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「ど、どういうこと!?」


「わからない!」


 演奏開始早々、場内から驚きの声が上がる。


「3日前までまともに踊れていなかったのに!」


 演奏をする者。


「ど、どうなってるの……」


 パーティー参加者。そしてーー


「な、なんであの二人があんなに踊れているんだ!」


「わからないわ! まともな練習なんてできていないはずよ!」


 周りに聞こえないように会話をするノクトスとエルナ。そんな二人の視線は、


「本当に昔から目障りなヤツだ!オリヴィア!」


「本当に昔から忌々しい……ディック!」


 かつての婚約者へと向けられていた。




◇◇◇




「お前、一人でこっそり練習してたな!」


「ふふふ、どう! 驚いた!」


 オリヴィアは、イタズラが成功して嬉しそうにする子供のように無邪気な笑顔を浮かべ、ディックを見る。


「そりゃ驚くわ! 俺がリードしてなんとか踊れていたヤツが、逆に俺をリードしようとしてんだから」


「立ち位置変わってあげても良くてよ?」


 本来ならオリヴィアがディックの腕に合わせてクルクルと回るパートなのだが、


「ちょ! ここはお前が回るところだろ!」


「あはは! いいじゃない! 楽しみましょう!」


 無邪気に笑い、男性パートを踊るオリヴィアのリードに合わせて、ディックが華麗に回る。


「たく……しょうがねえな!」


 ディックは女性パートの山場である片足を挙げて、パートナーに背を預けるポーズを取る。


「お、重い……」


「あらあら。そんなことじゃリードはつとまらないんじゃなくて?」


 上げた足をゆっくりとおろし、それに合わせて上体を起こすディックは、引きつった笑顔のオリヴィアを挑発する。


「な、舐めないで!」


 白い歯を食いしばり、なんとかディックを立たせる。


「やるじゃない。さすがはオリヴィア閣下」


 妖艶に笑うディックは、オリヴィアの細く白い繊細な指先と自身の筋肉張った太い指を絡める。


「気色悪いのでいつもの口調に戻してくださいませんか?ディック侯爵夫人」


 令嬢になり切るディックに、青い顔のオリヴィアがそう懇願する。


「……しょうがねえな。なら、交代だ」


「ええ、その方がいいわ。いつもより疲れた……」


 と、口では言いつつも、まだまだ余力の残っているオリヴィアとディックは、より一層激しく踊り、見るもの全てを魅了していく。


「ぜぇ……ぜぇ……」


「ハッ……ハッ……」


 演奏が始まって8分、限界を迎えたものたちが、会場の端に用意されたイスへとはけていき残されたのは、オリヴィアとディック、ノクトスとエルナの2ペアのみ。


「く、くそ!」


「ま、負けないわよ!」


 ノクトスとエルナは、オリヴィアたちへ怨嗟のこもった視線を向ける。のだが、向けられた当人たちはーー


「あっ! 今の所は私がリードしようと思っていたのに! ずるい!」


「はぁ! お前が疲れたっていうから変わってやったんだろうが!」


 他のことなど眼中になかった。あるのはただ、


「次は変わりなさいよ!」


「へ! やなこった!」


「ぐっ.......絶対に変われえ!」


「やだよー」


 このダンスパーティーを楽しむこと。それだけ。


「ゼッ……ゼッ」


「ヒュー……ヒュー」


 そんな二人とは対照的に、どんどん顔色が悪くなっていくノクトスとエルナは、それでもなんとか踊り続けていた。そして、演奏も残りわずか。


「ゼッ、ヒュッ!」


「ヒュッ!」


 ノクトスとエルナが床へと倒れ始め、


「はい!」


 顔が激突した瞬間に演奏が終わった。


「え……もう終わり!」


「ええ!もっと踊らせろよ!」


 二人の叫び声が場内にこだました。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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