表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/24

1 ~序章その1~

初めて小説を書いてみました。よろしくお願いいたします。2020/10/13

 私はアリス・アリーヌ。不老不死の魔女だ。

 二百年前に竜の血を浴びて、不老不死となった。

 不老不死の証として、髪と目が赤い。赤髪、紅瞳は不死の呪いの証でもある。


 今は薬草を栽培して、それを売って生計を立てている。といっても、ほとんど魔法を使って栽培しているので、私がやることは朝起きて魔法の杖を一振りする程度のことだけだ。ほかに大した労働もしていないので、自分としては無職みたいなものだと思っている。

 かつては魔法で身を立てたこともあったが、魔法を使って活躍すれば、やりたくもない仕事を受けなければならなくなる。要人の護衛、暗殺、戦争、そんなもののために私の魔法が使われるのは嫌だったので、今は世捨て人となり日々をのんびりと生きている。


 ここは、リイヨン王国の南西部地中海沿岸にあるエウースという小さい街だ。その隅っこの丘の上に私は家を構えている。丘には緑の芝生が生えていて、花畑もある。最初にこの丘に来たときは、木が一本も生えていない死んだ土地だった。私が長い間かけてここまできれいな丘にしたのだ。今では丘の周りも見渡す限りの草原となっており、生命力にあふれたよい土地となった。魔法の力を借りれば、私一人でもこれくらいのことはできる。

 この街に来たとき、街の人たちは魔女である私のことを少し怖がっていたようだが、毎日薬草を売りに街に出て、丘をきれいにするようになってからは少しずつ受け入れてくれるようになった。私が今住んでいる家も、最初は壁に穴が空いているようなあばら家を補修した程度のものだったが、いつしか街の人たちが協力して立派なレンガ造りの家になった。私はそのお礼にときどき医者の真似事のようなこともしている。魔法で何でも治せるわけではないが、相当重い病気でもない限りはなんとかなる。怪我は『ヒール』の魔法で治せるし、呪いの類も強力でなければその場で取り除ける。

 最近では、私のことを魔女ではなく、聖女と呼ぶ人もいる。恥ずかしいからやめてほしいと言っているのだが、街の人たちに笑顔でそう言われると強く否定をしづらくって笑って誤魔化している。


 さあ、今日は久しぶりに薬草を街に持っていこう。

 私は大きめのリュックに薬草を詰めて、家を出た。外に出ると、まだ午前中だと言うのに日差しが強く、一瞬でじわっと汗が出てきたのを感じる。


「暑くなってきたわねぇ。あっ、そうだ。帽子を忘れるところだった」


 私は家の中に帽子を取りに戻った。

 う~ん。せっかく街に行くんだから、農作業用の麦わら帽子じゃなくて、ちょっとおしゃれな白くて大きめの帽子にしよう。最近は聖女様なんて言われることもあるから、イメージを大切にしたい。恥ずかしいなんて思いながらも、まんざらでもない自分がいるのだ。そんな自分に苦笑しながら、再び家を出た。


「私って、まだ承認欲求とかあったんだなぁ」


 街への道のりはちょっと長い。歩いて一時間はかかると思う。街に着くころには汗でべたべたになっていることだろう。どこかで涼みながら、汗をおさえつつ向かおう。


 そんなことを思いながら、のこのこと歩き始めた。あたたかい太陽の光に照らされた芝生が気持ちよさそうに輝いている。私はその芝生を踏みしめながら丘を降りて街へと向かった。





 街へ向かう途中、喫茶店があったので立ち寄った。店の中に入ると涼しかった。


「いらっしゃい。アリスちゃん。久しぶりねえ」


 店に入って、帽子を取り窓際の席に着くと、店主であるクロエさんが声をかけてくれた。クロエさんは、私の行きつけであるこの喫茶店の二代目の店主だ。私は先代の店主のときからこのお店をよく利用していた。そのころはクロエさんはまだ十歳くらいで、店主である父親と一緒にこのお店を切り盛りしていた。

 先代が亡くなってから、もう十年たった。

 クロエさんはまだおばさんという歳ではないが、私のことをいつしかちゃん付けで呼ぶようになっていた。私の見た目が変わっていないせいで、なんだか私のほうが年下みたいな扱いをされている。だからといって、それが不快というわけではない。私とクロエさんの仲だから、そのあたりは別に適当でよいのだ。


「お久しぶりです。クロエさん。お店の中、涼しいですね。どうしたんですか」


「ふふふ。ちょっと奮発してね。冷房機をお店につけたんだよ。どうだい、快適だろう」


「ええ、本当に快適! 外は暑かったから、……あ~生き返る」


「薬草を売りに行くところかい? ご苦労様だね」


「はい。重たくて面倒ですけど、唯一の収入源ですから」


「アリスちゃんの薬草は質がいいって評判だよ。もっとお金貰えばいいのに」


「いや~。この街に住まわせてもらっているだけで、有り難いですよ。それに、お金は生きていくのに必要なだけあれば十分ですから」


「謙虚だねぇ。さすがは聖女様!」


「やめてくださいよぉ~。クロエさんまで、聖女様だなんて……」


 私は恥ずかしくってメニュー表で顔を隠した。


 それにしても、冷房がよく効いている。

 最近、王都で開発された冷房機が売られているという噂は聞いていた。それが、こんな田舎の喫茶店にまで普及しているということは、この冷房機はかなり評判がいいようだ。クロエさんは魔法使いではないから、これは魔石を動力源として動いているのだろう。だが、実際に涼しい空気を生み出しているのは魔法や魔石の力ではなく、科学の力だ。

 なんでも現在は、王都で魔法に次いで、科学の研究が盛んになってきているらしく、最近では特に熱力学の分野でめざましい進歩があったという。

 私も科学に興味があったので、熱力学の本はよく読んでいる。冷却装置の理論的な仕組みは理解できたが、それを実際に再現するには精密な部品を生み出す必要があり、そのためには高度な製鉄の技術がいる。熱力学の理論的な進歩にも目を見張るものがあるが、それだけではなく、技術的な問題をクリアーするだけの工業力の高さにも驚いた。

 私が田舎でのんびり暮らしている間にも、世界はどんどん進化していっている。もしかすると、魔法が時代遅れだと言われるときが来るのかもしれない。

 もちろん、まだまだ先のことではあると思うが……。


 私は冷たい紅茶を飲みながら、クロエさんから最近の街の様子についていろいろと話してもらった。


「それでね。ポールさんからもらったのよ。この刺繍の入ったハンカチを!」


「え~。それポールさん、絶対にクロエさんのこと狙ってますよ~」


「いやだぁ。こんなおばさんにも、まだロマンスがあるってのかい」


「これから街に行って、ポールさんにも会いますから、聞いておきますよ。クロエさんへの気持ちをね! うふふ」


「ちょっとやめておくれよ。いい歳こいて愛だの恋だのって恥ずかしいじゃないか」


「まんざらでもないでしょう? ちょっと探りを入れるだけだから。ねっ」


「敵わないねぇ。アリスお姉さまには」


 そうこう話しているうちに、お昼になりそうだ。今日は街で買い物もしたいから、午後一でこの薬草を届けなければならない。


「じゃあ。クロエさん。また帰りに寄るからね」


「気をつけて行っといで。待ってるからね。……あと、探りは本当にちょっとでいいからね!」


 クロエさんは恥ずかしそうにポールさんの件を付け加えた。

 クロエさんは早くに旦那さんを亡くした。以来、一人でお店を切り盛りしている。もう十分に苦労したのだから、新しい旦那さんをもらってもいいのに、ずっと独り身だった。このままずっと独り身かと思っていたが、ヴィーラの街から引っ越してきたポールさんが数か月前にお店にやってきてから、事態は急展開を迎えている。

 ポールさんは一週間に一度はこの喫茶店にやってきて、数時間もクロエさんとお喋りしていくのだ。それも毎回。もしかして、とは私も思っていたが、クロエさんの誕生日に刺繍入りのハンカチまで送ってくるとは、どうやらポールさんの気持ちはだいぶ盛り上がっているようだ。

 ここで、私がポールさんに「クロエさんもまんざらでもない」というようなことを言ってあげれば、いいアシストになるだろう。クロエさんには余計なことをするなと言われているが、二人の仲はもう一押しというところまで来ているのだ。お節介を焼きたくなるのも仕方がないというものだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ