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勇者の血を継ぐ者  作者: エコマスク
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【5話】 勇者リリアの待遇

ディルにこれからの説明を受けながら、王宮を歩くリリア。ディルの話は半分も頭に入ってきているだろうか。装飾された天井、廊下、柱、全てに圧倒される。口にすら出さないものの思わず珍しがって口を開けて眺めてしまう。気に食わないのは、メイドは表情に出さないが、威張って歩いている男性はリリアを好奇と男性特有の目線で、フワフワヒラヒラドレスの女性は場違いな異物を見るような視線を通りすがりに送ってくる。複雑な思いで歩いているとディルが言った。

「リリア様、リリア、聞いているのですか?」ディルはマナーや態度には神経質だ。

「え、えぇ、聞いてるわよ」

「ふぅ、ですから、明日には宿をご自分で確保してください」淡々とディル言う。

「え?!ち、ちょっと私、宿無いの?」驚くリリア。

「はい、室長の説明にもありましたが残念ながら今回から、王国では勇者様の宿も、生活費も面倒みない決定となっています」

室長の話も要点を得られず長かったし、不慣れな王宮で、右往左往させられたリリアは神経ばかりすり減ってほとんど何がどうなるのか理解出来ていなかった。

「生活費?は、ともかく、寝る場所もないの?おかしくない?私一応国級の剣客なんでしょ?」村に帰るならギルド生活の夢が遠のく。リリアは声を高くして言った。

「リリア様、王宮内ではお声を小さく。室長も私も何度も同じような事をご説明させていただいております」周りの目をやたら気にしているディル。そして続ける。

「前の勇者様が、勇者だ勇者だと言って、粗暴を繰り返すので、国民からかなり苦情が出まして、もう勇者に税金を使わないよう訴えが多かったんです。それが王国議会でも通りまして…」

「自称している輩なんていっぱいいるんでしょ?なんでそんな特定できるの?」リリアには納得いかない。しばらくはルーダリアへの滞在を強要しているのに、宿が無いだの、勇者の血を継ぐ者であっても、信用の無い者は王宮の部屋は使えないだの、扱いが乱暴過ぎている。指摘すると、私は決定したことをお伝えしているだけですと淡々と語るディルの態度がリリアにはまた腹立たしく思えた。

「それが以前までは、王国でお迎えしている勇者様には家紋のブレスレットを着用していただいていましたので。それに事あるごとに式典に同席されていた関係で顔は通っておりました。」

「ブレスレット?もらってないわよ」ブレスレット等欲しいとも思わないが扱いの違いにリリアは腹を立てる。そもそもそれとリリア自身の信用と何の関係があるのだろうか。

「リリア、大丈夫ですか?何も聞いてないではないですか」ちょっと不機嫌なディル。

「いいですか、今回は祝典も無し、専用の寝室も無し、生活費も無し、ブレスレットも真紅のマントも家紋の盾も一切無しなんです。専用の宿や寝室を用意するだけで、メイドも複数名必要になりますし、生活費は酒、女、賭け事に使う。それだけならまだしも前借なんて当たり前、王家の防具を身につければ名乗りを上げて狼藉三昧、質に入れて女性に貢輩だって出る始末。有事の時は国の精鋭が軍事行動します。勇者一人でなんとかなる事なんか一つもない!」ディルにしては興奮して一気にしゃべっていたがここまで言うとうかがうようにリリアを見た。リリアは足止めて唇を噛みしめながら高い天井見ている。ディルにはリリアは珍しがって天井を眺めている程度にしか思っていない。やれやれといった風に夕方になりつつある外に目をやりながらディルは小声で続ける。

「昔の勇者は王がご用意を申し出ても、お断りになってご自分で生活され、次々と国の問題を解決し、国民に敬愛を受けていたそうです。リリア…様だって村からご招待に預かっただけでもご自分の幸運に…」

そこまで言ってリリアを見たディルは、リリアの形相に驚いて続きの言葉を飲み込んだ。

真っすぐにディルを見据える目は涙と怒りに満ちあふれ、噛みしめた唇細かく震え、今にも自らを食いちぎらんばかりだった。

「あ… いや… す、少し言葉を…」狼狽して絞り出すようにディルがかすれた声をだす。

リリアが怒りに任せて手を上げる。

「うっ…」とっさに肩をすぼめるディル。リリアも理性がちょっと働いたのか振り上げた右手が一瞬とまったが、

“パッチン!”顔に大きな衝撃を受けたディル。

「よーーくわかった。あなたも、国も、バカにするにも程があるは!!皆でよってたかって自分たちの為に勇者の子孫を担ぎ上げて、心の中ではバカにして、他はどうだか知らないけどねぇ、私の両親も祖父母も、代々尊敬に値する立派な人間だったのよ。あんた達よりよっぽど立派な人達だったんだから!安心してよ、もう二度と来ない、関わらない、消えてあげるからほっといて」そう大きくはないが、はっきりと言い切るリリアの声はディルの耳に突き刺さるようだった。

衛兵二人が騒ぎを聞きつけてリリアを押さえ、一人は腕を後ろにネジ上げ、一人は髪をつかみ上げた。

「ッぐ… ぅ…」痛みに低く喉をならすリリアだが、抵抗もせず、乱れた髪の下から怒りに満ちた目でディルの顔を捉えて離さなかった。ディルは自分の眉間を剣で突き抜かれたように感じ、目を伏せるしかなかった。

「無礼だぞ、小娘ごときが!暴行と国王侮辱の罪で鎖に繋ぐぞ!!」

「よいのだ。本当に、本当によいのだ!!小官の非礼だ。 本当によいんだ、放してやってくれ。行かせてやってくれ。」ディルは必死にそう言うのがやっとだった。


衛兵は、不満そうにだがリリアを放した。

リリアはその間一言も発せず、目に涙を浮かべてディルを真っすぐ睨んでいるばかりで、ディルにはその眼差しに目線を合わす事さへ出来なかった。

「おい、小娘。今度やったら鎖に繋ぐ前にオーガの群れの牢で発狂するまで相手をさせてやるぞ。覚えておけ」

リリアはそれを聞いてか聞かずかディルにもう一度強い視線を向けると、王宮を城外にむかって足早に消えていった。


「薄汚いなりの淫売が…」衛兵の一人がそう言うと汚い物でも振り払うかのように手の中に残っていたリリアの長髪を振り払った。

ディルハンはそれを聞きながら打たれた頬に手をやったが、痛みの元はそこではなく、もっと体の奥底からのようだった。


夕日が山まで傾き、お城の廊下の壁に濃い影を作っていた。


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