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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件  作者: 藤原湖南
第15章 中華人民共和国日本大使館第一書記官 王成明
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15-6


岩倉さんは「ううむ」と少し考えた後に「こちらからも2つ質問だ」と告げた。


「カメラがある以上はここでは変なことはできまい。魔法を使って彼を操る、ということもないな?」


『それは保証するわ』


「了解だ。もう一つ。1時間、2人きりにさせろということだが……何をするつもりだ」


『大魔卿と戦うつもりなんでしょ?正直、普通にやってたら無茶よ。今のままでは、サカガミにも勝てやしない。それに……大魔卿にはもう1人戦力がいる」


その言葉と同時に、彼女の顔が辛そうになった。


「どういうことですか。僕らの知らない、誰かがいると?」


『……ええ。べルディア隊長の奥さんよ。私も、彼女がこの世界に既に送り込まれてたなんて知らなかった……それも、あんな酷いことをされてたなんて』


「酷いこと」


彼女の目にまた涙が浮かんだ。意外と涙脆い人なのだろうか。


『……『同化法』を使われたのよ。隊長と奥さんの子供は……魔力体となって奥さんに吸収されてしまった。

そして、魔力が飽和状態になった彼女は……』


「……いつ暴発してもおかしくない、ということですか」


エオラが頷いた。


僕はノアさんの話を既に聞いていた。似たようなことをされてた人がもう一人いたとは……汗がぶわっと噴き出るのが分かった。

恐らくその人も、阪上のように怪物になれるのだろう。そんなのに対処できる人なんて、少なくとも近くにはいない。イルシアならいるのだろうけど、ここに来るまでにどれだけ時間がかかるのだろうか?


岩倉さんが「なるほどな」と呟いた。


「つまり君は、猪狩選手を彼らに対抗できるように強化できる、と言いたいわけだな」


『対抗できるかは分からない。ただ、少なくとも今より大分マシにはできる、かもしれない。

そのことを確かめたいのよ。1時間もあれば、結論は出せる』


「1時間……随分かかるもんだな。具体的に何をするんだ」


『……心配しないで。あなたたちの悪いようにはしない』


質問をはぐらかされた。岩倉さんが「どうする」と僕の方を向く。


僕はしばし考えた。確かに僕一人ではどうにかなる気がしない。

イルシアの状況がどうなっているかは分からないけど、もし来れるのなら町田さんなりノアさんなりが来ていたはずだ。


僕は少し息をついて「乗りましょう」と答えた。「分かった」と岩倉さんが席を立つ。


「5分だ。まずは話す時間をやる。その上で司法取引に乗るか決断してくれ」


『分かったわ』


岩倉さんと警察官が去り、部屋には僕らだけが残った。

エオラが僕の目をじっと見ている。しかし言葉は発しない。


「……話があるんじゃ、ないですか」


『……やはり』


また彼女が泣きそうになっている。情緒があまり安定していない人なのだろうか。


「どうかしたんですか?」


『やはりあなた……隊長の肉親、よね』


「……どうしてそれを」


『魔力の質がそっくりなの。……転生者であっても、肉親だと魔力は似るものなのね』


やはり気付いていたのか。僕を昨日攻撃しなかった理由が、これで確定した。


僕は「弟です」と切り出す。彼女が小さく頷いた。


「実は、あなたが僕が何者であるか気付いていると思っていました。そして、あなたが兄さんにどんな感情を抱いていたかも知ってます」


『……えっ』


「警察の人が、あなたの仲間を保護しているからです。彼女から、そんな話が」


『……プレシアね。彼女、無事なの』


「今は病院らしいです。心配しなくても、今回の件には絡んでないと聞いてます」


『そういうことね』とエオラがふっと笑った。


『要はあなた、私を説得しに来たってわけね』


「……正直に言えば。兄さんが生きてたらどう行動したか、あなたに訊いてみるつもりでした」


『……あの人なら、全力で大魔卿たちを止めてたと思うわ。だから、ペルジュードが少数精鋭かつ最短・最速距離でイルシアを落とす案を主張してたのだから。

無駄な殺しはしない、かつ守るべき人を絶対に守る……それがあの人の考え方だったから』


「……僕は兄さんのことを……少なくとも傭兵になってからのことを、よく知りません。ただ、誰かを守ることにはすごく拘ってた人でした。

あの震災で、僕らは無力だった。だからこそなのかもしれません」


『震災?』とエオラが意外そうな表情になった。僕は「それはまた時間がある時に」と苦笑する。


「とにかく、あなたの力を借りることが彼らを止めることに繋がります。取引、受けて頂けますか」


エオラは首を縦に振ると、『一つ、伝えなければいけないことがあるわ』と言う。


「何ですか」


『あなたの力を高めるということは……私とある種の『契約』を結ぶことでもある。それには危険と代償も伴うのよ。

私には4分の1だけ、魔族の血が流れてるわ。魔族は『契約』を介して、その対象の生命力を増幅する。同時に、契約対象の死は私の死も意味する。逆も然りなの』


「……生命を共有する、ということですね」


これに近い話は町田さんからも聞いている。町田さんの場合、そのせいでノアさんが大変なことになったと聞いた。


『ええ。基本的に……相性が良くない場合、契約は逆効果になるわ。

ただ、あなたは多分大丈夫だと思う。隊長と私との魔力は、かなり相性がよかったはずだから。ヴェスタじゃこうはいかなかった』


知らない人の名前が出てきたが、多分聞いても仕方ないことだろう。

そして、何故1時間もの時間が必要なのかも薄っすらと理解した。「契約」には、相応の時間が必要であるらしい。


僕は「少しだけ、考えさせてください」と目を閉じた。


「敵」とされてきた人物と生命を共有する、というのは流石に気が引けるものがある。ただ、彼女に嘘があるようにも思えなかった。


それに、正直に言えば……彼女は魅力的な人に見えた。恋愛どころか女性に関心すら示せなかった僕が、気持ち緊張する程度には。

一目惚れとかそういうのを信じる方ではないけど、自分のこの感情に名前を付けるなら……それは「恋」に近いのかもしれない。


考えた結果出てきたのは、「あなたはそれでいいんですか」という言葉だった。彼女は『勿論』と微笑む。


『良い魔術師の条件は、『勘が働く』ということなの。隊長は私を受け入れてくれなかったけど……あなたさえよければ、きっと上手くいくわ』


「……契約って、結婚とかそういうのじゃないですよね」


『……ある意味近いかもしれない。だから、あなたの意思が重要なの』


恋愛も何もしたことがない僕が、一足飛びに結婚とかまるで現実味がない。そもそも、僕は彼女のことを全く知らない。

この事態を打開するためとはいえ、それでいいのだろうか。


……決断の遅さは、致命傷に繋がる。

ボクシングにおいて重要なのは、反応速度と直感だ。僕はそれを信じることにした。


「分かりました。よろしく頼みます。で、契約とは具体的にどうすれば」


『まず、本当に魔力が噛み合うのかどうか試してみる必要があるわ。それはすぐ終わる。

本契約にはそれなりの時間が必要だけど……あなた、童貞?』


いきなり変なことを訊かれ、思わず「は?」と声が漏れた。だけど、エオラは真顔だ。


『真剣に訊いているの。戦いの前に、そういう気分になれないのは分かる。だけど、必要なことだから』


何を言っているのだろうか。ただ、選択肢はもうない。僕は「そうですけど」と告げた。


エオラの口の端が、少し上がった気がした。


『……そう。とりあえず、さっきの人を呼んでいいわ。それと、宿屋か何かを押さえて欲しいと伝えて。

大丈夫、あなたにとって悪いことにはならないから』


その時の僕は、その言葉に複数の意味があることに気付かなかった。



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