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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件  作者: 藤原湖南
第15章 中華人民共和国日本大使館第一書記官 王成明
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15-7


「大分集まったな」


1階のホールには50人ほどの若い衆が集まっていた。上の階に待機させている連中込みで100人弱だ。全員得物は持っている。

まずは警察を潰す。そしてその足で六本木にいる大魔卿たちを襲う。奴らは強大だが、今の「俺」ならどうとでもなる。それだけの自信があった。


ふと左腕のパテック・フィリップを見る。時間は正午少し前か。この時間帯だとかなり人がいる。騒ぎにもなるだろうし、巻き添えで結構人も死ぬだろう。

だが、「俺」が奴らを殺し「英雄」となる現場を見る人間は多ければ多いほどいい。ピラミッド建設の裏に何万もの奴隷の死があるように、歴史的偉業に少々の犠牲はつきものなのだ。


「よし、良く聞けっ!!これより住菱会は……」


虎次郎が声を張り上げた、その時だ。



「♪アル・モーレンサー・ジュ・オルグラード……」



……外の街宣車から妙な歌が流れている。日本語??いや、そうじゃない。だが英語でもない。

最近増えてきたイスラム系か?それにしてはメロディが穏やかだ。心休まり、聞き入ってしまいたくなるような……



……いや、違う。これは歌じゃないっ!!!



「お前ら全員耳を塞げっっっ!!!」



「俺」の叫びは遅かった。皆戦意を喪失したかのように、うっとりとした表情のままその場でしゃがみこんでしまっている。

「俺」も意志を強くもたないと座り込んでしまいそうだ。心がそうなるように「強いられている」。



……あの中国人のガキが連れてきた女……エオラという奴の「魔法」かっ!!



だが、奴はドームの一件でしくじり、そのまま警察に捕まっていたはずだ。こんな所にいるはずがない。

じゃあ、この「歌声」は――歌声を一定時間聞いた者の行動を操作する「誘惑カイルペリア」は、誰の手によるものだ??


「俺」の困惑をよそに、ビルの玄関の自動ドアがすうと開いた。……こいつはっ!?



「猪狩、瞬……」



そうだ。ボクシングの最強王者で国民的英雄でもある猪狩だ。そういえば何故かこいつも町田と一緒にドームに来ていた。

そして、これも理由が分からないがこいつも魔法らしきものを使っていた。意味が全く分からないが、とにかくどうもこいつはイルシアに協力しているらしい。


猪狩は右手に手袋をパチンとはめた。そして無言で「俺」へと近付いてくる。


猛烈に嫌な予感がした。俺でも今のこいつの魔力が昨日より段違いに上がっているのは感じた。

どういうからくりかは分からないが、少なく見積もっても町田並みかそれ以上だろう。つまり……全力を出さないと、俺は死ぬ。


「……チッ」


「変態」で巨大化しようとしたが、それができないことにすぐに気付いた。建物を破壊しないことにはどうにもならないからだ。

別に上の階にいる組員やらはどうだっていい。ただ、「俺」へのダメージが少なからずある。本命の大魔卿戦が残っているのに、それは避けたい。


考えた結果、「俺」の取った選択は……



グバァッ



背中から翅が生える。メキメキッと骨格が変わる。数瞬にして異形の姿に変わった「俺」は、右の掌から魔力の弾を猪狩へと放った。

全魔力を解放していないが、それでも当たれば確実に死ぬ。恐らくはこいつを貫通して外の警察車両も破壊するはずだ。


奴は避けようともしない。……馬鹿め。



……だが、弾は奴に当たったかと思った瞬間に……「消えた」。文字通りだ。



そして猛烈な勢いで突っ込んできたかと思うと……



ボスンッ



「グエッ!!!?」



右脇腹に猛烈な痛みが走る。まるで抉られ消えてしまったかのようだ。

……いや、意識も一気に薄れる。このままじゃ、「俺」は……



意識が消えそうになる寸前で、俺は大きく後ろへと跳ねた。右手を脇腹にやる。……消えてはいない。

だが、あの消えそうになる感覚は本物だった。こいつ、一体何をした??


猪狩は呆けたように自分の左拳を見ている。逃げるなら今しかないっ!!!


「俺」は中途半端な「変態」のままエレベーターホールの壁を蹴破った。とにかく外だ。外に出ないと話にもならない。

そこから全魔力を「変態」に注ぎ込む。ドームの時からして、大体20mぐらいの大きさにはなれるはずだ。そうなれば猪狩瞬など恐れるに足らない。「俺」に勝てるものなどなくなる。



……本当にそうか??



疑念がよぎった。あの一撃は、恐らくは魔法だ。単に打撃が強かっただけなら、「変態」によって強化された「俺」の肉体はびくともしなかったはずだ。


だが魔法によるダメージなら、話が変わってくる。


どんな魔法なのかは「俺」には全く見当がつかない。ただ、「俺」の直感は「食らったら即座に致命傷」と告げていた。

だとしたら、全力を出してもなお危ういのでは?一刻も早く逃げることを優先すべきじゃないのか?


ビルの裏手に出て、俺は息を整える。


放っておけばまた奴が来る。まずは空だ。飛行魔法で一度体勢を立て直し、六本木に向かわねば。

「兵隊」がいない以上、対大魔卿の勝算はかなり減っている。だが、一か八かやらないといけない。もう後戻りはできないのだ。


飛行魔法で飛ぼうと空を見上げる。……そこにいたのは。



「ここにいましたか。探しましたよ」



糸目の男と、その隣にいる緑髪の女が「俺」を見下ろしていた。遠くて見えにくいが、女の目はどこか死んでいるようだ。


「……王成明か」


「裏切者は殺せ、それが我が家訓です。ですので、貴方には彼女の実験台になって頂きましょうか」


「……」


女を改めて見てゾッとした。



……こいつの魔力は……大魔卿並みだ。



しかし、どうして今まで存在に気付かなかった?いや、何かしらして隠していたのだ。そして、こいつらの狙いは……



女が少しだけ大きくなったように見えた。背中からは純白の天使の羽根が生えている。ゆっくりと上昇したそれは、無表情で住菱会ビルに右掌を向けた。



……そして。



パウッ



とてつもない密度の魔力のレーザーが、地表に向けて放たれた。




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