を引き起こす。だから、あの男はアムルが死なない程度に加減している。その程度の理性は持ち合わせているのだ。
べルディアがよろよろと身体を起こした。「滅魔の剣」によってつけられた傷は既に塞がっている。傷の性質を察知したのか、治癒魔法を使ったのだ。
「魂を燃やした」奴には残り魔力などほとんどないはずなのに、それでもなお動けるらしい。嫌な思い出が頭をよぎった。
『……形勢再逆転、と言ったところだな』
べルディアが俺に向けて言う。俺は激痛に耐えながら立ち上がろうとする。だが、ダメージはどうやら俺の方が深い。元々のスペック差も考えると……
絶望から、全身から冷たい汗が噴き出た。
べルディアは止めを刺そうとゆっくりとこちらに近付いてくる。……万事休すかっ!?
その時、王城入口に2人の人影が見えた。……あれはっ!!?
『させないっ!!!』
小柄の銀髪の少女が、ロッドからレーザーのような魔法を放つ。べルディアはそれを間一髪で避けた。
もう一人、大柄な男はべギルに対峙する。触手を何か防壁のようなもので弾くと、そのまま右手を向け魔力の矢を放つ。意表を突かれたのか、その直撃にべギルが『グオオオッ!!?』と咆哮した。
「町田っ、ノアッ!!?」
大柄な男——町田智弘は振り返るとニヤッと笑った。
「待たせたな。後は俺たちが何とかする」
そうだ。考えてみればさっきの会議にも参加表示のアイコンこそあれ彼らの発言はなかった。どうやってここまで辿り着いたのかは知らないが、とにかく彼らは加勢に来た。
そして、驚くべきは町田だ。魔力など全く持っていないように思えたこの男が、ノア・アルシエルと同格の魔力を持つに至っている。これは一体、どういうことだ?
俺の疑問をよそに、町田はべギルと、ノアはべルディアと対峙する。緊張感が一気に高まるのを感じた。
「それじゃ、ラウンド2と行こうか」




